イースⅠ・Ⅱ通史(13):ノルティア北壁でRPGになったイースⅡ

サブタイトルを読んで「どういうことだよ?」と思うかも知れないけど、それは最後まで読めばわかると言う事で。
今回は、1987年の8月後半~9月あたりの開発の話になる。

ところで前回は、開発の順序がシナリオ通りで、いきあたりばったりに進んでいた…というムチャな話を書いたところ、当時のスタッフからやってきたメッセージをご紹介。

■ファルコム関係者の証言
よく考えると、設定があり、ストーリーが決まっている、という作り方はファルコムではされてなかったですね。ストーリー重視(笑)の英雄伝説Ⅰでさえ、一章内のおおざっぱなあらすじがあっただけで、作っている最中に設定が追加されたり、削除されたりしていました。
ただ、富さんの開発は、ストーリーありきだったので、ある程度先まで決まっていました。
ファルコムでは、通しでストーリーを書ける人がいなかったですし、まあ仮に書いても「こんなの(背景・キャラクタ)コストが高すぎて作れない」とブーブー文句が出て、うまくいかなかったかもですけど(笑)

いや…まあ、適当に作ったって面白いゲームができればいいじゃないですか…とは思うのだけど、それにしても危なっかしい作り方だ。
では『イースⅡ』の最終的な目的地、サルモン神殿すらも決まっていなかったのか? というと、さすがにそうではなくて、最終目的地が天空の神殿なのは間違いなく決まっていた。

■ファルコム関係者の証言
イースⅠの開発初期。まだ設定を練っている段階。 山根さんが、宮崎くんに「山の上の神殿は、門のようなもの。空に昇った神殿の一部分」と言う説明しているのを聞きました。
イースⅡのエンディングで(神殿から出てくる)アドルを待つリリアが描かれていたのを考えると、初期の構想が残っていたと思えます。

このアドルを待つリリアは多分容量不足が原因でPC88版には含まれないことになるのだけど、これをコンテに描いた山根は2年後にPCエンジン版を作ったとき、復活させる。

PCエンジン版イースⅠ・Ⅱのエンディング・2カット目

左上にでっかい空白があるのはデータが存在しない場所だからだ。
メモリがないとき、無駄な(見えない)いらないところは全て削除するコトから話は始まるのだ…というか、それをやって当たり前で「俺たちが圧縮するのはここから始まる」だったのが当時の開発だけど。
まあカットの雰囲気は違ったんだろうけれど、意味は同じ絵だ。執着あったんだなあと思ってしまう。

それはさておき、上の証言でわかる通り、世界観を作った山根の頭の中では「イースは、魔物から逃れるために天空に飛んだ」というのははっきりと決まっていたし、それはダルク・ファクトのコメントアウトされていた、そしてファミコン版ではコメントアウトがなぜ外され表示されていたセリフからも明らかだった。

表示されなかったダルクファクトのメッセージについて

セリフを書いたのは宮崎さんなのだから、間違いなく『イースⅡ』は「名前はともかく天空の神殿を目指す」のは決まっていただろうと想像できる。

と、前回の話に付け加えをしたところで、開発がノルティア北壁に入ったあたりで『イース1』のアンケートが届く。

■ファルコム関係者の証言
しばらくして『イースⅠ』のアンケートが届き、「簡単すぎる」「もっと長く遊びたかった」「ボスが倒せない」と言う感想が多かった。
ボリューム増とレベルアップを長めで対応する事になりました。
また、ボスをテクニックだけでなくレベルアップして倒せるようにしました。それとボス部屋から逃げられるようにもしました。
レベル差を分かってもらうため、ボスのHPの長さと弾が当たった時のSEでレベルが足りているかどうか判断してもらうようにしました。足りない時、1ドットも減らさなかったのは、橋本さんのこだわりです。
イースⅠの特徴的な部分がこの変更でなくなりました。残念。

まずこの証言で、ノルティア北壁を作っていたのは8月末ー9月だったんだろうなとわかる。

『イース1』の発売日はPC88版が6月21日、X1版が6月26日。
PC98版が8月28日なので、ちょっと遅すぎると考えて、最初の2機種でアンケートを集計すると考えると、夏休みが始まってからの購入まで含めたいだろうから、7月末~8月のお盆明けまではアンケートが集まるのを待ちたい(当時は夏休みは7月24日ぐらいからスタート)。

となると、スタッフのところにやってきたのは、早くてお盆明けだろうと想像できるし、もうちょっとちゃんと集計された結果だったのなら、8月も末の方に近かったろうなと想像できる。

そしてこの証言で何より重要なのが「ボリューム不足」「ボスが倒せない」の二つだ。

『イース1』のボスの大半(コウモリ・カマキリ・岩・顔・ダルクファクト)は、ただのアクションゲーム(『イース1』はコウモリの段階でレベル最大になる)で、桝田さんやさくま先生は、どんなことがあろうとクリアできる代物ではないと思っていたけれど、当時のアンケートでも「ボスが倒せない」という感想がスタッフが今でも覚えているぐらいあったわけだ。

クリアした人はバランスがいいというわけで、実際のプレイしている人の結果とは違う、いわば生存バイアスだというのがとても良くわかる。
それで『イースⅡ』ではRPGメカニクスの最大の強みであるレベルアップして、パラメータを強化することでヘタクソでも力任せに倒せる方針に変えようということになるわけだ(またこれはプレイタイムの延長にもなるのでボリューム不足に対応できる)。

これを「特徴的な部分がなくなった」と残念に思っていたというのは、言い換えると「RPGの強みとは、パラメータを上げることでヘタクソでも力任せに倒すことが出来る=クリアできる」クリア保証の考え方がとても薄かったことを意味している。

とは言っても、イース1-2の時代は、このシリーズの最初で書いた通り、コンピュータRPGという新しいスタイルが日本に本格的に登場してから数年経ち、ようやく「RPGってのはこんなゲームだ」というイメージが共有されはじめたタイミングだ(ファミコンでは、まさにRPGが沸騰している時代でもある)。
そして当時のゲームの考え方は、ゲームは腕前でクリアするものなのだから、 当時のスタッフのゲームに対する考え方が上のような考え方であったのも当たり前だ。

■ファルコム関係者の証言
レベルアップし、ボスを倒し次のステージへ進む構造になりました。
各ステージのボスは、アドルのレベルアップを確認する役割もあり、開発中は「ストッパー」や「レベルチェッカー」と呼んでいた。 

これはⅠ・Ⅱを作っているときに気になっていた、『イースⅡ』の他のボスは全てなんらかの面の区切りのポイントの手前(氷壁最後・溶岩最後・テレポート寸前・鐘つき堂手前・中枢手前)に置かれているのに、ベラガンダーだけは別で、どうしてなんだだろうと不思議だった、そして山根はサッパリ覚えていなかった理由がはっきりした瞬間だった。
まあ、山根はPC版の『イースⅡ』が作られているとき、それを横目に見ながら『ソーサリアン』を作っていたわけで、そりゃあ細かく知ってるわけはない。

というわけで「キャラクタを成長させてください」ということを分かりやすくするために、ボスだけではなくゲーム内の謎にも絡めようと、こんな証言も出てくる。

■ファルコム関係者の証言
橋本さんが、ユーザーにレベルアップの重要性や威力を分かってもらうため、氷壁のウラ面の氷の壁を壊せるよう案を出しました。

それが右の画像なのだけど、壊せるようにというか、ファイアの魔法がレベルアップして壊せるようになる仕掛けになっている。
実はPCエンジン版では、このレベルが足りないと反射されるのはほぼ機能しない。なぜならPCエンジン版ではここに至るまでずっとレベルアップをしているわけで、ここでわざわざレベルアップしないとダメという足止めともとれるようなコトをやらせる必要はないので「ファイアの魔法で溶かせる」以上のナゾにする必要がないからだ。

■ファルコム関係者の証言
氷壁を作っている途中、宮崎くんから滑り台を入れるようリクエストがあった。氷なので滑るよね(笑)

「ここ氷の世界ね」と決めてから、あとからシナリオ作ってるんだと言う事が良くわかる証言。
かくして、ノルティア北壁で『イースⅡ』は以下のようなゲームとして方針が確立する。

  • ボスを区切りに置く
  • レベルアップで進むゲームにする(RPGメカニクス中心にする)
  • レベルが足りないときは絶対に倒せないゲームにする

かくして『イースⅡ』は、ノルティア北壁で、アクションゲームからアクションRPGに変貌を遂げたわけである。

というところで、長くなったので次回に続く。

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5件のコメント

  • 「ノルティア北壁」じゃなくって「ノルティア氷壁」だと記憶しているのですがどっちでしたっけ?

    • 某所でも突っ込まれ、作者たちにも突っ込まれたのですがノルティア氷壁です。
      有名な冒険小説で『北壁の死闘』という作品があり、まあ、僕は大好きなんですが、これのせいで氷壁が北壁に化けていたのだと思いますw

  • こんにちは。
    いつも楽しく読ませて頂いております。
    話題とは関係なく申し訳ありません。PCエンジンminiが発表されましたね!
    まだ、数タイトルのみの発表ですが、一番遊びたいタイトルは?
    というアンケートでイースI&IIがぶっちぎりの首位でした。
    おめでとうございます!
    https://news.yahoo.co.jp/polls/easy/38885/result
    悪魔城ドラキュラXも名作ですが、イースとここまで差がつくとは思いませんでした。
    残りの収録タイトルにエメドラや天外IIも選ばれるといいですね。

  • はじめまして。
    当ブログにたまに来ては、記事を一気に読んでいました。

    PCエンジンminiぎ発表になりましたが、これについて思う事などあれば、記事にしていただけると嬉しいです。

    イース1・2は再販版を購入したのですが、2の最後で防具が弱いままでハマってしまいました。
    これからも楽しみにしています。

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