イースⅠ・Ⅱ通史(12):Ⅱの開発は続く
今回は、1987年7-8月あたりの話になる。
前回、イースⅡの開発が始まったとき、天空に行く以外のネタは何も残っていなかったコト、テストマップとしてムーンドリアの廃墟を作り、そこで魔法が登場し、聖域という案を思いつくのと同時ぐらいでランスの村を作っていた、なんとリリアはドットが先でキャラクタが後だったなんて話を書いた。
少し追記しておくと、PC88SRのALUによる合成を画面外でやるイース方式ではソフトウェアスプライトの数に重大な制限があり、アドル+3体のキャラクタだけだった。山根はイース1で3体を少しでも多く見せたくて、ミネアの街では双子を作った。そして大浦君は3体しかいない動けるキャラの1つをリリアにしたわけである。だからミネアの街のレアは街の固定キャラだし、イースⅡの医者も移動できないわけだ。
コンテを描き、リリアのキャラクタを描いたはずの山根は木屋さんに取っ捕まって『ソーサリアン』のマップチップをシャカリキになって作っていて、リリアのリの字も出てこない。
そして、リリアはドット絵のまま、スタッフは次にラスティーニ廃坑(と聖域)に取り掛かるのだけど、ここで『イースⅡ』を卓越したゲームにする仕掛けの一つ「ペイント処理」が登場する。
ペイント処理は簡単に書けば画面全体を見えない状態に設定し、プレイヤーの位置から繋がっているところだけを見えるように塗りつぶすという処理で、これは『イースⅠ』での廃坑のスポット処理のアレンジバージョン…とでも思えばいいと思う。
これを思いついたのは橋本さんらしいのだけど、今風に表現すると疑似視界表現なんだけど、2Dってことを考えると、非常に気が利いていて、スゴい処理を思いつくよなあと感心する内容だ。
このタイミングから数えて、2年と少しあとの1989年10月、ペイント処理は、地下水路や廃坑でまれにメモリ破壊してハングアップする最強のバグとして、僕とhahi君の前に立ちはだかり、たったの一度だけ僕がハードウェアブレイクで取ることに成功したバグとして記憶に残るのであるw
(僕はものすごくデバッガを使うのがヘタな人で、プログラムはほとんどコードを眺めてバグを取る)
と、こんな作業をしているとき、大浦さんは宮崎さんから「落盤に遭ったキャラクターが必要」と言われ、入り口を瓦礫で塞いで処理する。
ところでラスティーニ廃坑は『イースⅡ』の中でもサルモン神殿の地下水路を除けば、繋がりが非常にわかりにくく、抜群に迷いやすいマップなのだけど、これにも理由がある。
■ファルコム関係者の証言
廃坑は、つながりがよく分からない四次元マップになってしまっていました。
のちにプレイヤーの操作の延長線上に次のマップを配置するルールが、マップ担当の間に出来るのです。
例えば上をキーを入れて状態で、次のマップに行ったら、そのまま上に移動出来るようにする。ただし、階段やマップの端の場合は、方向を替えざるを得ないのでこの限りではない、というルールです。
ところが、ラスティーニ廃坑は最初に作ったので、このルールに従わないうえに、作り直されずそのままになってしまいました。
プレイした当時、正解に繋がる道がわかりにくくて、どえらいトリッキーなダンジョンだなと思っていて、これはライトの魔法を活かすためかな? と思っていたのだけど、現実は全然違って、単純にペイント処理が入って最初のマップだったのもあり、今までのようにマップを詰めると難易度が跳ね上がっただけだったわけだ。
■ファルコム関係者の証言
ライトの魔法。これは全然何も思いつかなかったので、苦し紛れに魔法を使うと、ヒントで光る場所が出来るようにしました。
いやいやいやいや、神官が6人だから、魔法をともかく作らなければならないが、どうすりゃいいか思いつかず、ああなってしまったわけだ。
雑な魔法だなとは思っていたが…こんなことが真相だったとは。
そしてここでボス戦が試作される。
ファイアの魔法があるのでボス戦はファイアの魔法で戦うことになる。
別作品でマニュアルに魔法のことが書いてあるイースⅡでは問題にならなかったけれど、2年後、ⅠとⅡを繋いだPCエンジン版ではだーれも「ファイアの魔法でないとボスは倒せない」って言わないので、中本さんに「ボスが倒せないべやあ!」と言われ、神官のセリフに付け加えるハメになる。
■ファルコム関係者の証言
ボス戦の試作。
ボスが左右に移動しつつ、三連レーザー弾を吐くようにした。アドルが敵弾を避けつつファイヤー連射して、何のゲームなのか分からなくなった(笑)
わかる。ものすごくよくわかる。
そしてラスティーニ廃坑はこのボスでほぼ終わりになるのだけど、ソーサリアン制作中の都築さんが、いつの間にか家の中のグラフィックとジラの家で壁が崩れるシーンを作って、完成させている。
これでゲームはノルティア北壁に開発が向かうことになるのだけど、ここまで来たところで、勘のいい人なら、イースⅡのストーリー展開…というか、マップ展開そのままにプロジェクトが進行していることに気がついているだろう。
実はその通り。
■ファルコム関係者の証言
1つのマップが終わったら、次の展開を皆で考えるスタイルになりました。結局、魔法もストーリーを考えつつ、そのつど考えて組み込む事になりました。途中得られるアイテムも同じです(笑)
「えーっ!?」って言いたくなるが、イースⅡは本当にシナリオ通りに作られていったと言う事だ。
具体的に作られた順番を書くと以下の通りになる。
- ムーンドリアの遺跡(テストマップ)
- →ランスの村(半分テスト)
- →聖域&ラスティーニ廃坑(ペイント処理/ボステスト)
- →(ジラの家)
- →ノルティア北壁
- →バーンドブレス
- →サルモン神殿
- →地下水路
- →鐘つき堂
- →中枢
そして、今回は(ジラの家)とラスティーニ廃坑と聖域の最後のパートで、次に作ったのがノルティア北壁ってコトだ。
じゃあ、どんな風に作っていたんだよ? というと、驚くべきことに以下の様なプロセス。
- 会議で次の展開を考える。(全員)
- 会議で出たネタ(出ない時は勝手に)を元に背景デザインを考える。マップ組み出来るくらいに背景チップを揃える。マップの組み立てサンプルも作る。(組み立てサンプルは、床面、壁、四隅や繋ぎ方等)(大浦)
- 組み立てサンプルを参照しつつ、各自がマップの構成を考えて作成する。マップ作成途中に、思いついたネタを大浦に伝える(桶谷・倉田)。
- マップ側のリクエストで、背景チップを追加。(大浦)
- マップが出来上がると、 宮崎さんがマップを見ながらシナリオ作る。 シナリオ側から追加や修正のリクエストが来る。(宮崎)
- シナリオ側のリクエストでマップを追加・修正する。(桶谷・倉田)
- シナリオ上、どうしても必要な専用背景を大浦にリクエストする。(宮崎)
- シナリオ側のリクエストで、背景チップを追加。(大浦)
- 追加・修正を入れてマップが完成 (桶谷・倉田)
つまり作り方としては…
なんとなくのあらすじを作って、それをベースにレベルデザイナーが適当なマップを作り、ストーリーラインを組み立てる。それをベース(たぶん平行して)にプログラマ兼シナリオライターがシナリオを書く。足りないところを最後に追加。
…話全体を全然ちゃんと考えずに作っている!!!
これであのゲームが出来たのか! と驚いてしまうのだけど、それはともかくとして、製作がノルティア北壁に入ったところで、集計されたアンケートがやってくるのだが…
というところで、長くなったので続く。