Hi-Tenボンバーマンの作者と制作環境

高橋名人が世界初のハイビジョン専用ゲーム『HI-TENボンバーマン』のディスクを入手。ゲーム保存協会へ保存

この記事(元になっている高橋名人のブログ記事)がツイッターのTLに流れてきた。
それでTLで聞かれたのが「ソースは残ってないんでしょうかね?」
こういうのは元ハドソンのいかにもやってそうな人たちに聞くに限る…

というわけで、ちょっとfacebookで聞いてみたところ、いろいろ細かいことが分かったので、記事として残しておきたい。もちろん、みんなにOKはもらっている。

登場人物は以下

  • 飛田→飛田 雅宏さん
    泣く子も黙る桃太郎伝説や桃太郎電鉄のプログラマ。X68KのAS/LKとかファミコン&PCエンジン&SFC用のAS/LKとか、SDとかivとか、ジャン狂とか、その他いろいろの作者。
  • 野沢→野沢 勝広さん
    泣く子も黙るスターソルジャーの作者…として多分一番有名。実はチャレンジャーの横スクロール面の作者だったりするし、MZ-80KのFORMというTiny Fortranの作者だったりするし、あとPCエンジンのカトちゃんケンちゃんの作者だったりもする。
    僕にとってはPCエンジンのカラーコントローラ鉄観音の仕様とかラスターの仕様を後出しで教えてくれる困った人w
  • →星 恵太君
    確か88年入社。サウンド屋。凄ノ王伝説、イース、天外Ⅱと、僕とはつきあっていたりする。
  • 岩崎→わて

まず、開発した場所について。

■飛田
当時ハイテンボンバーマンを開発していたのは芸術の森の研究所でした

芸術の森の中央研究所跡

と、書いてもわからない人が多いと思うので補足しておくと、ハドソンが大きくなったとき、札幌にある「芸術の森」に研究所を持っていたのだ。
調べたところ2015年の時はただの廃墟になっていたらしい。
掲載した写真のもとになったさらしるさんのツイート

では開発者は誰で、なんの上で動いていたゲームなのか?

■飛田
ソースはどうなったか知らないけど書いたのは野沢さんです。
AT互換機上で動いてます。ディプレイパラメーターをいじってハイビジョン信号に合わせて表示してる。
あの時は86アセンブラ? Cだったっけ?
■野沢
多分今再現するなら、ラズパイあたりで十分機能する気がするけど?
多分アセンブラのような気がするけど、あやふやです。

なんと、飛田さんと野沢さんをつついたら、当の本人たちだったという、ビックリ展開で、しかもAT互換機だったということまでわかってしまった。
ここで気になるのは、じゃあどんなビデオチップで出力していたのか?これまたあっという間に分かってしまった。

■飛田
Cirrus LogicのVGAチップを直接制御してるから今動かすにはディスプレイボードの入手が難しそうだな。まあアナログハイビジョンディスプレイも難しいけれど。岡田さんと一緒にチップセットのマニュアルを見ながら調整した記憶があります。
解像度的にはVGAなんだっけ?FHDだった?
■野沢
当時は1080iでノンインターにしてたよ。
ベースがVGAだけど、岡田さんや飛田が色々いじってから、最終的に私もいじったね。
FHDでも無く、変則的になってたはず。VGAよりはデカイよ。1024×512ぐらいのはず。まあ、所詮エセハイビジョンだね。
確かドットクロックを限界まで上げてもハイビジョンには届かなくて、仕方ないから、表示できる限界まで表示してみて、h-syncのタイミングだけはハイビジョンに近い値にした。その後、v-syncをハイビジョンにはできないので、表示ラスターをギリギリまで伸ばして、タイミングをハイビジョンに近い値に絞り込む。
まあ、先に岡田さんと飛田が色々試してたお陰で、その後のチューニングが出来たんだけどね。

「1080iでノンインター?」というコメントで「そりゃあわからない」ってことに気が付いたので、書いておく。
まず第一に野沢さんはうっかり1080iと書いているが、94年当時なので(多分)1125で、なおかつi。
これは当時NHKが研究していたアナログハイビジョンテレビなのだ。
だから 「h-syncのタイミングだけはハイビジョンに近い値 にした」とか 「表示ラスターをギリギリまで伸ばして、タイミングをハイビジョンに近い値に絞り込む 」なんてセリフがあるわけだ。
で、iなのにノンインターレスというのはありえる…というか、当時の8ビットゲームマシンはまさにそれで60フレームを出していたのです。

というわけで、Hi-Tenボンバーマンは以下の仕様だってことがわかった。

当時のAT互換機で動いている。
ビデオチップはCirrus LogicのVGAチップ。
FHD(1920×1080)ではなく1024×512ぐらいのを信号いじってむりやりアナログハイビジョンモニターに出力していた

当時の機材

また、これは当時の動画のプレイから切り出した右の画面でも確認することが出来る。
モニタの横にあるミニタワーのパソコンがご本尊なのは間違いない。
あと動画を確認するとわかるのだけど、右側のモニタには実は”Hi-Ten ボンバーマン”が映っている。で、この普通のPCモニタでモニタ出来ているので、ムチャな解像度ではないことが想像できる。

■野沢
当時一番面倒だったのは、pcエンジンにシリアルポートを増設して、コントローラのデータをpcに送ってた。これも私が作ったよ。回路もね。
最終造作で見栄えをなんとかしたのは、藤井かな?

藤井というのは、当時ハドソンにいた藤井君。89年にはいたはず。結構仲良かった。
そして面白いのがサウンド。

■野沢
サウンドが思い出せない、どうだったか?
■飛田
サウンドはどうだったかな?
あの当時だとサウンドブラスターをボードで挿していたと思うけどサウンド部隊に頼んだのかな?
■星
えー、おいら全然覚えてないっすw
KatuかLuかNrtすかね?
■岩崎
星はミソッカス扱いされて、触らせてもらえなかったんだよ!w
■星
あーうっすら思い出しましたが曲がどなたかアレンジしたオーディオで爆弾の効果音が何故かこのミソッカスが作ったショッボイ内蔵音源のやつだったはずですわwwww
ハイテンのために作ったんじゃなく初代PCエンジンのデータ流用かなあと。ビデオも見ましたが多分間違いないかと。
■野沢
シリアルでpcエンジンに繋がってるので、シリアル経由でサウンド指示ですね。pcエンジンはジョイパッドも担当してたし。まあ、有効利用ですね。
■星
あー、マルチタップ2つ使ってたりでしたっけ。
■岩崎
あーそういうことか、10人もいるもんねwww
■野沢
確かpcエンジンが二台必要

インターネットから拾い出した画面によると、確かにその通り。
PCエンジン2台を用意して、それぞれにマルチタップを繋ぎ、全部で10個のコントローラでプレイする構成になっている。

■飛田
2台とのインターフェースは何でしたっけ?
パラレルボード2枚?
PCE開発は98用の専用パラレルボードでしたけど
■野沢
PCとpcエンジンの接続はrs232cだよ。pcエンジンに8251を無理やり繋いだのは私です。回路設計と初期基板は私が作った。
外形は天の声バンクの筐体に藤井が納めてくれたはず。
まあ、初期製作は私だけど、後は藤井が追加製作をしてたはず。
シリアルならPCにデフォで繋がるし、シリアル拡張のボードもあったしね。シリアル上のプロトコルも私作だけどもう忘れてしまった。資料は残ってないよな。

そして、野沢さん、さらにビックリするようなことを書いた。

■野沢
そういえば、pcでやる前はなんとSony-newsのUnixで、Xwindowベースで作ってたことはあまり知られてない。一応、それらしく動かしてたけど、4-5fps程度でゲームとは呼べない感じだった。
ちなみにpcのハイテンボンバーがそこそこの速度で動いたのは、シーラスロジックのコントローラでvram間のビットブリットの高速コピーで全ての描画をしてました。つまり、初期化時に表示されないvramにパターンを書くことから始まってます。
ちなみに、表示用のvramは2枚あってスクロールレジスタで切り替えてたな。

というわけで、最初の質問、ソースについてだけど、アセンブラかCかも覚えてないんだから、こりゃムリだろうと思いながら聞いてみた会話。

■岩崎
a)ソースはナイスよね?w
b) この記事ブログにするからねw
■野沢
ソース、ないよなー。
ブログ、別に良いんじゃない。

オシマイである。

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5件のコメント

  • 素晴らしいです! スゴイです! こういう開発のお話は、いつ伺っても良いですね。熱いです!!

    素敵なエピソード、ありがとうございます。

  • 1080iでノンインターとは...

  • 受像機の仕様と映像の仕様がゴッチャになっていると誤解する人が出ますね
    アナログハイビジョン受像機は1080iを表示する仕様で作られているので
    奇数フィールドだけ使えば雑な解釈だけど540pの映像が表示出来る

    ブラウン管表示の知識が無いとカプコンのCPシステムのドットが何故縦長なのか?(正確にはVRAM上の1ドットのデータをどうやって縦長にしているか)とか理解できなかったりする

  • 名人のブログでCDを「Macで開けなかった」と言うのを見たとき、PCエンジンのソフトなら見るとこできないだろ、と思ったのですが
    PCで動作していたということはディスクは普通にISOフォーマットで、経年劣化で開けなくなったってことなんですかね

    • 「多分」でしかないですが、経年劣化だと思います。PC/ATで動いていたと言う事なので、フツーのISOだと思いますんで。

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