ゲームレビューについて(6/終)

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前回、アートと技術の両面を持つものを評価するシステムとして、スケートなどがあり、これは「テクノロジーを使った商品としてのゲーム」の評価に応用できるって話を書いた。
では、これらの競技の採点の「なに」がレビューに応用できるのか?
なにより考え方。
これらの競技の採点の最大のポイントは「アートと技術を分離する」ことだ。
もちろん完全に分離できるわけではないので、常に問題がつきまとっているのだけれど「いかにアートなものを採点していくのか?」という考え方としてはとても役に立つ。

ちなみに現在のフィギュアスケートの点数評価には、昔あった芸術点はない。
でも、体系化されてはいるが似たような機能を持つものはあり、それがテクニカルな要素とは別の側面を評価している。

「わかりやすさ」を考えたとき、レビューの得点は必要だけど、その得点に採点基準や意味が取れなければ、誰にも役に立たない不幸なものになってしまう。
そう考えたとき、第一にはっきりしない採点基準をなんとかしなければならない。そのために、まず明白に分離可能で採点可能な要素を切り出そう、という発想だ。


では、どんな風に分離するべきか?
昔のスケートなどと同じように、点数を技術点と芸術点に分離してしまうべきというのが、僕の考えだし、それで初めてレビューは機能する、と思っている。
まず技術的な側面。
ゲームには必ず技術的な側面があり、これは比較的ゲームの作品的な要素から分離することが出来る。
とはいっても、それを専門的な知識のレベルたとえば「レンダリングにXX使ってるから+10点」とかそんな事をやっても、ほぼ意味がないので、もっと平易かつ「ほぼ間違いなくどんなゲームにでもあり、そして比較的誰でも採点しやすいもの」をターゲットに置く。
では、その技術的な側面がいくつぐらいあるのかというと、僕の考えでは以下の4つ。
・操作性
・グラフィック
・サウンド
・バグ

この4つだけに絞ってしまうべきだ、というのが僕の考えだ。
と、ぱっと見ると要素型レビューと何が違うのか? と思うだろうが、今までの要素主義では、これが常に「作品(コンテンツ)の質」といりまじるために、常に混乱の元になってきていた。だからコンテンツの質は問わずに、これらを評価するというのがポイントだ。
なぜ、コンテンツの質を問わないかというと、それは芸術性・アートの領域だからだ。
具体的に書くなら、例えばアニメが主題のゲームがあるとして、グラフィックはテレビアニメや映画に質が近いほうがコンテンツの質は基本に高いという話になるが、では3Dモデリングされればコンテンツの質は低いのか? という疑問を立てると、ハテナだらけになるのは間違いない。
またリアリズムを重視したレンダリングと、アイドルマスターのレンダリングのどっちがコンテンツの質が高いのかなんて決められない。それは好みの話でしかない。
つまり、サウンドにしても操作性にしても、そしてグラフィックにしても「コンテンツの質が高い低い(出来がいい)」といった言葉を使った瞬間に、採点基準としては意味がなくなってしまうのだ。
アイマスがグラフィックとして55点だとして、HALO3が90点だとしたとき、この両者の35点の差を好み以外で説明できるレビュワーがいるのか? という問いを立てたとき、僕は世の中には存在しないと思う。
だから、単純に、たとえばあまりひどくティアリング(画面割れ)しないかとか、ボリュームが一定していて聞きやすいか? リップシンクがグダグダで使い物にならないようなことはなかったか? というような「明白でわかりやすいものだけを採点基準に置くべきだ」というのが僕の考えだ。
すなわち「技術的点は、商品として話にならないレベルではないか?」を採点する場所と考えればいい。
実際的な採点基準としては、例えばグラフィックの場合には「テクスチャの張り遅れ」、「オブジェクトのポッピング」、「ティアリング」、「フレームレート」、「カメラ」の5つぐらいに加え、映像の原作がある場合には「原作に似ているか」(似ていないのはさすがに問題があるだろう)。
ちなみにフレームレートが入っているのは、フレームレートはゲームの快適度に大きく影響し、20フレームあたりからゲームとしてかなり厳しくなる(ただし一瞬なら20フレームぐらいまではどってことはない)し、だいたいフレームレートが安定しないゲームは正直プレイしていて気持ちいいものではないから。
操作系なら、ロード時間やボタンのconfigなどなど。気をつけるのはKinectのような外部機器が必要な場合だが、それについては「kinectあり、なしをはっきりとレビュー時に記述すればいい」と思っている。
またバグについても、明白にレビューにいれてしまうべきだと思う。
現代のゲームはバグなしで発売することはほぼ不可能なサイズだ。それならばレビュワーはあったバグについての評価はするべきだと思うし、それが致命的だったのか、違ったのかまで含めてはっきりと書くべきだと思う。
そしてこれらの要素「満点からの減点方式」でかまわない。なぜなら「ノーストレスなら満点」で「ストレスを感じることがあれば減点」してなんらおかしくないし、かまわない。
実際にどういう点数配分にするかは、それこそ実際に実用に供してみないとわからないが、少なくとも、この方法なら、ゲームの技術的側面について、レビュワーの好き嫌いを超えて評価を下すことが出来るようになるし、商品としてのゲームに対して、一定の評価として機能することになる。
つまり、このパートの点数が低いということ=商品としてなんらかの問題がある、ということを意味している、という話になる。
では、芸術点ってナニというと、これはレビュワーがやってどう思ったかだ。僕の考え方では「基本、技術点と同じ点でスタートして、何点減点してもかまわないし、何点加点してもかまわない」
同一点でスタートすると決めるのは、商品として優れているゲームは、ゲームとしての質が信じがたいぐらい低いことはないだろうということ(そしてその逆もまたマコト)で、レビュワーがレビューをスタートするときの目安としての点数になるから。
具体的には、例えば技術点が最高点100で、80を取れるゲームだとレビュワーが判定したとき、以下のプロセスでレビュワーはレビューをする。
レビュワーは80点から好きに加算しても、減算しても構わない。芸術点ー300点つけたってかまわないし、逆に500点つけようが構わない。なんの理由で何点操作するのかを必ず書くかわりに、一切の制限をつけない。
つまり「僕が死ぬほど好きだから5000点追加」を許すってことだ。
絶対にここにはなんの制限もつけてはいけない。つけるべきは何を加算したのか、何を減算したのかをはっきりと書くことだけだ。
だから満点は存在しない。
また、このレビューでは、必ずプレイタイムを正直に書かなければならない。
ここでプレイタイムを正直に書くと書いた。
これはとても重要なことだ。なぜなら、そのレビュワーが10分しかプレイしていなくても、1321時間プレイしていても、どちらも読者にプレイ時間が正しく与えられている限りは、レビューとして機能するからだ。
10分プレイして、あまりにつまらないと思って耐えられずレビュワーがレビューを止めたとする。「プレイ時間10分で、僕は耐えられずにゲームをやめました」と書かれていれば、少なくとも、そのレビュワーは「ゲームを始めて10分でつまらなくなって止めた」ということがわかるし、それはそれで価値がある。
最悪なのは10分でプレイを止めていることがわからないことだ。
だから時間は書かなければならない。
そして最後にレビュワーは必ずこのゲームはレビュワーは誰に向けたものなのかを考えて、書かなければならない。これはもちろん、今のゲームはとても幅広く、誰に向けられたものなのかで状況は全く変わる。
もちろんメーカーからも、こういうのは明白にされているが、それとは別にレビュワー自身が考えた「これはこんな人に合っている」というリコメンドを必ず書かなければならない。
最後に、このレビューシステムをまとめよう。

・レビューの点数は「技術点+芸術点」の総和になる。
・技術点は満点。芸術点は上限なし。ただし採点は「技術点」をベースにスタートする。
・技術点は「商品として成り立っているか」のチェックに徹する。
・芸術点でレビュワーが、ナニに魅力を感じているかを自由採点(ただし点数の増減ははっきりさせる)。
・このゲームのターゲットは誰なのかをレビュワーが想定し、それを書く。
・プレイタイムをはっきりさせる。

この方法なら、僕はゲームのレビューとして機能すると思う。
なぜなら、まず満点問題、すなわち満点をつけづらく、一度つけると、今度は満点が乱発される問題が起こらない。
点数の基準もはっきりしている。芸術点は意図的に恣意的にしているが、それでも最初の基準点が技術点と同じになるので、縛りはわかりやすい。
なおかつ、このシステムは「商品として成り立つべき最低限の要素(技術点)」優れた作品は80+80とかそういう基礎点から加算・減算するので、ある程度の目安になる。だからレビュワーも点をつけやすくなるし、大雑把に「技術点の満点*2」あたりが「スゴくいいゲームの目安」になるから、読者にとっても分かりやすい。また実際「5000点追加」をするレビュワーはそうそういないだろう。
また技術点が高いと「少なくとも商品としてはまともだ」という保証をある程度得ることが出来るし、技術点が低くても芸術点が高ければ、その加点を見れば少なくとも「レビュワーが何を面白いと思ったのか?」について理解できる。
そして商品としての側面とアートとしての側面を分離しているので、ゲーム内容について説明しやすいし、さらに誰が買うべきかもレビュワー自身がリコメンドするし、プレイタイムもはっきりしている。
少なくとも、いろいろな人にとって納得しやすいレビューだと思う。
じゃあ、これを雑誌が出来るのか?
ぶっちゃけ書くなら出来ない。
なぜなら、このレビューは基本、ものすごくレビュワーの負担が大きい。
そしてレビュワーもメシ食ってるんだから、そしてレビューの原稿料はバカらしいほど高いわけでもないのだから、こんなレビューをさせられたのでは、はっきり書くならワリが合わないと思う。
だから、残念ながら、このレビューそのものは「レビューシステムとして機能するとは思うが、現実的には使えない」と僕は思っている。
でも、この考え方をちょっと調整すれば、このシステムほど徹底的でなくとも、少なくとも今よりは信頼性の高いレビューを提供できると思うし、それはゲームで遊ぶ人たちみんなにとって、幸せなことじゃなかろうか?
と、思っているのだ。

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1件のコメント

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    最近だと気になるゲームはレビューを読むより、
    まずプレイ動画を見てみますね。

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