メタルギアピースウォーカー(2/終)

前編では、MSX2で初登場したメタルギアは、メタルギア2でレーダーとミニマップを実装することで、2Dのスニーキングゲームとして完成の域に到達した。だがメタルギアソリッド(MGS1)は3Dゲームで、3Dゲームの視界やマップの問題点から敵に見つかるとレーダーとミニマップが使えなくなるルールを維持したため、マップが見えなくなる問題が発生してしまい、マップが見えなくなったとき2Dとは比較にならないほどペナルティが厳しく、また迷子になりやすいといった問題も起きた。
この点については間違いなく小島監督は意識していたと思う。意識してなかったら、MGS2であんなにソリトンレーダー周りをチマチマ弄り回すわけがない。だが、MGS2では「ゲーム内で前作から経った時間」を考えると、ソリトンレーダーを消すわけにも行かないし、ヘタにルールを変えるわけにも行かない。結局の所、小規模な改良で納めざるを得なかった、というのが真実なのだろう。


この問題点に大きく切り込めたゲームがMGS3だ。
なんせMGS3は「過去」でソリトンレーダーを消すことが出来る…というか、あるといろいろとおかしい。そこでソリトンレーダーを消してしまったわけだが、出来たゲームを見るとバランスはかなり大変だったと思われる。
というのもだ。
第一に当たり前だが、ソリトンレーダーをなくすと敵を発見する難易度が跳ね上がる。アナログスティックで周囲を見回せるようにしても、ソリトンレーダーほど便利なわけがない。しかも設定がジャングルでみんな迷彩しているのだから冗談じゃない難易度だ。そのうえ敵の視界がソリトンレーダーのようにはっきり見えないのだから、全く大問題だ。
これを解決するために動体センサーだのなんだのとソリトンレーダーほど便利ではないセンサーをMGS3では大量に実装したわけだが、どれも使い勝手が悪すぎて、実用的とは言いがたい。
しかも一番使えそうな動体センサー(多分、これがソリトンレーダーの代わりのつもりだったのだと思う)は動くものはなんでも検知するうえに舞台がジャングルなので、ともかくトカゲからヘビから検知して、画面が赤点だらけでゲッソリだ(ただし見慣れると動物と人間の区別はつくようになる)。
だいたいどのセンサーもバッテリーが切れるという設定のために常時使いっぱなしというわけにいかない。
で、いろいろ困ったのだろう。とんでもなく大きな修正がMGS3では行われることになった。
それは、劇的に敵の移動速度を落としたことだ。
MGS1/2では結構速い速度で敵兵は歩いているが、3では(まあこちらのほうが自然、というのも理由にはあるだろうが)、かなり…というか、ものすごく歩く速度が遅くなっている(正確に測定するのは難しいが多分半分以下の速度)。本当にゆっくり敵は歩くと思っていい。
しかも敵兵が立ち止まって周囲を見渡す時間も大幅に引き延ばし(だいたい見回すときに首を動かす時間が大幅にゆっくりしている)、敵がこちらを発見するシーケンスにもかなりの時間の余裕を持たせてある。

見つけて<!>が出てから1秒近く実際に危険になるまで時間があり、しかも見つかっても、連絡されたり声を出されたりしなければ、見つからないという仕掛けになっている。これに慣れてからMGS1/2をやると本当にビックリする。

そうはいっても、敵の耳が敏感になっていたりカモフラ率が悪いと結構な距離から見つかったりといった難易度を上げる条件も入っているけれど、ともかくセンサー性能が悪くて、しかも敵の視界が分からない問題を解決するために、敵の移動速度を下げ、巡回をゆっくりにするという対策を取っているのは間違いない。
つまりMGS3ではソリトンレーダーは便利すぎるし、あるのもおかしいから消したが、消した結果はゲームの難易度に大きな影響を与え、敵がクリアリングをするルール(調べていない場所を調べる)と相まって、おっそろしくゲームの難易度を上げる問題が発生した結果、敵の移動速度を大幅に下げたわけだ。

それ以外にもMGS3はいろいろな意味でやりすぎた感のあるゲームで、例えばサバイバルビューワーで怪我直すところや、食事によりスタミナを回復しないといけないとか、さらに敵のAIアルゴリズムが厳しくてノーマル以上ではハンパではないとか「サバイバルして欲しい」という意図は分かるけれど、とても面倒くさいゲームになっていると思う。それに対する反省がPWに繋がっているのだろうと思う。

ここで問題を整理すると、この問題はソリトンレーダーではなく、ゲームデザインにもっと深く関わる問題であることがわかる。
つまり「3Dステルスゲームで、リーズナブルに(ある程度のゲーム的な制約を持って)周囲の状況をプレイヤーに伝えるにはどうすればいいのか?」という問題だ。
おさらいすると、当たり前のことながら、2D時代にはレーダーがあろうがなかろうか、隠れている自分と敵兵を常時上から見ることが出来たので周囲の状況は常にプレイヤーが把握することが出来た。ところがプレイヤーキャラクタが大きく表示されるようになったMGS1以降では、周囲の状況を掴む方法がソリトンレーダーになり「ソリトンレーダーを見てプレイし、ソリトンレーダーがないとペナルティがやたら大きくなる2Dのメタルギアではなかった問題」にこれがすり替わったわけだ。
そしてソリトンレーダーを見てプレイするゲームでは問題があるのは明らかなので、MGS3ではなくしたわけだけど、これは今度は3Dゲーム特有のプレイヤーの視界は実際より狭く、かつ見回すのが難しいためにやはり全体を掴むのは難しい問題とぶつかり、難易度が跳ね上がり、敵の移動速度を落として、ある程度軽減したけれど、やっぱり難しい、という話になった。
ここに革命を起こしたのがメタルギアソリッド・ポータブルOpS。
サラウンドインジケータって代物を思いつくことで、メタルギアに革命を起こしたといっていい。

具体的な仕様は上の画像をみていただきたいが、右上にあるのがサラウンドインジケータ。敵との距離と角度をトゲで表し、距離が近くなるとそっちの方が赤くなる、イメージとしては周囲の物音をデータにして表示する、すなわちプレイヤーの聴覚をマップにして視覚化するというアイディアだったわけだが、革命的という以外形容出来ないほどうまいアイディアだった。
自分が安全か危険なのかは大ざっぱには一目で分かり、敵がどこにいるのか距離と方向は感覚的に掴めるが、精度はない。つまりソリトンレーダーほどの精度はないので、どうしてちゃんとプレイヤーの目で確認をしなければいけないが、どれぐらい危険か、どのあたりに敵がいるかは<全方位>について大ざっぱに知ることは出来るシステムだ。

どうしてこんなことを思いついたのかはわかる。PSPでTPSを作ろうとすると右スティックがない。もちろんカメラは左デジタルパッドに割り当てるが、それでも回りを見回すのが困難なのは間違いない(モンハン持ちと俗称される持ち方も指の置き方としてはかなりどうかしているわけで、右スティックがあったほうがいいに決まっている)。
ただでさえ敵を発見するのが難しいのに、見回すのが難しくてますます難易度が上がるのではたまったものではない。で、それを解決するための切り札がサラウンドインジケータだったわけだ。アイディアとしては文字通り音を視覚化するソナーなどからの発想だろう。あと、もう一つ偉いのはサラウンドインジケータをバッテリ切れしないルールにしたこと。これで飛躍的にプレイがしやすくなった。
ついでに書くと、MPOは他にもいろいろ革命を起こしていて、あの死ぬほど面白い無線LANでリクルートする案もMPOが最初だったりするし、それで部隊を作るって案もMPOが最初だ。ついでに書くならNPCでプレイするのがゲームの中心の一つに置かれたのもMPOが最初だったりする。
そういう意味でMPOはまさにポータブル・メタルギアの基礎を作ったわけだけど、今、MPOをやるのは少々お勧めしかねるところが多い。というのもMPOは面白いゲームだが、MGS3にあった要素を一通り入れようとしたために、かなり操作が窮屈になっており、ちょっとつらいゲームになっている…と言わざるを得ない。
と、MPOまでをふまえてピースウォーカーの話になる。
ここまでを簡単にまとめるとステルスゲームでソリトンレーダー眺めるの中心はどうよ=>なくしたら難易度上昇=>敵兵の移動速度の低下=>MPOでサラウンドインジケータ実装=>バランスの取れたゲームが出来たという話でじゃあMPO最高じゃん…と思うかも知れないが、PWと比べるとMPOはぶっちゃけめんどくさいゲームだった。
というのも、MGS1から進むに従いいろいろな要素が増え、MGS3にいたっては、サバイバルビューワーだのCQCだの要素が山のようにいろいろなものが盛り込まれたシステムをサバイバルビューワーあたりを除いてほぼ全部そのまま持ち込んだうえに、右スティックがなくてカメラが自由に回しにくい。しかもカメラリセット(モンスターハンターなどで多用するボタン一発で正面に向ける機能)がなく、ボタン数がPS2と比較して少ないのだから、やたらめったら操作が窮屈でやりにくい。
しかもこれは全くMPOの責任ではないが、当時はまだMHP2前でインストールがないので速度が遅い。
つまりMPOをまとめるとサラウンドインジケータという革命は起こしたが、ゲームとしてこなれているとは言い難いゲームだったわけだ(これは初めてプレイしたときから詰め込みすぎだと感じていた)。
そして、PWが強烈だったのは、ここらへんの操作系を徹底的に単純化したことだ。
例えばPWでは匍匐で歩けない。本当に驚いたのだけど、主観モードをなくして、さらに「細いトンネルに潜り込む」といった挙動をなくすことを考えると確かに合理的だ。そのかわりしゃがみがあり、しゃがんだ状態で歩くことが出来る。これは基本的に物音を立てないので、ゆっくり移動するにはベストなように作られている。また物陰に隠れて移動するのが簡単だ。
例えばPWでは握力がないので無限にエルード(ぶら下がり)していられる。
例えばPWには「主観モード」がない。徹底的に三人称で、主観モードになるのは据え置きのマシンガンやスコープつきの武器などだけ。
銃を構えると海外TPSのドンパチゲームに良くある肩越しポジションにカメラが半固定され、アナログパッドで歩き、デジタルパッドで照準を移動させて撃つスタイルになるように割り切られている。
武器やアイテムを交換するときには基本的には動きが止まる。
CQCも極めて単純化されていて、□ボタン+アナログパッドだけで全て終わる。
飛び出し撃ちなどもなくなり、壁へのはりつきも単純化されている。
操作系はいろいろ細かくモンハンに似たのやら、FPSっぽいのやら用意されているのだけど、ともかく全体的に単純化され、TPS+ステルスの考え方が徹底されていて、ゲームデザインも操作もそこに集中している。
これは全くスゴくて偉い。
前作…どころかシリーズを通してやれたこと(匍匐前進・トンネルに入る動作・主観など)を捨て、複雑で沢山の要素を持つゲームを思い切って単純化するのは、ものすごく勇気のいる決断で、見事と言わざるを得ない。
しかもその適切さもスゴい。
最初の浜辺での基本操作の練習と、そのあとの射撃練習で「ほぼ全ての操作の説明が終わってしまう」ほど単純でありながら、PWをやってからMGS3や2をやると、やれることはあまり変わらないのに操作が何倍もめんどくさい(ボタンもあるのに!)のには驚いてしまう。
加えてMPOではサラウンドインジケータが固定だったのを、MGS3の延長上にある様々なセンサーを用意して、なおかつサラウンドインジケータは「バッテリを使わないルール」は維持しておいて、要所要所で「バッテリを使用するセンサー」を使わないと見つけにくい敵(例えばサラウンドインジケータにはかからない「動かないカモフラージュしている敵」)を配置しておいて、切り替えを要求すること(言い換えるなら、要所要所で切り替えることがプレイ上の戦略になる)などなど、全くもって見事という以外、形容がない。
つまり、まとめてしまえばMGSPWは無駄のなくなった操作系と、MPOで登場した「うまく制約された情報」、そして見事なゲームデザインとストーリーにより、とんでもない傑作になれた、と僕は思うのだ。

ちなみにお遊び的にだがPWでは、一定以上ゲームが進むと(第一のエンディング、と僕が呼んでいるエンディングが終わってしばらく遊んでぐらい)ソリトンレーダーを作ることが出来るのだが、これを使うと「いかにソリトンレーダーがゲームを変えてしまうか」を本当に実感出来る

ところで全くの余談なのだが、パラレルワールドであるにしても、小島監督、ビッグボスの物語をどのように着地させようというのだろうかと、本気で思ってしまう。
というのも、ネイキッドスネイクこと、ビッグボスの行動や態度を見たとき、僕のMSX2のザンジバーランドで「オマエハ ヤリスギタノダ」とカタカナで喋り、ゴキブリのように走り回り、ソリッドと対決していたビッグボスと今のネイキッドスネイクは正直ナニからナニまでまるでかぶらない。
だからパラレルワールドとして扱うしかないのだけど、メタルギア世界では、何にしてもザンジバーランドでビッグボスが蜂起したのは間違いないわけで、最後にそこに至るストーリーはどうなるのだろうか…と楽しみに思ってしまうのだ。

メタルギア ソリッド ピースウォーカー HD エディション (通常版) (PSP版「メタルギアソリッド ピースウォーカー」ダウンロードコード同梱)
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3件のコメント

  • AGENT: Mozilla/5.0 (iPhone; CPU iPhone OS 5_0_1 like Mac OS X) AppleWebKit/534.46 (KHTML, like Gecko) Version/5.1 Mobile/9A405 Safari/7534.48.3
    メタルギアソリッド4についてはどうお考えでしょうか?
    MGS3で面倒だったカムフラージュがオートになり、自分の周りのリングの揺れで敵位置がだいたい掴めたり、とPWに繋がる要素も結構あるように思えますが。

  • AGENT: Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64; rv:8.0) Gecko/20100101 Firefox/8.0
    この中で4を取り上げなかったのは意図的なものでして、というのも、シリーズ的なゲームデザイン的な話をすると指摘されたとおりなのですが、問題なのは4は作品内の時系列的な話をすると
    S3>MPO>PW>MG1>MG2>S1>S2>S4
    と、なってしまうために、やはり処理がビミョーになっているという問題があるので、わかりやすさを優先して、4は意図的に無視したわけです。
    了解いただけたでしょうか?

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    なるほど、わかりやすさ優先ということですね。
    了解しました。

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