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1989年11月 - アフターカーニバル
前回はコレ
過去記事の集合体はコレ
この話は1988-89年頃、PCエンジン版のイースを作るとき、僕が経験した話を出来るだけ正確に記録に残すつもりで書いている。ただし、これは
1)21年前の話で、記憶違いの可能性は十分にある。
2)僕が体験したり思ったりしたことを書くようにしているが、伝聞情報(二次情報程度)もある。
だから、当時の正確な記録ではない可能性はあるのは理解して欲しい。

■■■

みんながデバッグしているとき、僕はいつでもイヤな人になる。
というのも、作っているとき、徹底的に面白くなるように直していく。でも、それはあくまで自分の感覚でしかなく、実際に他の人間がプレイして面白く感じるかとは別だ。
目標として100人がプレイしたとき、全員が面白いのは無理だが、出来れば80人ぐらいは面白いと思って欲しい。だけど、それが他人のある程度の評価として実際に分かるのは、それなりにゲームが完成してプレイ出来る状態になってからだ。しかも本当にわかるのは、最初から最後まで遊ばれるデバッグの時だけと考えていい。
だからデバッグ期間は「自分が信じて作ってきたモノ」に対する最初の審判が行われる時間であると同時に「最後の調整が行える時間」でもあるわけだ。
だから僕は、デバッグの時、デバッガの不満をカケラも見落とししたくないので、延々と何時間も人がデバッグしている画面を後ろから覗いて、挙句に「面白い?」とか聞いて「面白いですよ」といわれれば、どこが面白いのか根掘り葉掘り聞き、つまらないと言われれば、やはり根掘り葉掘り聞く。
どう考えても、たまらなく面倒くさい人間だ。

そして延々とバランス調整とデバッグを繰り返した、四苦八苦のデバッグが終り、とうとうイースはマスターを出すことになった。10月マスター予定だったが、実際は間に合わず、1989年11月7日がマスターを入れる日付になった。

イースは72分もあったせいで、当時はCDRを使うことが出来ず、何枚もマスターを作ったので、バージョンヒストリーのようにCDを持っている。そして、中でも貴重品が、声優さんとミックスが行われていない曲が入ったバージョン。僕はこれをサウンドトラックと呼んでいる。



まあ年末商戦には発売できたから…いいということにしておきたいが、正直な話として、僕の関わったゲームが予定通りに発売できたことは、たったの一度しかない。なんだか、とてもダメな話で困ってしまうが、そんな情けない話はともかくとして、マスターを出して、焼き鳥屋で酒を飲んだ明くる日。
部屋にいたってやることもないので(だからといって、ハドソンに行ったってソースの整理とかしかやることはなかったわけだけど)、ブラブラと昼ぐらいにハドソンに行って、ソースの整理などしつつ、ファミコンの新作を遊びながら、マスターあとの打ち上げどうするべーなんて思っていると、そこに我らが俊英、杉本悟がやってきた。
「岩崎さん、すみません」
「なに?」
「バグ見つけたんですが…」
「エ~~~~~~~ッ!?」

症状を聞いて、即調べたHaHi君はソースを開き、調べるとあっというまに理由を特定した。
「岩崎さん、理由わかったよ!」
「なんなの?」
「カウンタがさ、リターンの魔法で使うワークとかぶってるんだよ。でリターンの魔法を起動して選んだ町の番号が上書きされちゃうから、どこ飛ぶかわからないんだよね」
「わはは、こりゃー見つからなかったわけだ」
「岩崎さん、えーとマスター焼きますか?」
「なあ、杉本…マスター出しちゃったから、直しようがないんだよ」
「えー! じゃあどうすればいいんですか?」
と驚いた杉本に僕は言った。
「見つからないことを祈るだけだね」

実際、少なくとも、僕はイースのバグとしてこれが知られているという話は全く知らないし、少なくとも裏技・その他で見つかったという話を聞いたことが一度もないので、今回、あえて公開したい。
ただし試すときは、以下の条件を読んで、納得した上で試して欲しい。
本物は壊れたワークエリアを参照しているので、どこにジャンプするかわからない。最悪バッテリバックアップを破壊するなど様々な危険がある。またエミュレータ版ではなにが起こるか全くわからない。

●以下は再現方法。
1)リターンの魔法を装備する。
2)ノルティア北壁で滑り台に乗る。
3)滑ってる最中にリターンの魔法を起動
4)ドーン


…なんで、みつからなかったかなあ…

と、このシリーズで、長々とイースについて書いてきたが、僕にとって、イース1・2はプロとしてコンソールゲームを作った第2作という意味以上に、深い意味があった。

正直、凄ノ王伝説で、イマイチのゲームを作った僕が、プロとして食べていけるのか、それを知りたくて本当に受けることを考えて全力を尽くした。正直、これが受けなかったら、ゲームを作るのは止めようと思っていた(どう考えても受けて当たり前で、コケる方が情けない状況だ)。

作っている環境も最高だった。
HaHi君と二人で全コードを書き、テキストは長山君と全部書き、山根とコンテの打ち合わせで毎日もめ…と、本当に楽しかった。
このあと様々な作品に関わったが、コード2人、シナリオ2人なんてゲームは後にも先にもこれだけだし、グラフィックチームもゲームのサイズを考えれば小さいく、ほとんど最小に近い人数構成だったので、風通しがよく、自分の意志を隅々まで完璧にいきわたらせることが出来た。
イース1・2はCDROMでありながら、ROM時代の小さなチームで作れた、ほぼ最後の作品だった気がするし、少なくとも僕はこれ以降は最低人数25人の世界で、一度もこんな小さなチームで仕事が出来たことはない(今、すぐソーシャルを作れば小さなチームでやれそうだけど…)。

そしてイースを作ってから色々な事があったが、一番うれしかったのは、発売された直後に、東京のハドソンに打ち合わせで呼び出されたときに、返ってきてたアンケートはがきを見せてもらったときだった。
ほとんどのアンケートはがきが買ってよかったに丸がつき、およそアンケートのほとんどの答えが満足だったときだ。あまりに嬉しかったので、100枚サンプリングしてチェックさせてもらったら、97枚がオール満足だった
本当に作ってよかったと思った瞬間だった。

また、このとき、中本さんから「海外版のイースを作ってくれ」と言われた。
海外版のイースBook 1&2は、移植には結構時間がかかった。作業自体はそれほど辛くなかったが、ともかく待ち時間が多かったのだ。
1月から移植をスタートして丸2ヶ月ぐらいで翻訳&バランスの調整を終わらせ、ゲームが出来上がったのは2月だったが、大変だったのはそのあとだった。
まず翻訳のチェック(差別的な用語などに対して、アメリカは非常に厳しい)をするために、アメリカにテキストをFAXすると、当時は統一された規制ルールを統括するESRBのような団体がなかったために、様々な政治団体をシナリオが巡って、チェックされることになって、2週間返事が戻ってこない。
さらにディスクをアメリカに送ると、航空便丸2日はかかる(インターネットがないので、飛行機に乗ってディスクが行く)。
これまたディスクの中身が各種の団体を巡り、チェックされた項目がFAXで戻ってきて、それを元に修正。またディスクを送る…こんなことやっていれば、飛ぶように時間は過ぎていく。
ヒマでしょうがなかったので、作ってるゲームを片っ端からデバッグしたり、他のチームのサブプログラマやらしてもらったりしてた。あと受付のかわいい女の子とデートしたり、花見にいったりもした記憶がある


そして海外版イースの製作スケジュールの打ち合わせも一通り終ったところで、中本さんが言った。
「ところでよぉ、岩崎」
「はあ、なんでしょうか?」
「今度さ、広井さんとさ桝田君とで、天外2作るのよ。で、広井さんがお前がいいっていうんだよ、やってくれない?」

来たか、という感じだった。
10月ぐらいから天外2を桝田さんがやるという話は聞いていた。それで桝田さんから非公式に「広井さんが仕事をしたがっている」とは聞いていた。それが、イースが終わって、公式なものになろうとしていた。
「桝田さんから、聞いてます。いいっすよ、やりましょう」
「おう、またみんな驚かすべや!」


こうして、僕はまた中本さんに誘われ、天外2を作る、とんでもなく困難なプロジェクトに挑むことになった。
でも、それはまた別のストーリーだ。

■■■ 僕がイースを作った頃 - The end ■■■

ところで全くの余談だが本当に反省していて、しまったなあと思っていることがある。それは自分の名前をパスワードに使ったことだ。
解説しておくと、PCエンジンCDROMのセーブ用のRAMの容量はとても小さくてたったの2キロバイト、漢字で1024文字分しかない。つまりちょっとセーブ容量の大きなゲームが出るといっぱいになってしまう。そして当時はメモリカードなんて便利なものはなかったので、セーブデータがいっぱいになると、何かファイルを消すしかない。
そのとき、ファイルを消してもセーブデータをパスワードとして出しておけば、またパスワードを入力することで、プレイすることが出来る…というわけで、イースにはパスワードがサポートされている。
今時の感覚からすると奇っ怪きわまりない話だけど、当時はまだバッテリバックアップが高くセーブ領域も小さかったので、RPGがパスワードで保存できるのは当たり前だったから、なんの不思議もなかったわけだ。
で、このパスワードにデバッグコマンドを入力すると、いろいろなデバッグモードを起動出来る…という仕掛けを入れたわけだ。
それでどんなパスワードにしようかという話になったとき、人の名前とか会社の名前にしておけば絶対に忘れないとHaHi君が言って、僕の名前だの誰かさんの名前だの、アルファシステムだのをパスワードに設定したわけだ。(アルファシステムは残念ながらそのままではないぞ)
パスワードは3つほどあり、撮影用・デバッグ用・音楽モード&セーブ数を増やすぞパスワードだったわけだが、もちろん、デバッグコマンドなので公開する気はゼロだった。
ところが、この中で、実質的に大きな問題がない音楽モード&セーブデータの数を増やすパスワード「いわさきひろまさ」をハドソンが裏技として公開してくれたわけだ。
どうせ本名で活動しているんだし、別にいいといえばいいのだが、こんなどうしようもない目にあうなら「あまぎひでゆき」でもしておけば良かったよ、と全く後悔している次第なのだ。
|| 02:46 | comments (10) | trackback (0) | ||

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コメント
一連の記事、すごく面白かったです。

天外2については、いまだによく分からない仕様があるので
その辺もいずれ気が向いたら教えていただけると嬉しいです。

細かいことで覚えてらっしゃらないかもしれませんが、
敵の知能が下がる「千湯」や「万湯」、運が悪くなる「仏滅」、
敵専用の技「同体化」の効果などなど、長年の謎が多いですw

開発中に消えたイベントとか、裏話(桝田さんの捏造という噂もw)とか、
当時の雑誌でワクワクしながら読んでました。

楽しすぎる一時をありがとうございます。
| 魚虎 | EMAIL | URL | 10/10/05 05:22 | .PZftFbY |
もうお終いなんですね。残念。
PCエンジンの話題は同世代のゲーム機の中でも埋没してしまっている感が否めなく
特に開発者の話となると当時も今もユーザーが知る機会が殆ど無いのでとても楽しく読ませて頂きました。

話は変わりますが最近のゲームはバグというか裏技的なものがめっきり少なくなったような気がします。
特別仕込んだものじゃなくデバックミスやバグだったりしたものが見つかり裏技扱いされてしまったときは
やはり開発者としては何か思う所があったりするものなのでしょうか?
もし関わった作品の中やレビューした作品の中でまだ表に出ていないものがあったらこっそり教えて欲しいなーとか思っちゃったり・・・。
| masa | EMAIL | URL | 10/10/03 23:37 | .IPG7hh6 |
天外ファンとしては天外2の話は是非聞いてみたいところです。
どうやって大人数プロジェクトを動かす
体制を作っていったのか、興味あります。

とりあえず気が向いたら、ということでお願いいたします。
| 高木 | EMAIL | URL | 10/10/03 22:31 | HYsU8.Mg |
当時の話を執筆なさってくださり、本当にありがとうございます。
WiiのVCのPCE版イースは5回はクリアしたと思いますし、よくイースのファンの方のサイトを見るのですが、リーターンの魔法のバグは初耳です。早速試してみます。

それと20人(ぐらい)の高校の友達に「PCE版イースを知っているか?」とたずねたところ、自分を除いて1人が知っていました。年代などから考えたら、まずまずの知名度なのではないでしょうか?(もちろん正確な統計方法で計ったら違う結果になるのでしょうが。)

ともかく、最強のRPGはイース、特にPCE版のものだとは伝えました。
| ともひと | EMAIL | URL | 10/10/03 22:22 | 1hBEwsoY |
>take 様
海外版は確かにセリフを大規模に変えました。ですが海外版は、僕とジョンが作業して、あと進藤に一部片手間で終わる仕事を頼んだ程度で、開発をしたうえで面白い話ではないので、別に書く必要はないだろうと思ってます。

またアドルがどのようにしてイースに飛んだか、については山根のイメージとしては本6冊がフィールドのようになって、アドルを繭で包んで飛ばす、というイメージだったと思います。少なくとも、叩きつけられるイメージではなかったと思います。

>も 様
いや別に適当、自分の好きで書いてるブログですから(笑)

ただ、天外2は書いても、あんま面白くないんですよね~
本当に大規模になって、仕事として膨らんでいますから。
| 岩崎 | EMAIL | URL | 10/10/03 21:02 | Eeem.i3Y |
え~もう終わりですか?早いなぁ・・・

あとは海外版の話ですね。メッセージが大幅変更されてるようなので興味津々です。

ところで、PCエンジン版イース2のOPではアドルがイースに着陸する場面があります。他の機種では、このような描写はありません。
ちなみにイースのオリジナル・アニメーションでは、アドルは墜落して負傷してしまいます。そ~っと着陸するPCエンジン版とは対照的で気になっているのですが、山根さんとしては無事着陸が本意だったのでしょうか?
| take | EMAIL | URL | 10/10/03 19:10 | JGFFBEc2 |
ああっ、やっとイースの話が終わったと思ったらまた気になる締め方を…

途中、自分のリクエストのせいで岩崎さんが当初想像していたよりも、ずっと長い期間の執筆になってしまったのではないかと心配していましたが、これではまた続きを希望せざるを得ません。
まあ、また気が向いたらという事でお願いします。

ともあれ、イースの思い出についてお疲れ様でした。
| も | EMAIL | URL | 10/10/03 18:46 | arlvUf2E |
>Konbcan 様
売り上げについては僕も知らないのです(笑)
イースはファルコムとの絡みがあったので、契約がロイヤリティでないため本数報告がありません。
だから約10万本以上という話以上は知らないのです。
ちなみにハドソンはちゃんと儲かったそうです。

>本名荒井 様
海外版ではリターンのバグは取ってあります(笑)
ちなみに低確率ですがノルティア北壁から、脱走者たちの隠れ家へジャンプできる可能性があるのですが、そうなったら何が起こるか全く想像もつきませんw
| 岩崎 | EMAIL | URL | 10/10/03 15:06 | Eeem.i3Y |
リターンのバグは、さすがに知りませんでした。
怖いもの見たさで試してみようかな。

イースI・IIの売上は最終的にどれくらいいったんですか?
PCエンジンソフトの売上本数はあまり表に出てこないので、よかったら教えていただけませんか?
| konbcan | EMAIL | URL | 10/10/03 08:59 | vQbRc1qk |
執筆おつかれさまでした。毎回楽しく拝読いたしました。PCエンジン版が歴史的名作となった理由を垣間見た思いです。
現在でこそ賛否両論あるようですが、PCエンジン版が「究極のイース」の一つであることは、間違いないと思います。

ところで件のリターンバグは、海外版では修正できたのでしょうか(笑)
| 本名荒井 | EMAIL | URL | 10/10/03 08:14 | .YETrgkw |
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