イースⅠ・Ⅱ通史(11):イースⅡ、始まる
このシリーズは様々な人にインタビューして、だいたいはっきりしたパソコン版の『イース1』から、海外版PCエンジン版(TurboGrafx 16)の『イースⅠ・Ⅱ』までの通史として、出来るだけ当時の事情なども織り込みつつ、書いていこうというシリーズだ。だから85年あたりから話は始まり、90年5月で終わることになる。
ただし30年も昔の話で連絡が取れない当事者も多く「様々な人から聞いて、どうやらこうらしい」という部分が多々あり、こうだろうと推測して埋めているところもあるので、知っておられる方は遠慮なく教えてくれるととても嬉しい。
それからコメント欄は承認制なので「表にするな」と書いてくれれば、表にしません。
さて本文。
1987年の6月の終わりから7月初め、『イースⅠ』が発売され、他機種の移植の終わった橋本さん(他の移植は進行中)と大浦さんで『イースⅡ』のストーリーを考えるミーティングをしたときから、ゲームの開発は始まったと考えていい(この時はまだ他のメンバーは移植作業の最中)。
山根によると、橋本さんは「Ⅱを作るのはけじめだ」みたいなことを言っていたらしいのだけど、まあその気持ちはわかる。わかるのだが…この会議、大浦さんの話によると…
ネタは「天空に行く」だけしか残っておらず、またストーリーに絡めようもなかったです。結果ほとんど何も決まりませんでした。
という、とんでもないコトになっていた。
正直、これを聞いたとき、ビックリしたと言わざるを得なかった。
というのも、大雑把なゲームのストーリーはあったのだろうと思っていたら、本当に全く何もなくて、天空に行く、そこには魔の元凶がいる、ぐらいしかなかったというのだから、唖然としてしまう。
で、この最初の会議からもう少しして、実際に『イースⅡ』を作り始めるのだけど…なんと山根がイースから外れ、大浦さんが代わりに入ることになる。
ある日突然決まったらしいのだけど、要は木屋さんは山根のドットを使いたくて『ソーサリアン』に山根を持っていく。これで山根は『イースⅡ』からいなくなって、大浦さんがメインでチップを作ることになる。
そして87年12月に『ソーサリアン』は発売され、まさにギリギリまで作業をしていたらしいこと、大浦さんは『ソーサリアン』をやるつもりで準備を始めていた(正確な日時は誰も覚えていなかった)というあたりから察するに、木屋さんは87年の6月頃にテストを始めていて、87年の7月頃に『ソーサリアン』を作り始めたと思われる。
言い換えるなら、このあたりで『イースⅡ』の開発は始まったことになり、これは発売が87年6月だった『イースⅠ』の移植作業などまで含めると、とても納得のいく流れだ。
そんなことがありつつも『イースⅡ』の開発が始まるのだけど、スタートしてすぐのスタッフ会議で「新しいヒロインが欲しい!」と桶谷さんが力説する。
これは リリアは誰が創りだしたのか? でも聞いた話だったのだけど、確認が取れた形だ。
山根はそれを聞いて「ヒロインはフィーナだろう」と大いに憤ったらしいのだけど、橋本さんは「新ヒロイン、いいねえ」ってことで、新ヒロインを作ると言う事になる(だいたいにおいて山根は橋本さんと他のメンバーに押し切られてしまう役だったらしい)。
ただし、この段階ではストーリーにどんな風にからめるかはまったく決まっていない。そして、桶谷さんは「新ヒロインは病弱でなければならず云々」と条件を並べ立て、宮崎さんを説得するという、とんでもない話になる。
つまりリリアの生みの親は桶谷さんということだ。
と、こんな風に、新ヒロイン以外は、話もなければなにもない状態でプロジェクトは進んでいく。
これではしょうがないので、マップを1個テストで作ろうという話になり、最初に出来たのがムーンドリアの廃墟。
どうして廃墟になったのかは誰も覚えていなかったが、多分イースでゼピック村から入る神殿が廃墟になっていたので、その延長で廃墟になったのだろう。
この話で、ムーンドリアの廃墟が他のマップと比べると明らかにコンパクトな理由がようやくわかった。テストマップだったからだ。
このマップを作って見えたことがいろいろあり、大浦さんによると「廃墟を作った感触から、イースⅠのような神秘的な背景を作るのは難しいと思った。神秘的はやめて色々入ったバラエティ路線にする」と決めたらしい。
橋本さんはこのマップの上で様々なテストを行うのだけど、まず自動障害避けと村人と話しやすくする改良を行う(この改良は非常に大きな改良で『イースⅠ・Ⅱ』ではゲームの最初から入ることになる)。
そして…橋本さんは、ある日、魔法を作る事を思いつく。
ファイアの魔法の誕生だ。
最初のファイアの魔法はテストということもあって、スペースキーを押すと、アドルが3体くらい飛んでいくシュールなものだったらしい。
ここで「えっ?」と、イースⅠとⅡのストーリーをを知っている人なら、誰もが思うだろう。
イースのストーリーは「黒い真珠から魔法を生み出したら、黒い真珠が意志を持って襲ってきたという話じゃなかったのかい?」という質問が出てくる。
よーく考えてみるとだ。
『イースⅠ』ではダルク・ファクトがシルバー(クレリア)に弱いという話はされているし魔物の話は出てくるし、青いメダルがなんだか魔物を食い止められるって話は出てくるし、神官が力を結集した本を残したって話はあるが、魔法があっただのなんだのって話はサッパリだ。
なんとはなく「魔法はあったのだろうなァ」と思っていただけで、ズバリそんなことが書かれている箇所はサッパリない。
注意しておくと、オリジナルのPC88版でのイースの本のテキストの話。エターナルとかは、後付け設定がイースの本の中身に反映されている。
つまりなんとイースの神官の魔法の話は『イースⅡ』を作り出してからの後付けだったのだ!
そしてそれをファルコムの方が証言している。
■ファルコム関係者の証言
宮崎さんが「聖域」を提案。神官の司る魔法を絡め、神官の一人一人が別の魔法を司っていたという案を思いつくのですが、魔法の案は(ファイア以外は)すぐには出てきませんでした。
なんてこったい…なのだけど、実はこれはものすごく納得がいく話だ。
なぜなら、実は『イースⅠ・Ⅱ』を作ったとき、ここは、とても気になっていたポイントの一つだったからだ。
『イースⅠ』で手に入れるイースの本はダームの塔の中にはNPCがほとんどいないのもあって、半分がヒントメッセージになっている代物だけど、ともかく話が曖昧で「クレリアが災いらしい」だの「ブルーアミュレットで魔物の動きが遅くなる」だの「女神が消えた」だの、もうどうしようもなくいい加減な情報の塊だ。
ところが『イースⅡ』の聖域で神官の像がしゃべるセリフは事情をとても正確に説明している。
ついでに書くと肝心かなめなところはさっぱり知らない登場人物なのだけど「なんでここの話は正確なのよ?」というのはヒジョーに痛い話で「どこで神官はこの情報を知ったんだ」と言いたくなってしまう。
そして、僕はこれを『イースⅠ・Ⅱ』ではイースの本に反映させて、徹底的に書き直したかったのだけど、オリジナルを尊重して我慢したのである
真相はイースⅡまで魔法なんて、さっぱり考えていなかったわけだ。
そして、ファイアの魔法を作ったあたりで、ランスの村を作る。
■ファルコム関係者の証言
村が出来上がり、3種類の歩行キャラクターの内にリリアが入った。元気にノシノシ歩いていた。この元気な娘が三ヶ月の命だったとは(笑)
桶谷さんの主張によりリリアが登場したわけだが、なんと先にドット絵が出来上がっているという衝撃の展開。
考えてみれば、1987年のこの時期、オープニングを作るはずの山根は『ソーサリアン』のドットをしゃかりきに打っているんだから、作れるはずもない。
いったい、これはどうなっているんだ…?
というところで、クッソ長いので続く。
2件のコメント
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イースⅡの魔法は6種類ありますが、どうしても必要なのはファイアとライトとテレパシーだけですよね?
「神殿に行くには6つの魔法が必要」というテキストがあったはずですが、全ての魔法をシナリオに絡ませるという選択肢はなかったのでしょうか?
このあとのテキストでわかるのですが、ぶっちゃけ行き当たりばったりで作っているので、そこらへんの整合性はまるで取れてなかったというのが真実でしょうね。