2011年にGAMELOFTでやったDaily Rewardのプレゼンのメモ
ツイッターで、ログインボーナスのブログの記事をたまたまひいて、そういやこんなテキストがあったなと思い出したので、ちょっとした資料としてメモ書き代わりに残しておくことにした。
これは2011-12にゲームロフトNZにいたとき、スタジオのみんなを説得してDaily Reward(今でいうログインボーナス)を止めようって話をしたときのプレゼンの元になったメモだ。
いつものテキストとはかなり雰囲気が違うのだけど、見やすくする以外はほぼ加工せずに載せておく。
以下、メモ本文。
僕らのスタジオのゲームのほとんどにはDaily Rewardが入っている。
そして、Daily Rewardは企画書上では続けることで得する、という表現をとっている場合が多い。実際スタジオのゲームの表現も全てこれになっている。が、これは正しくない。
”Positive reinforcement”ならば「デイリーボーナスをつけているゲームはどれもDAUが神のように高く、ともなってARPU,ARPPUも涙が出るほど高い」はずだ(もちろんCoversionが高くなければ意味はないが)。
もちろんそうはなっていない。
つまりDaily Rewardは作り手が期待するほど、”positive reinforcement”ではないのは間違いない。
またこれを裏付ける事実もある。
Daily Rewardを多用していたZyngaが2011年3月にリリースしたE&Aを最後にDaily Rewardを使うのを止めているという事実、さらにEAのSim Socialなど最近のソーシャルゲームでおよそDaily Rewardを見たことがないという事実、さらにマネタイズについては世界で一番とんでもない手法を使う韓国ネットゲームがDaily Rewardを使わないこと。
これらの事実を考えたとき、Daily Rewardには期待するほどのPositive reinforcementがないのは明らかだ。
(ちなみにCityVilleはデイリーボーナスを(いつのまにか)止めている。自分のプレイしているZyngaゲームでデイリーが残っているのはE&Aだけだった)
ではなぜ、Daily Rewardには期待するほどの効果はないのか?考えられるメカニズムを以下に述べていく。大半のデイリーボーナスは以下の構造を持っている。
- 連続でログインすると、(たいてい)毎日一個ずつアイテムがもらえる
- 最初はアイテムはショボくて、少しずつグレードアップしていく
- 連続ログインが途切れると、また最初から。(これは最近はないことが多い)
- もらえるアイテムリストは基本的には固定(たまに更新されるゲームがある)
そして、これはユーザーにとって全く嬉しくない。だから、この形のDaily Reardには全く意味がない。
理由1:
ゲームに熱中しているときは、Daily Rewardがあろうとなかろうとログインする。すなわちDaily Rewardは「オマケ程度」にしかならない。たとえば、自分がもっとも遊んだFBのゲームのひとつにCityVilleとE&Aがあるが、このどちらもDaily Rewardについて、何かを覚えているかといわれたら「あったこと」しか覚えていない。
デザイナーのみんなは、自分がプレイしていてDaily Rewardが印象に残っているゲームがあるだろうか? あったら驚く。
すなわち、
Daily Reward は「ああ、あるんだ」程度の機能しかないわけだ。そして、僕の持論は「あってもなくてもいいものなら、simplifyのためになくすべき」、つまり第一の理由からは
Daily Rewardなんかとってしまえ! が答えってことになる。
理由2:
もらえるものがショボい。
当たり前だがDaily Rewardであげるものを良くするのはリスキーすぎるのはわかるが、ログインしてもらえるものが+2エネルギーだの、100Gだのでは相手にするのもバカらしくなってしまう。一番連続でログインしたE&A(1ヶ月以上連続ログインした)でも「何も覚えていないほどDaily Rewardでもらえるものは嬉しくなかった」。
理由3:
ただでさえショボいDaily Rewardは「たいてい最悪のものをくれる」。
なぜか?
それはDaily Rewardのシステムの2と3のルールのためだ。たとえば実際に「簡単に1日ログインできない」ことがある。
当たり前だ。僕ら、仕事忙しくて、忘れちゃうこともある。
そして「忘れると必ず最初に戻る」、すなわち「もらえるものは一番悪いモノになる」。
また30,40日連続でログイン出来るだろうか? 普通は出来ないし、そこでやる気を失ってしまうのだ。
2週間ぐらいログインしててDaily Rewardに文句を言われて止めたゲームもある(自分の経験でしかないけれど)
まとめてしまえば、もらえるものはショボい(だから覚えていない)、すぐにリセットされるし、リセットされたらやる気をなくさせる(また30日とか連続ログインかよ!)、こういうものだ。Daily Rewardってヤツは。
つまり、現在のDaily Rewardは「ゲームに興味を強く持っているうちはどっちにしても続いてしまうので意味がない」、それどころか「何かのはずみで、ログインできなくて切れたとき、次の日にログインする意欲を失わせてしまうペナルティ」がある代物なのだ。。
解決策:
僕の考える解決策は5種類ある。
5種類の解決策には、それぞれ別のメリットがあり、使えるゲームも変化するので、それぞれのやり方について記述していく。
その1.
なくす。一番簡単な解決策だし、なにより実装するものが減る…うまい手だ。
その2.
最初の1週間とか2週間「だけ」Daily Rewardをあげる。最初の1週間とか2週間だけに絞れるので、結構いいものをあげられるのが大きな特徴。
最初の1週間にともかくアクセスさせて、ある一定以上プレイさせて、ハメるのに効果が高い。結構効果的だし、実装も楽だし、さらに「最初の1週間はスタンダードでもらえるもの」が決まっていて、次の1週間はスペシャルで内容が変わり「入会したタイミングでモノが変わる」なんて方法もあったりする。
ログインしそびれて手に入らないものを有料で売ることも出来る(これはユーザーも納得しやすい)。結構、効果的なのはいいのだけど、長期間にわたるインセンティブにならない弱点がある。
その3.
Daily Rewardのリセットをしない。
例えばDaily Rewardをもらえる期間が1ヶ月などと決まっていて、例えば3週間分のリワードが用意されていて、4週間のうち3週間ログインできたらデイリーリワードを全部コンプリートできるって方法。これも「デイリーを止める/交換する」って点では同じ。
その4.
第三の貨幣方式。交換できるものが公開されていて、ログインするたびに一定のポイントが入り(1日の最初の1回は一番高く、以降は1時間以上開いたらチョッピリもらえる、なんて方法もありえる)、ポイントで交換可能なものが決まっている。
使用例は今まで数個見たことがある。
比較的実装コストが高いので、使用例が少ないのだと思うけれど、考える価値はある。
その5.
デイリーボーナスをビンゴにして、毎日もらえるもの+ビンゴで手に入るものにする。
これだとビンゴを何度でもやりたくなる。賞品が変更されたらなおさらだ。
毎日もらえるものはショボくたって、ビンゴで当たるものがスゴければ誰も文句言わないよ。
アトガキ
プレゼンのもとを作るとき、だいたいこういうテキストを書く。
こうして口語で書くことでわかりやすく説明しやすいとなんとなく思うし、現実にしゃべることのノートのモトになるし、いい事だらけなのだ。
一度プレゼンやる人は試してみたらどうだろうか。
と、ま、そんな話はともかく、イマドキのフルタイムな人なら、このメモは「?」ってなるところがあると思う。
例えば ”Positive reinforcement”って「え? これなに?」だろう。
これは当時、継続率、つまり”retention rate”って概念がほぼなく、肯定的に働く要素としてDaily Rewardがとらえられていたのだけど、KPIをうまく取れていなかった。で、曖昧に”positive reinforcement”なんて言われてたワケだ。
2011の欧米は、継続率の概念がなく、プレイヤーのレベルとチュートリアル通過でKPI取るみたいな原始的な世界だったのだ。
また、その1~5の解決策についてちょいとその後の話を書くと…
1のDaily Rewardナシは、やってはいけないってことがわかっている。
2は日本では初心者向けだったり、それとも復帰者向けの施策として当たり前だし、3も当たり前過ぎて書く必要すらない。
4は「ならゲームマネーなりダイアなりあげればいいじゃん」と言いたくなるだろうが、当時のDaily Rewardはそういうものをあげるのを極端に嫌ったからで、今では意味がほぼない施策だ(ただしイベントなど特定状況下では効果がある)。
5は…欧米、特にアメリカ市場では異様にbingoが受けることがわかっていたので、提案した施策。今でもそれなりに意味はあると思うけど、実装コストを考えるとほかでも使う予定がないとパフォーマンス悪い。
ま、今では当たり前の話でしかないのだけど、8年前には、これが議論になったんだよねってコトだ。
ところで、このあと、メモはどうなったのか?
このメモは、英語で書かれたパワーポイントになって、ゲームデザイナー達にまずプレゼンし、みんな納得して、次にディレクターもワリと納得して…
そして…
本社に蹴られた。
「そんなわけで、Daily Rewardなくしたいんだけど」
「ハ、なにいってんの?」
「いや、いるっていうなら、根拠教えてよ」
「Daily Rewardつけると楽しくなるんだよ」
「だから、それがおかしいって話したじゃん?」
「うっさい、Daily Reward、文句言わずにつけろ」
ま、かいつまめばこんな会話をすることになった。
世の中、ロジックだけでは話は通らないことが多いのである。