さくま先生のこと

先日、ちょっとしたことがあって、20年以上ぶりにさくまあきら先生に挨拶させていただく機会があった。
もう本当に不肖の弟子筋(と勝手に思わせていただいております)として挨拶させていただいて、心の底から嬉しかった。

さくま先生は、僕にとってもうどれだけお礼を言っても言い足りない本当の恩人にして先生と言える方だ。

1989年初頭、さくま先生(と桝田さん)は、どういう気まぐれだったのか、今でも不思議なのだけど『凄ノ王伝説』を僕の目の前でどんちゃん(と正確にはもう一人いたのだけど、まあどんちゃんで代表させておいて大丈夫なので、どんちゃんと書いておく)にプレイさせてくださった。

時期は、確か『凄ノ王伝説』のマスター前後だったと記憶している。ファルコムに行ったあとだったかは覚えていないのだけど『イースⅠ・Ⅱ』を(ファルコムがOKと言えば)やることは決まっていたと思う。

目の前で繰り広げられたどんちゃんのプレイは衝撃的だった。
自分の頭の中にあった「『凄ノ王伝説』をこうプレイしてくれるに違いない」という勝手な思い込みを粉みじんにする、正直「どうしてそうなる」と怒鳴りたくなるような、とんでもないプレイだった。

そして、さくま先生に「どれだけ腹が立っても黙って後ろで見ていなさい」と厳命されていたので、死にそうな気持になって、そのプレイを眺めることになった。

ちゃんと最初に南に行けと言っているはずなのに、そんな情報、街中にいるうちにすっかり忘れ「北になんかある」って情報だけを覚え、いざ外に出て、北に歩いて「あっ 洞窟がある」で中に入り、もちろんうまく戦闘できずたちまち死んで「あっ、死んだ」

唖然としている僕にさくま先生は「ジャンプ600万に代表される一般的なお客さんとは、このような人たちである」と明快に断言し、そのうえで、なぜ、どんちゃんはこのようなプレイをするのか、その問題をどう解決しなければならないかということを、今から考えたら、信じがたいほど豪華で、しかも実践的な個人向けの授業で教えて下さった。

そのショックたるや、いまだ忘れられないどころか、一生絶対に忘れられない出来事で、本当にさくま先生にあの時教えていただけなかったら『イースⅠ・Ⅱ』は決してああはならなかったし、もっと独りよがりなダメな作品になっていたと思う。

そしてもちろん『天外Ⅱ』につながることも、そのあとの自分のゲームの作り手のとしての人生もなく、仮にゲームを作っていたとしても、今でも「俺のこのゲームをわからないのはユーザーが悪い」だの「売れないのは営業のせいだ」だのと嘯くような、傲慢な作り手になっていたと思う。

「自分が面白いと思うことをユーザーにゲームを通じて伝えなければならない、つまり(想定した)ユーザーに面白さが伝わるようにゲームは作らなければいけない」という、このとても単純ながら難しいコトを30年忘れないように教えてくださったのは疑いもなく、さくま先生であり、だから、本当に僕にとってさくま先生は恩人であり、どれだけお礼を言っても言い足りない一生の先生なのである。

これからもお元気で、長くゲームを作っていただきたいと思っている。

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1件のコメント

  • 電ファミニコゲーマーのさくまさん・桝田さんインタビューでも、どんちゃんの話は言及されていますね。
    https://news.denfaminicogamer.jp/projectbook/momotetsu

    「普通の人の感覚」を理解することの重要性と実践は任天堂の宮本茂さんもセガ時代の鈴木裕さんもいろいろな形でやられていますが、何らかの形で残って欲しいですね。

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