FFVIIIにあって今のゲームにないもの(下)

いきなり余談なのだけど、少しでもシド・フィールドを知ってもらいたいと思って書いたシナリオの教科書を、ものすごく良く読んでもらえてます。嬉しいです。

さて本編。
前編では「どうしてバイオハザードがシリーズが進むに従って怖くなくなったのか?」について、FFVIIIをプレイして、自分なりの答えが見出せた…というところまで書いたわけだけだけど、さて…
FFVIIIはPS1時代のゲームで、今のゲームに見られない大きな特徴が一つある。
それは“Alone in the dark”方式、すなわち背景にプリレンダの画像を表示し、その上にポリゴンのキャラを配置する方法を使っていること。わかりやすく書くと、ベタ絵の上にポリゴンキャラを表示して、ポリゴンキャラが背景のベタ絵に合わせて動き、どっかで画面が切り替わったりするって仕掛けだ。
背景はプリレンダの1枚絵だから、あまりポリゴンも食わないし(1枚絵を表示するのもポリゴンなので全く食わないわけではない。また単なる1枚絵ばかりではなく多重スクロールする複数枚の場合もあった)、もちろん負荷も低い。しかも当時のPS1では望むべくもない高クオリティの絵を表示することが出来るうえに、人物にポリゴンを割り振ることが出来るので、人物のクオリティも上がると、まったくスバラシイ方法だ。


今の感覚からすると「なんで全部3Dにしないの?」と思うだろうが、PS1のレンダリング能力で背景も手前も全部リアルタイム・インゲームレンダリングなんてことやると、それはそれは悲惨なポリゴンになってしまう。
「そんなヴァカな」って思い出補正のかかっている人はナムコの『ソウルエッジ』だの『鉄拳1』あたりや、コナミの『メタルギアソリッド(1)』のあたりを実際に見ると分かるが、2011年現在のHDTV世代に慣れきった目からは衝撃的なショボさで、びっくりなのは受けあいだ(ぶっちゃけPSPのゲームよりグラフィックス的にはきつい)
それも当たり前で、せいぜい数十万ポリゴン程度のレンダリング能力しかなく、テクスチャもヘッポコ、シェーダーもない解像度が1/12以下の代物で、純粋グラフィック性能だけならDSとやりあうレベルなのだから、仕方ない。

PS1の画面解像度は320×240なのでドット情報量を見ると、720pのテレビ、すなわち1280×720と比較して4×3の1/12の面積、1080pなら1920×1080で4.5×6で、1/27の面積しかない。

最初に1枚絵の前にポリゴンを置く方法が使われたのがどのソフトなのかは分からないが、画面形式的にはKing’s Questの延長上にある思想で、バイオハザードのモトネタになったゲーム史上に燦然と光り輝く世紀の大傑作Infogramesの”Alone in the dark”(1991 PC/AT)は、これを使っている。
だいたい3Dアドベンチャってジャンルが登場したのが、ほぼこの前後なので、多分”Alone in the dark”が最初だろうと思われる。もしかしたら、超マイナーな作品があるかも知れないのだが、インターネットをくまなく探し回っても違うという情報は見つけられなかった。

もし、違うという情報をお持ちの方がおられたら、教えていただきたい。同じくポリゴンを使用した”Another World”(日本題はアウターワールド)が1991年なので、わずかに影響を受けている可能性はあるが…それぐらいしか該当しそうな作品がない。
Alone それ自体は、多分King’s Questの延長としてゲームデザインされたのだと思うのだが…
ところで、まさかと思うが「XXを作った男達」シリーズのバイオハザードの話を信じてる人いないよね?

ともかく伝説的な大ヒットソフト群に使われ、一時隆盛を極めたこの方法には、今の据え置きHDゲームマシン群のゲームの大半にない特徴がいくつかある。
まず当たり前の事ながら、カメラが動かせない。そりゃそうだ。背景が1枚絵なのだから動かしようもない。せいぜい少しスクロールする程度だ(ミニゲームに使われ、かなり長くスクロールした場合もある)。
次にかなりラジコン操作の採用率が高い。分からない人のために説明すると、カーレースやFPSの操作系で回転したとき、カメラが回るのではなく、キャラが回る方式、良くある実装では、レバー上下でキャラクタが前進・後退し、左右で右と左に回転するなんて方法。
実際にゲームアーカイブスでバイオハザードをプレイするのがわかりやすいが、正直、自由にキャラクタを動かすにはかなり問題のある方式と言わざるを得ない(慣れても結構操作ミスをする)。
このラジコン方式をやめて、普通に移動方向を押すとその方向に移動できるようにしたのは多分スクウェア(スクウェアエニックスではなく、当時のスクウェア)で、FFVIIがその最初の作品だと思われる。とは言っても、FFVIIとバイオハザードの間には発売日の差が1年もないのを見ると、どちらもPS1のレンダリング能力で高品位なグラフィックを出す方法を検討した結果がAlone方式に収束したが、操作系には違いが出て、バイオハザードは操作系もAloneのラジコン方式を踏襲したが、FFではラジコン方式は直感的でなくプレイアビリティを露骨に下げるので、沢山売ることを前提とすると問題があると判断して使わなかったということだろう。
FFVIIと比較して、バイオ方式(ラジコン)の方がどう考えてもバカげているように見えるかも知れないが、ラジコン方式には一つとてもいいところがある。それはプレイヤーキャラクタの向きから操作が決まる相対方式なので、いかなるムチャなカメラアングルでも移動方向が必ず一意に決まること。実際、FFVIIやVIIIでは、画面を見ただけではレバーと移動方向がうまく対応せず、どちらに移動するのか分からないときがあるが、これはラジコン方式では原理的に起こらない。
なんにしても20世紀の間は、フルポリゴンでクオリティの高い街を作って、そこを自由に歩き回るゲームなんてまともに作ることは出来ず、クオリティの高いグラフィクスでゲームを作るために背景は固定画面のレンダリングされた1枚絵なのは普通だったということだ。
そしてこれはPS2初期の鬼武者などでは、まだ使用されていたが、PS2でのレンダリング技術のノウハウの蓄積による性能向上に伴って急速に使われなくなっていく。
なぜかというと、当たり前のことながらプレイアビリティと、あと背景が1枚絵は技術的に劣るイメージになって、使うのが難しくなっていくのだが、これこそが実はFFVIII…やVIIや、バイオハザードにあって、今のゲームになくなってしまったもの、すなわち「カメラアングルとカット」
これが結局、バイオハザードから「恐怖」を奪い去った主だ…というのが僕の考えだ。
なんの冗談だ、カットってなんだよ、それにカメラアングルならあるだろう? といいたくなるだろうが、まあ読んでいただきたい。
今のTPS系のゲームで普通に使われる操作系は右スティックでカメラ回転。プレイヤーを中心に自由にカメラ位置を変えることが出来る。だからキャラクタの周囲を見回しながらプレイするのが当たり前だ。もちろんプレイアビリティの点からは問題ない。カメラは自由に動かせる方がプレイしやすいに決まっている。だが、このカメラアングルは作り手側が効果的に見せたいカメラアングルとは別物の、プレイヤーが恣意的に決められるプレイしやすいアングルでしかない。さらに書くなら、そのカメラは「プレイヤーを中心もしくは少しずれた位置に表示する、常時プレイヤーを写すためのカメラ」でしかない。
それと比較すると”Alone型”は今まで何度か説明したとおり、基本的には背景は1枚絵で、カメラアングルは固定されている。当たり前のことながら、このカメラアングルは「作り手側がこう見せたいと思っているアングル」だ(まあさすがにほぼすべての状態でプレイヤーは写るが)。
この画面が固定なのはゲーム内で何かを強調したとき、とても効果的だ。例えばドアノブが手前側に大きく入るアングルで、ドアノブがガタガタ揺れればなんとも怪しい雰囲気をかもし出せるが、TPS型ではこんな画面に出来ない。単にドアのドアノブがガタガタ動いているだけだ。TPS型で強調しようとすると、ガタガタ揺れている>近づく>強制ムービースタートというような手段を使わなければならず、実は結構難しい。
また、当たり前だけど、カメラアングルが自由なTPSで、突然、敵をプレイヤーの周りに出すためには結構手が限られてしまう(画面の外にある保証がないから)。だからEAのDead Spaceでは恐怖感を煽るために、やたらめったら部屋が細かく区切られ、視界を悪くし、なおかつガラスで区切られた廊下を使って、その外で惨劇が展開されるとか、そういうテクニックを多用している(さらに書くと宇宙船の設定でそれを合理化している)。また、FPS形式のCONDEMNEDではだいたいマップがやたら暗くて、グネグネ曲げてある。はっきり書くなら、どっちも視界を区切るのに四苦八苦しているわけだ。
つまり、作り手側が効果的に設定したカメラアングルはTPS型のゲームでは実は、プレイヤーの介入がQTE程度に制限されるムービーにしか残っていないのだ。(インゲームのレンダリングまで含めてムービーと呼ぶ)
次にカットの問題。
これまた背景が1枚絵と露骨に繋がるのだけど、”alone”方式は基本的に1画面で固定され、キャラクタが指定の位置に移動すると次の画面に移る形式だ。そして1画面ごとにカメラの位置は固定されていて違う。言い換えるなら、マップの切り替えは”Alone型”では、いわば映画のカットを切り替えるような挙動をするわけだ。
ここで、例えばバイオハザード1(オリジナルPS版)のオープニングを考えると
1)オリジナル版はここでしか見られない謎の実写ムービー
2)広い玄関ホールからゲームが始まる
3)食堂っぽいところに入る
4)狭くて暗い廊下に入る。
5)ゾンビとの初顔合わせ(ムービー)。
間のマップをいくつか飛ばしているが、基本的にはこのような流れになる。ちなみに1)の実写ムービーの犬の安っぽさとかハンパじゃないので、ゼヒ見ていただきたい。僕は大好きだw
ミソなのは、狭くて暗い廊下でも、当たり前のことながら”alone”方式なので、プレイヤーはカメラをいじってあちこちを見ることが出来ないし、曲がった先(ここでマップが切り替わる)に何があるのかを知ることは出来ない。
だから画面に見える廊下の端にいったところで画面が切り替わり、そこで初めてマップではなく、目の前でゾンビが死体をグチャグチャ食べているムービーを見ることになる。しかも、画面の切り替えは通常のゲームと全く同じなため、ムービーが始まることも推測できない。
つまりプレイヤーをフォローするカメラではなく、固定されたカメラを置くことによって、画面が切り替わっていくために、映画のカットの切り替えのような効果を得られる。だから「表現力は現在の標準的なTPS型ゲームより上の部分がある」わけだ。

■まとめ■
“Alone”方式と比べると、現在の3Dアクションの主流のTPS形式は、プレイアビリティはもちろん遥かに上だけど「表現力」の点からは、実は苦手とするところがある。
■苦手1
カメラを切り替えるのが難しいTPS(やFPS)ではゲームでは、実は恐怖映画のような怖さを表現するのは難しい。特にカメラが切り替わったら、後ろから敵が襲いかかろうとしている…なんてホラー映画では超ありがちな演出はTPSやFPSでは、とても難しい。やろうとするとどうしてもムービー+QTEって方法になってしまう。
■苦手2
カメラアングルがないので「何かを強調する、意味のあるカメラアングル」を取るのが難しい。例えばドアノブを強調したくても、やろうとすると、普通のTPSなんかでありがちな、光っていて、近づいたらムービーが始まるなんてパターンになり、画面の表現力としては、最初からドアノブのアップを画面の中にいれ、いかにも触れという感じで見せられる”Alone”方式の方が優れている場合も多々ある。

そして、これらの苦手がまさに理由になって、先を見られない不自由さからくる想像力の働きや固定されたアングルの積み重ねによる気持ち悪さがなくなって、バイオハザードからは恐怖がなくなってしまったのだろうと僕は思ったのだった。
ところで余談になるが、現代において、バイオ型の「カメラアングル」や「カット」の要素を大きく取り入れたゲームがHEAVY RAIN。
このゲームは、その意味でも歴史に残るべきだ…と思っていたりするのだった。

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8件のコメント

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    僕はバイオハザードシリーズは全くやったことがない希有なゲーマーなので、
    多くは語れませんが感想をひとつ。
    TPS方式のゲームで恐怖を演出するには、プレイヤーの意表を突くような意外性の要素を様々な角度から盛り込む必要があるんでしょうね。
    ホラー映画やミステリー小説の作り手は、いつの時代も「伏線の強調化」という矛盾した課題を抱えていますからね。
    オチがわかったら意外性も何もないですし、ダブルミーニングのような仕掛けで、表の意味だけ強調して本来の意味を隠す技術が画面構成やプログラミングにも求められているのかもしれません。

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    ちょっと例にも出しましたがEAのDead Spaceなんかは、かなりイロイロやってますがTPS形式って結構手数が限られていまして、1でも後半はマップ見ただけでイベント読めたりするとか、結構寒くなってきて、2になると手が尽きてるなあと思います。
    ホラー/サスペンス系の未来は操作系はともかくとして\”Heavy Rain\”にあるのではないか…というのが、今のところの僕の意見です。

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    デモンズソウルはその辺上手く作られていると思うのですがどうでしょうか

  • AGENT: Mozilla/5.0 (Windows; U; Windows NT 6.1; en-US) AppleWebKit/534.16 (KHTML, like Gecko) Chrome/10.0.648.151 Safari/534.16
    ええと、デモンズソウルは言うにおよばず、様々な名作TPS系ゲームはもちろんカメラアングル・レベルデザインなど、いろいろ考えて作っていますが、どうしてもあるポイントでは固定型には勝てないところがあるって話なんですね。

  • AGENT: Mozilla/5.0 (Windows; U; Windows NT 6.1; en-US) AppleWebKit/534.16 (KHTML, like Gecko) Chrome/10.0.648.151 Safari/534.16
    なるほど。
    ところで話は変わるのですが、私は子供の頃からFC、PCエンジン、MD、SFC、PC-98、セガサターンと遊びましたが
    (イースI・II、天外魔境IIは何周も遊んだ思い出深いゲームです)、
    セガサターンを最後にゲームを殆ど遊ばなくなり、最近になりPS3でゲームを遊びだしました。
    久々にコンソールで遊んで驚いたのがゲーム機の性能の進化だったのですが、海外産のゲームにも驚きました。
    アンチャーテッド、アサシンクリードシリーズ、GTA4,ドラゴンエイジと遊びましたが、
    私が子供の頃、海外産のゲームは不親切でバランスが悪く、マニアしか遊ばないイメージでしたが、
    上に挙げたタイトルはかつての海外産のゲームの駄目な面がなく、
    またハードの進化に頼ったグラフィックが綺麗なだけのゲームでもなく、純粋に操作していて面白い、またやりこみがいのあるゲームでした。
    これらのゲームを遊んでからは、正直国内デベロッパーのゲームに食指が動かなくなってしまいました。
    これはアニメ調の絵柄に飽き飽きしていた私の好みもありますが。
    最近の国内デベロッパののゲームで興味を引き購入し、傑作だと感じたのはデモンズソウルくらいです
    (私はヌルゲーマーでそれほどゲームの情報をチェックしていないので知らないゲームは多いです。ご了承ください)。
    世界的な売り上げを見ても、海外デベロッパのゲームが大ヒットし、国内デベロッパ製のゲームは世界的にあまりヒットしなくなってきた印象があります。
    携帯ゲーム機市場ではまだまだ日本のデベロッパーが活躍していますが、
    子供の頃、日本のゲームが一番面白いと疑いようもなく思っていた事を思い出すと寂しく思います。
    そのあたりについて岩崎さんがどう感じているのか興味があります。

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    >> shi様
    そこらへんが好きならRDRも間違いなく大好きだと思います。
    X360のが出来がいいのでお勧めは持っているならソチラ版ですが、まあPS3版でも内容がメッチャ違うわけじゃないので、ぜひプレイを。
    …というのは、ともかくとして、そこらへんの話はとても深くて「ウゲゲ」な話になるので、とてもコメント欄だけで書けるような話ではないので、一度稿を改めてブログで意見として書きたいと思ってます。

  • AGENT: Mozilla/5.0 (Windows; U; Windows NT 6.1; en-US) AppleWebKit/534.16 (KHTML, like Gecko) Chrome/10.0.648.151 Safari/534.16
    実はGTA4はPC版で遊び、ドラゴンエイジはPS3で遊んでモッサリ具合に嫌気が指してPC版を買い直しました。
    RDRも遊びたくてうずうずしてますが、ひょっこりPC版が発売されないかなーと様子を見ておりました。
    そろそろPS3版を買ってしまおうかと考え中です。
    >…というのは、ともかくとして、そこらへんの話はとても深くて「ウゲゲ」な話になるので、
    はい、コメントを寄せればもしやその辺の話を新しい記事で書いてくれるかもしれないと淡い期待をしておりました。
    楽しみにしています。

  • AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 5.1; Trident/4.0; GTB6.4; .NET CLR 1.1.4322; .NET CLR 2.0.50727; .NET CLR 3.0.4506.2152; .NET CLR 3.5.30729; InfoPath.1)
    はじめまして。
    「零」シリーズは基本FF7の操作方法でしたが、画面を切り替える時だけラジコン型になっていて、これが意外と違和感なく、快適にプレイできて関心したと同時に「なぜここまで固定カメラにこだわるのだろう」と疑問に思ってたのですが、その疑問が解けました。
    「零」シリーズは変わらず怖いと感じるのですが、固定カメラにこだわり続けているのが一つのポイントになっているのでしょうね。

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