『ネクタリス』をめぐる思い出
これはPCエンジンミニに入っているゲームの中で、自分が手伝ったり、作ってるのを横で見てたり、それとも作ってる時の話を聞いたりしたゲームを1個ずつ取り上げて、書いていくシリーズだ。
ただし『天外Ⅱ』と『イースⅠ・Ⅱ』と『ときめきメモリアル』と『R-TYPE』と『THE功夫』は除く。なぜならこのブログでもう結構書いたから。
あとimpress watchとかに代表されるような「普通のゲーム紹介」をするつもりは全然ない。
僕が30年の前のゲームにそんなレビューしたって面白くもなんともないっしょ。
さて。
『ネクタリス』は1989年2月にハドソンからリリースされた、月でガイチ帝国とかいうのと戦うことになるウォーシミュレーションゲームってことになる。
マップの形式にヘックスを使用していて、シンプルなルールで、なおかつ運があり、コンピュータの思考は速いしおまけに今見ても結構強い…そう、簡単に説明すればいわゆる本格派ウォーシミュレーションゲームということになるだろう。
全16面だけど、実は裏面があるので全32面。
発売直後に東京に帰っていて、ハドソン東京でユーザーアンケート見られたんだけど賛否両論とはこのことって感じで、真っ二つのアンケートで75%ぐらいが★5の嵐で、25%ぐらいが★1の嵐って極端な結果になっていたのが印象的だった。
作ったのは、いわゆるR-TYPEチーム。
プログラムのメインは和泉勇さん。サブで松永君と太田君と植山さんがいて、バトルシーンは植山さんだそうな。
技術的には『R-TYPE』で作った疑似マルチタスクをそのまま使ってる。
なんで知ってるのかというと、後に、この疑似マルチタスクは細かい改善を加えて、PCエンジンのハドソンの基本システムになるからだ。
ドットは天外Ⅱで仕事をした松田泰一君と、おんじこと桑原おんじの二人がメインだったはず。ユニットが松田君で、マップがおんじ。
ヘックスはキャラクタの並べ方に面倒くさいところがあり、おんじは「わけわかんねえ」って良くぼやいてた。
漢字は多分当時作っていたCDROM BIOSの12ドットフォントから必要なものだけ拾ってきて、圧縮して入れているのだと思う。
ところで、僕はボードゲームがヘックスなのは平面を隙間なく埋められる移動のマス目の数がどの方向に対しても等しいってだけの、アナログゲームの都合でしかないのを知っていた。
だからヘックスマップに対して否定的で、和泉さんに「スクエアにして、移動力の単位を縦横では10、斜め移動の時は14を使うようにするとほぼ完全に精度は同じだし、ZOCだって処理できますよ」って言ったんだけど、和泉さんは「お手本の大戦略がヘックスだからヘックスにする」って言って、ヘックスにした。
これ、ストレートに書けば、和泉さんの方が正しい。
僕の理屈は知っている人間の理屈であり、普通の人にはわからない。
ヘックスの方が当時は間違いなく本格的に見えるのだから、商品としてはそれでいいのだ。
ところで当時の本格派ウォーSLGというと、大戦略の影響が強く、普通はユニットの生産が入っていた。
ところが『ネクタリス』にはユニットの生産が含まれていないのが、極めて大きな特徴と言えるのだけど、これについては僕はかなり強い影響を与えていると思う。
というのも、ほぼ『大戦略』しか知らなかった和泉さんに、当時販売されていたホビージャパンの『BASIC3』という入門用のボードゲームを貸して、特にその中の『スエズを渡れ』で、ZOCの使い方や戦線の組み方を説明して、手持ちのユニットが限られていて、その中で戦っていく方がゲームのスケールから見て相応しい、と言ったのは僕だからだ。
ここで説明しておくと、ボードゲームには戦闘<戦術<作戦<戦略みたいな区分けがあり、通常戦略級のそれも大戦全体を扱うようなものでなければ、生産という概念は出てこないのが常識なのだ。
なお簡単に書くと、左に行くほどヘックスのサイズが小さくなり、ユニットの単位が小さくなり、ターンの単位が短くなる。
そしてネクタリスのユニットのサイズである限りは、生産ルールは相応しくない、だから止めるべきだと言った。
結果的に和泉さんは僕のこの主張を採用するのだけど、これは今でも全く正しい助言だったと思っている。
そして『ネクタリス』のルールは『BASIC3』の中でも『スエズを渡れ』の影響を強く受けているので、強ZOC(Zone Of Controlの略。細かいコトは検索でもしてくれ)で、なおかつ車両ユニットの一部は攻撃後移動が可能とか、攻撃するターゲットの全ZOCを味方ZOCで埋めると、敵の能力が半減するみたいな、当時のボードSLGっぽいルールがいっぱいはいっているわけだ。
ところでいまだもって残念なのだけど、当時諸兵科連合効果を入れようと和泉さんに提案したのだけど、和泉さんは複雑すぎると却下した。そこまで複雑ではないので惜しいよなあ、と思うのである。
他にも下らないエピソードを残しておくと、松永君が3Dで星流すルーチン作れなくて、それ見てて半日で書いて教えようとしたら、和泉さんに「教えないでくれ」って言われてアルゴリズムだけ教えたとか、そしてこの時作った平面3D変換ルーチンは後に『天外Ⅱ』のオープニングで玉飛ばすときの本当の大本になったとか、和泉さんがVDP(7up)のDMA使って拡大したキャラパターンを転送しようとしてて転送量計算するの手伝ったりとか、松田君がすぐに地味なドット打ちたがるから「もっと派手にしろよー」って、僕が言ってたとか、ともかくまあそんなことはいっぱいあった。
懐かしい話だ。
と、まあそんなことをまあもっと雑にツイートしたら、当時、ユニットのドットを打った松田君が、とんでもないことをツイートした。
まーーーじーーーかーーー!
そんなの知らんかったわい!
そしてさらに32年前の開発時の企画書をツイッターにアップする、信じがたいビックリ。
あの時、もう大学のサークルのノリで、毎日ハドソンで楽しくゲームを作り・他の人のゲームに首を突っ込み・デバッグに首を突っ込んでいた、本当に楽しかった日々はもう30年も昔なんだなと、懐かしく思い出したのだった。
というわけで『ネクタリス』だけど、PCエンジンミニなら、ステートセーブが出来るので、面の途中セーブも楽々。とてもお気軽に遊べるのでお勧め出来てしまう(31年ぶりに楽しく遊んでいる)。てわなけで、『ネクタリス』が31年前より快適に遊べるPCエンジンミニはアマゾン専売で発売中である。
あ、あとR-TYPEチーム=和泉さんとするなら『ネクタリス』→『コブラ・黒竜王の伝説』→『バトルエース』→『ドラえもんの迷宮大作戦』→『アースライト(SFC)』、ここまでは知ってたのだけど、このあとゲームのプログラムは引退になり(当時の日本の会社の悪しき習慣だ)、社内ネットワークとかやっていたらしい。
そして最後にこぼれ話、ネクタリスのパッケージの左上に描かれている地球を描いたのは、あの桝田省治である。
ハドソンの広告を担当していたころの仕事だそうな。
1件のコメント
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X68Kに移植する時にF.K君が「ホークアイの攻撃対象選択処理はバグってるみたいですねー」って言ってました。
色んな計算をしてるのに最終的に結果を取ってくる時に謎なワークの値を取ってきてるそうです。
たまに謎な攻撃をするのはそのせいなのでしょう。
それでも充分ホークアイは怖いのですが。