音ゲーが登場した瞬間

突然、ちょっとしたエピソードを残しておきたくなった。

「近代音ゲー」が登場した瞬間をいつかといえば、間違いなく『パラッパー・ザ・ラッパー(1996/PS1/SCE)』が登場した瞬間。あの時まで、音ゲーなんてジャンルは存在していなかった(ちなみに最初は「リズムゲー」と呼ばれていた)。

もちろんコンピュータゲームにはサウンドがついているものなのでゲームの中で音がキーになってるゲームはいろいろあった。
例えば『ジーザス(1987/PC-88SR/ENIX)』がそうだし、あのルーカスアーツの、あのブライアン・モリアーティが作った『LOOM(1990 /PC-AT/Lucas Arts)』もそうだ。また音ゲーの元祖に『オトッキー(1987/ファミコンディスクシステム/アスキー)』を挙げようとする人もいるだろうし、『たけしの挑戦状』のカラオケ、『いきなりミュージシャン(1987/ファミコン/東京書籍)』、それとも完成度が高かった『トージャム&アール2(1993/Genesis)』のミニゲームなどなど、ともかく音とゲームを絡ませようとした挑戦は結構あった。

だけど──

  • メカニクスとして決定的な形で登場した。
  • 後の世に影響を与えた

この2点において「パラッパ・ザ・ラッパーが音ゲーの元祖である」と断言できる珍しい例だ。

ところで日本のタイトルは『パラッパラッパー』なのだけど、僕は”PaRappa The Rapper”の方で書く癖がなぜか昔からあるのだ

まさにパラッパは発明だったので、これが初めて編集部がやってきたとき、画面にあるマーカーにタイミングを合わせてボタンを押すゲームなんて現れたことがもちろんなく、みんな超ヘッポコなプレイをしていた。
その時、編集・ライターを問わず全員が言い訳をした。
「このコントローラ、ボタン、ヘタってない?」
んで、コントローラを取り換えても、やっぱりうまくいかない。
挙句に「これはサンプルだからまだバランスが取れてないんだ」だのなんだのと、実に見苦しい言い訳をみんなしていた。
もちろん、僕もそういう言い訳をした。人間、そんなもんである。

ところでこの記事のモトネタをfacebookに書いたとき、ぼくなつの作者の綾部さんと、ファミマガ編集長だった山本さんが、大変に面白いエピソードを教えてくれたので、許可を得て、ここに転載しておく。

■綾部 和
ぼくなつ4に「盆踊り太鼓対決」を入れようとして作り始めたとき、権利関係は大丈夫かなあと心配になったんだけど、ソニーに調べてもらったら、音ゲーの元祖がSCEのパラッパなので、ぼくなつで気にする必要があるのは他社製品との画面構成の類似性のみ、あとはたぶん自由に作って大丈夫、という返答でした。
なんてラッキー! そう意味でもパラッパ大好きです。
アドリブ入力にも加点してる(と思います)のは流石ミュージシャンが作ったゲーム。キャラが平面だったり見せ方も新しかった。

■山本 直人
「パラッパ」は、発表の結構前にH女史に、クローズドな部屋で見せていただいて感想を聞かれたので「絶対売れます! 100万いってもおかしくない」って返したのが懐かしい。その後、Yさんと呑みで「パラッパ」の話になって、何本売れるかでカニを賭けて、奢ってもらったのも懐かしい。
同時に見せてもらったのが「クラッシュバンディクー」で、感想が「これってスーパードンキーコング?」って返したら、「そうなんです! 開発者が大ファンで!」って返されたのも懐かしい。
まだまだゲーム業界がおおらかな時期だった。

本当にパラッパは新しいゲームだったんだよなあと思ったのだけど、ここまでは登場の話。

パラッパで音ゲーというジャンルが確立して、いろいろなメーカーが「音ゲー」を作り始めるのだけど、その中で、これまた圧倒的に高い完成度で登場したのが『ビートマニア』(コナミ/1997/アーケード)。

いくら探してもアーケードの筐体の写真がなかったのでPS1のパッケージ

そして、実は『ビートマニア』こそが、真の現代音ゲーの始祖と考えていい。
というのもだ。
パラッパは疑いもなく音ゲーというジャンルを作りだした奇跡のゲームだけど、ゲームの進行は、今ある普通の現代音ゲーとは違う。
パラッパーのシーケンスは、基本、以下の構造で成り立っている。

  1. 先生が1フレーズ分の見本の演奏をする。
    現在演奏されている1フレーズの楽譜の上を音楽に合わせてカーソルが進んでいく。
  2. プレイヤーが1フレーズ分のプレイをする。
    先生の後追いでカーソルが表示されタイミング良く入力していく。
  3. 上の2つを繰り返す。

このルールを変更して、現代音ゲーの基本になる決定的な形を作り出したのが1997年にアーケードに登場した『ビートマニア』。
『ビートマニア』では、パラッパーが作りだした音ゲーの構造を以下のように作り替えた。

  1. たいていは複数のトラックに分かれている「楽譜エリア」を音を示すマーカーが流れてくる。
  2. 「ヒットエリア」に入ったとき、対応するボタン・レバーその他をタイミング良く押す

この型式の最大のメリットは、先生のプレイが必要なくて、対応するボタンを押すだけで、曲を組み立てることが出来ること。
そして、基本、現在ある音ゲーと呼ばれる物は、ごくわずかな例外を除いて、微妙に形は変えてあれど、全部上記の『ビートマニア』型式を取っている。
つまり1996-97の1年ほどで音ゲーは始祖から次の世代に進化して、以降基本的には進化していない。
だけど、それも当たり前。
『ビートマニア』は流れる楽譜に従って、正しいボタンを押していく、いわば実際に楽器の演奏を単純化したものとみなすことができる。
すなわち楽器を演奏するシミュレータの単純版ってことになり、次のアレンジはほぼない。

流れてくるものをいじることで雰囲気は変えられるが、メカニクスは変化しない

というわけで1997年にある意味「音ゲー」は『ビートマニア』でほぼ完全な形に到達してしまったジャンルなのだけど『ビートマニア』形式を踏襲していない例外中の例外の作品に『スペースチャンネル5』があり、これのパート2こそ、自分の好きな音ゲーのナンバーワンなのである。

スペースマイケルの雄姿
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