日本の電子書籍で表に出ない修正事情

数ヶ月前に”epub3″で販売可能な電子書籍を簡単に作る方法…みたいな記事を書いたが、これはその続きだ。

前回はどのように簡単にデータを作るのか? という話だったが、今回は実際にプラットフォームに出すうえでの苦労について書いてみたい。

サテ。
頼まれた電子書籍のデータは、いわゆる官能小説というヤツだ。
そしてもちろんあいざわひろしがイラストを描いているので、もちろん挿絵はエチいし、表紙もエチい。
そのあたりに興味がある人は下のリンクでも見ていただきたい。

そのエロい表紙の一部

そして。
日本という国では「エロ」はとても恣意的な判断がされている。
それはそれは恣意的な判断で、なんせ「何をもってダメとするのか」の明白なラインは全くなく、そんなものは法律には一言も書かれておらず社会通念という名の、警察の胸先三寸で決まる世界だ。
こんなもんをもって有罪だの無罪だの刑事事件にまでなるのを見ると本当にあぜんとするし、こいつには物理版の同人誌ではさんざん悩まされるのだけど、電子書籍はさらに大変なことになる。

まず第一に知っておかなければならないのが、印刷の出版と比較すると、電子書籍のエロの判定は極めて厳しい。例えばコミケなら通る(コミケのエロ基準は市販の雑誌をベースにしている)黒線・白線の修正はFANZAなどに代表されるエロがあるのが前提になっているプラットフォームでは、同じ修正では通らない。
同じ18禁であるにも関わらずだ。
実際の規則を見てみよう。

第6条(隠蔽処理について)
隠蔽処理とは、モザイク・白ヌキ・ベタ塗り・黒線(白線)・マスク・物なめ等、男女性器が直接的に描かれていない状態にする処理を指し、以下の通り、最低条件を定めるものとします。
(1)モザイクは、最小4ピクセル平方モザイクかつ画像全体の長辺が400ピクセル以上の場合、必要部位に「画像全体長辺×1/100」程度を算出したピクセル平方モザイクを施すこと
(2)画像の技術的性質ではなく、視覚的判断により細部が不明瞭になっていること
(3)同一次元上で処理を施し、技術的に元の表現に戻せない状態になっていること
(4)範囲は輪郭線を含んだ状態になっていること。ただし、透過により細部が明瞭になっているものは隠蔽に含まれないものとします。
(5)隠蔽処理は、当社が必要と判断する部分に全て行うこと。ただし、一部の処理により結果として不明瞭になる場合はこの限りではありません。
(6)モザイク以外での隠蔽処理においても、必要な部分に全て行うことが前提であるが、一部の処理により結果として不明瞭になる場合はこの限りではありません。

FANZA同人 販売倫理規定 より引用

けっこう曖昧な表現だけど、このモザイクにしても、それとも黒線などの修正にしても、まあ一般的な18禁の雑誌よりは圧倒的に修正されていると考えて構わない。18歳以下には売らないという場所であるにも関わらずだ。
しかもだ。
自分が出すのを手伝ったプラットフォームはコミックまで含めれば、FANZA・BOOKWALKER・Kobo・Kindleの4つのプラットフォームになるが、これらのプラットフォームでは、全てエロに対する対応が違う

どのプラットフォームもエロ修正がだいたい30%マシマシぐらいになるというのはまず前提。

修正マシマシなのを除くと、他はだいたいそのまま通るのがFANZAとBOOKWALKER。
BOOKWALKERは通らない場合、何が通らないのかまでメールで教えてくれるので、本当に助かった。

表紙にオッパイが出ると自動アウトなのがKobo。これも教えてくれる。
アダルトにしてもオッパイばばーんは通らないのだけど、これが、ひどいダブルスタンダードで正直呆れてしまう。なぜなら検索ボックスに「けっこう仮面」と入力すれば、ババーンとオッパイ出てるイラスト出てくるからだ。マジかよと言いたくなってしまう。
だが、koboはまだいい。なぜなら、そこ以外は他のプラットフォームと似たようなものだからだ。

ぶっちぎりでひどいのがAmazon Kindle Direct Publishing(以下KDP)。
まずKDPの規約をば。これはしばしば改定されるので、画像を添付するが、これで何が禁止されるかわかる人が世の中にいるだろうか?

KDPガイドラインより引用

わかるわけもないだろう

ただ散々苦労した結果として、KDPは以下のルールっぽいということがわかった。

  • 表紙にオッパイは100%アウト
  • ちょっとでもナニが見えているような絵があるとほぼブロック(ブロックとはレビューを通らないということ)。
  • 挿絵が結構エロいとブロックされる

オマケに上に書いた基準も非常にあいまいなのは間違いなく、ほとんどレビュワーのお気持ちで通る通らないが決まる。
しかも「なぜブロックされるのか」について絶対に答えない。
尋ねると、上のナゾテキストに従えとだけ定型メールが返ってきて、しょうがなく「ここじゃね?」と怪しく感じるところを修正してアップロードして、ブロックされることを繰り返すとんでもない騒ぎになる。

こんなことを四苦八苦している間に「攻撃的な内容を何度もアップしている」と言われ、あやうくアカウントがBANされそうになったのだから、全く開いた口がふさがらない。

お前らがどこを直すか教えないからだろうが! と怒鳴りたくなってしまう。
要はKDPで、エロい絵の入った官能小説なんてものを自費出版しようとするのは自殺行為で、他の作品もチェックした結論として、ストレートに書くなら、KDPではエチい挿絵を全部削除するのが望ましい。
というわけで出版社としてどうなのか、という観点から見ると…評価は以下になる。

  • 圧倒的に自由
    FANZA=BOOKWALKER。この二社は安心。出す側に明快な基準があり、そこを満たせば内容がナニであろうと出版する。
  • まあまあ許せる
    Koboは表紙のダブスタは気になるが、基準はまともで一貫している。
  • 圧倒的な問題外、エロにとっての地獄
    KDPお前はダメだ。基準はお気持ちレベル。何もわからない。

そんなわけでエロい同人誌を電子書籍としてプラットフォームで出版したい人は、BookwalkerもしくはFANZAが自分の経験ではオススメだという話であった。
なお、とらのあなさんとか、他にもいろいろプラットフォームはあるが、あいざわひろしに頼まれてやったことなので、調べていない。上記以外のプラットフォームは各々調べていただきたい。

ほんとにエロの規制ってのは、馬鹿らしいと思っていたが、KDPでドえらい目にあったせいで「エロの規制なんざ、全て止めてしまうべし」と強く、思うようになったのだった。

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