ゲームデザインプロフェッショナルを読んだ
ここゲームデザインのプロになろうとする人や、プロになりたての人にいい本を読んだのでちょっと紹介したい。
ただしこの本は「ゲームデザインという仕事を理屈だって説明して、このようなプロセスで仕事をしていきましょう、このように考えていきましょう」という内容で、FGOの企画書だの戦闘はこんなこと考えただのといった、一般読者が期待していそうなことは一切載っていない。
なので、そういう本を読みたい人には全くお勧めしない。
また、良い本ではあるけれど、いろいろな理由で付け加わっていると思われる章が本としてはノイズになっている。
ストレートに書けば、chapter 1は飛ばして、2-3-4-5と読んだら、あとは無視して構わない。
本当に大事なのはchapter 3-4と断言しておく。
ただchapter 3-4 はお金を払う価値がある内容だ。
この本の重要な内容をかいつまんで説明すると以下になる。
- ゴール(“main pillar”)を決めましょう
- ゴールに沿ってアイディアを出しましょう。
- ゴールとメカニクスの関係を構造にしておきましょう。
- ゴールに沿わないアイディアは捨てましょう。
- ゴールに沿って要件を設定し、発注しましょう。
- 実装するとき、相手がわかるように説明ましょう。
- 競争相手との比較はこんな風にやりましょう。
- 開発時には複数のシナリオを持ちましょう。
- 開発時の調整などでは、ゴールに沿って物事を決めましょう。
ほぼ、なんの具体例もなく上のプロセスを説明する本なので、非常に抽象的な内容だ。
だから初学者にはピンとこない本の可能性が高いので、初学者にはお勧めしない。
プランナー(僕の嫌いな言葉だが)として仕事を始めたんだけど、どうにも指針や仕事のやり方がフワっとしているなあみたいな若い人が読んで頭の中を整理するうえで役に立つ本だと思う。
本当は初学者にも役に立つのだけど、役に立てるためには先生が必要だと思う。
さて。
上でいう「ゴール」は「そのゲームで最終的に何を表現したいか」で、競争のゴールなどとは違うのに気を付けてほしいのだけど、ともかく「ゲームをデザインするときはゴールから作れ」という話だ。
そしてゴールから作れという話は全く正しい。
リードゲームデザイナーなり、もしくは一定以上の責任をもってゲームデザインするとき”main pillar”(ゴール)を決めずにゲームデザインするなんてあり得ない。
一番最初に考えるのは間違いなく”main pillar”だ。
どうしてここで「ゴール」ではなく”main pillar”と表現するのかというと、自分が今まで海外の連中と仕事をしているとき、この本で書かれている「ゴール」(high level goal)は”game concept”とか”game theme”とか”product main pillar”とか様々な表現をされているのだけど、その中で、この本で言っている「ゴール」は”main pillar”もしくは”pillar”に一番近いと感じたからだ。
pillarは「柱」という意味。だからmain pillarだと主な柱になる
「ゲームコンセプト」や「テーマ」になると
- The game will bear the Gangstar brand, but will feature concepts and style from gangs all around the world
(ゲームはGangstarって名前です。世界中のギャングのコンセプトやスタイルを取り入れます) - Start your own shoe store and become the most famous shoe store in the world!
(あなたの靴屋さんを開業して、世界で一番有名な靴屋になりましょう)
上ぐらいまで枠が大きくなってしまう(どちらも実在するpitchから取り出してきた”game concept”である)。
これになるとゲームデザイナーの領域なのか? と言われると微妙で、リードゲームデザイナーが本当のゼロからスタートするような企画会議に参加して、影響を与えられるかな? というぐらいの話になってしまう。
そして困ったことに、この本では「ここにはゲームデザイナーは関わらない」と書いているにも関わらず、ゴールはワリとコレに近いことを書いてしまっていて、少々定義がふらついている。
だけど、一番重要と思われるchapter 3-4では、ゴールは”pillar”に近いと感じたので、ここでは自分が読んで、最も近いと感じた”pillar”という単語に置き換えて説明していきたい。
では”pillar”とはなんなのか?
「あるゲームの要素を支える柱(群)」ってことになる。
こういう時は単純なゲームがわかりやすいので、古典的な『天外魔境Ⅱ』の対面型バトルを考えてみよう。
まずピラーを立てるときは、少数の絶対にぶらしてはいけないピラーを考える。
- ドラクエ型の対面ターンバトル
- レベルを上げれば、必ず敵を倒せる。
- 工夫すると低レベルでも倒せる。
こんな風にピラーを立てて、これは絶対にいじらない(いじれない)と決める。
一番最初のpillarはどちらかというとハドソン側のオーダーで、僕が変えたくても変えようもなかったし、2番目も誰にでも解けるゲームであることを考えれば絶対に必須なのだけど、それはさておき、このようにピラーを立てる。
そしてこのピラーに適した要素を考えていく。
例えば誰でも確実にレベルが上がるので、コンティニュー型は望ましくない。(セーブすると、セーブポイントからのやり直しになるので、リソースを失うからクリア保証度が下がる)
ゲームサイズが大きいので、当時の常識だった金が半分になるペナルティはなくす、てな具合だ
例えば工夫すると低レベルで倒せるようにするために、かかっている間は極めて強力な魔法(術)やスキルを用意する。
と、ピラーに適した要素を考える。
さらにピラーに適していない要素はそれがどんだけ、素晴らしくても捨てる。
ここらへんはCEDEC 2015で出ていた以下の記事でもちょっと読んでイメージして欲しい。
と、”pillar”に単語を変えたけれど、上の概略で示したように”pillar”を立てて、それに従ってゲームデザインをしていく技術について書かれている本だ。
この本に書かれている「ゴールを決めろ」、「ゴールに沿え」、「ゴールをぶらすな」といった一連の技術は、ゲームデザインをするうえでは絶対のルールであり技術だと思うのだけど、なぜか日本では曖昧にしか教えられていないことが多い。
しかも現場でも謎の力関係で明らかに不合理なゲームデザインが通る馬鹿らしいことを何度も見ていて、全く困ったものだと思っていたので、それがこうして比較的簡単に読める薄い本にしっかり書かれているのはありがたいと思ったのであった。