『ときメモ』を巡る25年前の風景

PCエンジンminiで初めてときメモを遊ぶ人は「幼馴染の万能超人、藤崎詩織にふさわしくなるために自分を鍛えるゲーム」と信じてプレイして欲しいw

元ツイート

このツイートをしたとき、いろいろな反応をもらったが、どうしてこう書いたかというと、僕が初めてレビューしたとき、すなわち94年の4月ごろにコナミからやってきた『ときめきメモリアル』のPCエンジン版をプレイするとき、そう思ってレビューを始めたからだ。

それはファミ通のPCエンジン版の最初のレビューでも知ることができる。
僕には伝説的な(7/7/7/6)のまともにプレイしたとは思えないレビューで、じゃあ実質ベタ移植のPS1ではなんで32点(8/8/7/9)なんだよと皮肉を言いたくなる代物だったけれど、書かれていたゲーム内容紹介--

幼なじみの藤崎詩織ちゃんから告白されるのが目的の、恋愛ときめきシミュレーションゲーム。エンディングはプレーヤーの行動によって変化するのだ

これは、全くの的外れだと思うだろうけれど、当時の広報用資料に書いてあったもので、全くファミ通の責任ではない。

PCエンジン版画面
エミュレータでプレイしているのでマウスカーソルが出ている

当時はプリンセスメーカー(プリメ)/卒業型の育成シミュレーションは人気ジャンルの一つで、ゲーム画面を見て、なおかつ上の紹介文の説明を受けたら、当時のプレイヤーなら「自分を鍛えて、藤崎詩織に告白してもらうのが最終目的のプリンセスメーカー」と誰でも思う。
つまり恋愛シミュレーションと書いてあったら『育成ゲームに恋愛要素が振りかけてあるギャルゲー』と想像するのが、当時の常識だ。
そして自分がレビューしたときも、なんの疑いもなく、そう思ってレビューをはじめた。
まさかあんなゲームだと全く想像もしていなかった。

そのあとパソコン通信で人気が爆発して、キャラ人気に乗って、キャラのイベントが強化され、ヒロインを前面に押し出して恋愛ゲームとして売られたのがPS1版。
だからPS1版とPCエンジン版では、プレイヤーのゲームに対するアプローチが違う。PCエンジン版は、プレイヤーは恋愛育成ゲームとしてプレイしておらず、PS1版は恋愛育成ゲームとしてプレイしている。
ジャンルが出来るというのはプレイヤーの中に1つのゲームの形が定着するってことで、そしてゲームの中の女の子と恋をするゲームが『ときメモ』(と、そしてかなり『同級生1』および『同級生2』)によって定着した瞬間なのだからしょうがない。

かくして恋愛育成ゲームというジャンルが確立し、プリメ型の恋愛育成ゲームが大流行するけれど、プリメ型はストーリーと相性が悪い。
ところが恋愛はストーリーが欲しい。
ストーリーを語るならノベル型の方が絶対的に優位なので、恋愛育成ゲームはノベル型に移行していき、恋愛ドラマゲームに変わる。というのが94年~99年ぐらいで起こったことだ。

また、もう一つ重要なこととして、94年当時ギャルゲーは蔑視されていたことも忘れてほしくない。
それも仕方なくて、たいていの当時のギャルゲーは、出来がイマイチのゲームをカバーするために女の子の絵がついているようなものが多かった。
だから、女の子が出てくるゲームはぶっちゃけた書き方をするなら地雷だったのだ。

そこにコナミが市場的に終わりが見えてきているPCエンジンでギャルゲーを出してくるとなれば、そりゃあクソゲーだろうと想像するし、コナミご乱心だと思うのが当たり前だ。
だから編集部もコナミの新作がギャルゲーだってことにガッカリしていたし、もちろん僕もレビューを始めるとき、本当にまったく期待していなかった。
今では誰も覚えていないだろう、徳間インターメディアの『初恋物語』とナグザットの『風霧』とそして『ときメモ』のどれをレビューするかと質問されて、今までの実績から考えて『ときメモ』にするかあって、きわめて消極的な理由での選択だったのだ。
まさか、ゲーム史上にその名を遺す不滅の傑作をレビューすることになり、 もはやマイナーになっていたPCエンジンで出たギャルゲーが奇跡の大成功を収めて、PS1に移植され数十万も売れて、恋愛育成ゲームを決定づける作品になるなんて1ミリも想像していなかった。

あとちょっとモニョるところがあるのだけど、ABC君がほとんど当時近くに書いたテキストも併せて読んでくれれば、なんとなく、当時の感じはつかめるかなあと思う。

「恋愛シミュレーション」とか「ギャルゲー」とか、あらゆる言葉の意味が25年前は違ったのだ、と…残しておくことにしたのである。

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