2000年4月23日
これは約20年前に開催された『リアルこみパ』にサークルとして参加した時のレポートで、ある同人誌に掲載されたテキストだ。
ある同人誌に収録された経緯は最後まで読んでくれればわかる。
ファイルの整理をしていたら、たまたま見つけて、リアルこみパの雰囲気をよく書けている結構面白いテキストだと思ったので、歴史の一つとして残るようにブログに掲載しておくことにした。
ただ、当時のサークル名やスタッフ名をそのまま出すのはナニだと思ったので、そこは伏せさせてもらった。
ところで、いかにも20年前の僕っぽい文章の書き方で、いろいろ手直ししたいのだけど、やってしまうと文章の雰囲気を壊しそうなので、読みやすく成形したことを除いて、ほぼ何も触っていない。
それでは、お楽しみください。
登場人物
- ボケナス
本編の語り手。HIGH RISKなるサークルにたまたま巻き込まれ、そのままズルズルと泥沼のように5年もつきあっている。 - 沢山の正規スタッフ
本質的には無能である。なんの役にも立たない上に、たいていの場合にはIDカードを背広の内側に入れているセコい手段のために名前も覚えられなかった。なお、上に行くほど役に立たなくなり、下に行くほど一生懸命はやっていたのは間違いない。なお、上に行くと「メガホン」がつき、「メガホンのついた無能なスタッフ」になる方式をとっている。 - ミスターB
某巨大即売会、その他の即売会で遊んでいるオヤジ。怪しい形状なのだが、スタッフとしては優秀である。 - ハードボイルドKG
身なりはカチっとしているが、中身はシューティングマニア。なぜかスタッフとして出来る。こみパには、冷やかしでやって来た筈だったのだが、泥沼の中に巻き込まれる。 - ファンキーHM
身なりもファンキー、しゃべり方もファンキーなら、実際の性格もファンキーな男。なぜかスタッフ歴があり、スタッフとして長くしている。こみパには、冷やかしでやって来た筈だったのだが、これまた泥沼の中に叩き込まれる結果になる。 - アイアイサーWN
1メートル80センチ以上の身長と、軽率な言動で知られるパワー溢れる男。運動部系のパワフルなノリと、見かけの割には小さい度胸、そして気の利かないことでも知られている。 - 勇者LF
ちょっと小太りの目端の利く怪しい同人誌購入者。ボケナスも関わる某即売会のスタッフをやっていたのが運の尽き。
9:40 有明ビッグサイト・東1ホールの端
『どんな物語にも始まりはある』ってのはスターウォーズの宣伝文句だったりする。
こいつは当然真実で、ミヒャエル・エンデじゃないけれど「始まりのない物語」って奴ばかりは存在しない。この宇宙にだって、ビッグバンがあって、始まりがあるぐらいなんだ。
そして、この物語の場合には、始まりは、有明ビッグサイト東1ホールの端で、僕がぼんやりと館内を眺めながら、音が大きいばかりで下手くそなバンドの演奏を「うるさいなあ」と思っているとき「館内混雑対応」と言われる方が持ってきた。
「館内混雑対応ですけれど」
メガネをかけ、スーツ姿のなかなかシブい方である。
いただけないのは、胸に燦然と輝くはずのIDカードを背広の内側に隠してしまい、名前がちゃんと読めないことぐらいのモノだった。
「あーよろしくお願いします」
「で、列なんですけれど、4列で曲げて、非常口から出していただけますか」
「はあ」
と、僕は、自分でも呆れるぐらい間抜けな返事をした。
こんな間の抜けた返事をしたのには、当然理由がある。
有明のビッグサイトという奴は口の悪いスタッフに「有明星人が作った建物だから、こんなに同人誌即売会に使いにくいんだ」と言われるほどに妙に使いにくい。
だが、それも仕方ない。
「建物の中でイベントの全ては行う」という考え方で作られ、数万人が押し寄せて、館内が満杯になるバカバカしい事態など想定していないのだ。
だいたい、コミケなんてイベントの方が異常なのだ。
だが、それはともかくとしても、そういう事を想定していないせいで、東1(東側の一番端の館)の端の非常口の外は、ちょっとした歩道があるだけで、残りは車道。
しかも一般の方々も使われるタクシー乗り場が、その歩道に鎮座ましましている素晴らしい場所なのだ(ちなみに、コミケットでは、タクシー乗り場を車道の端に寄せる方法で10メーターほど通路を稼いでいる。全館貸し切りの強さだろう)。
そして、非常口を開けてから、そこに至るまで5メートルほどしかないのだから--普通に考えて、すぐに列が突き当たって、メロメロになるのは自明の理だった。
それにだ。
横は泣く子も黙る強力サークルが3つも控えている。そちらの列がどうなるのか、どこに流すのかがはっきりしない限りは、それだけの言葉でなんとか出来るワケもない。
「前に突き当たったらどうするんですか?」
「は?」
と、けげんそうな顔をするメガネ男スタッフ。
「だから10メートルぐらいしかないじゃないですか。40人も並んだら終わりですよ。先に突き当たったらどうするんですか?」
「前には、横のサークルさんの列が3つ流れますから、突き当たってもらっては困るんです」
「は?」
と、事態が納得出来ずに、ますます間抜けな返事を返す僕を見て、メガネ男は言葉を付け加えた。
「横のシャッターを開けて、3つのサークルさんはそちらから、4列で列を流す予定なんです」
あまりにビックリする言葉だった。
タクシー乗り場まで5メートル。そこにだ、横にある3つのサークルの列を流すというのだ。
4人×3=12人
5メートル÷12人=約0.41メートル。
一人たったの41センチ!
自分の幅を計ったって、どうみたって50センチはある。
人がレゴブロックのごとく隙間なく張り付いたと仮定しても、50センチ×12=6メートル必要だ。通路ゼロと考えても並ばない。
どんな奇跡が起こったとしても、3つのサークルの列がグチャグチャに混じって、ワケがわからなくなるのは保証付きだ。
それに加えてHIGH RISKの列を外に出すというのだから、仮に何かの間違いでうまく列が出せたとしても、まともな状態になるわけもない。
しかもだ。
僕は、その瞬間までシャッターを開けるなんて全く聞いていなかった。
横の列はどうするのかな~、中だと終わってしまうよな~なんて思っていたぐらいなのだ(ちなみにだ。サークルの前には見たこともない面白い列を並べるためのテープが貼ってあったのだが、何のために貼ってあったのかは未だ分からず)。
この瞬間に僕は悟っていた。
- この人達は、小学生レベルの計算も出来ない。
- きっと列を整理したことがない。
- 実際にイベントに立ち会ったことはまずない。少なくとも「人が沢山くるサークルがどうなるか」を見たことはない。
(結論)この人達は、ただのド素人だ。
「はあ、分かりました。じゃそうします」
僕は、ともかく話を聞いたことにして、話を打ち切った。
机上の空論しかない、それもとんでもない計算間違いしか出来ない人間と話をしていたって、どうしようもない。ともかく、隣のサークルと話をして、どうするのかを確認するしかなかった。
9:50 死亡宣告
「シャッター開けるって言っているんですけれど…そっちには連絡行きました?」
「ええ、それで4列で流してくれって言っているんですけど…前、ちょっとしかありませんよねぇ」
「並べないと思うんですけれど」
「並べませんよねぇ…」
MTも、BZも、そしてSPも大騒ぎだった。
どう考えてもうまく行くとは思えない列を作る計画を聞かされて、しかも、通り一遍のことを言うと、スタッフは去っていってしまい、
- いったい全体どれだけのスタッフが来るのか?
- 何をしてくれるのか?
- そもそも何かの役に立つのか?
それらの疑問の全てに対して回答はゼロの状態だった。
そしてだ。
HIGH RISKぐらいならともかくだ。横の3つのサークルは少なくとも、数千人単位で人を集めてしまう人気サークルだ。このまま開催すれば、全く誰も身動き出来なくなり、下手をしたら机が倒れたりすることも十分に想像出来た。
誰もが「ヤバイ」と感じ始めていた。
だから、そんなこんなで、残り10分の段階になって「少なくとも自分たちのサークルだけでもひどい目に遭わないようにしよう」という話を、僕は、そのあたりにいたコミケ・レヴォなどのスタッフ(主にミスターB、ハードボイルドKG、ファンキーHM、その他モロモロ)と話し合いを始めていわけだ。
確かに、事前の情報から「まともなスタッフがおらず、何が起こるか分からない」ということは想像していたのは認める。
どれだけ混乱するのかを、興味しんしんにちょっとハスがかったイジワルな目で見ていたのも認めよう。そして、みんな半分見物がてら、冷やかしがてらに、それを見に来ていたのも認める。
だがだ。
少なくとも、サークルに通りいっぺんの説明をしたきり、それも「物理的に絶対に出来るとは思えない設定」をして、風のように去っていくとはまさに、全く・ひとつも想像出来ない事態だった。
そして、「いったい、何が起こるのか、どうするのか」と僕らが鳩首会談をしていたとき、またスタッフがやって来た。
「なんだなんだ、なにするんだ?」
何をするつもりなのかを見ていると…なんと、彼らはシャッターを開け始めた。
「うわっ もうシャッター開けるって、どないするんじゃあっ!」
まだ開場まで10分あって、何をするのかも決めていない状態でシャッターが開いてしまって、目の前にグチャグチャの人の塊が出来てしまったら、お手上げだ。
真っ青になっている僕らの前で、シャッターはゆっくりと開いていく。
風が強い日だったので、風が館内に吹き込み、本が飛びそうになり、サークルは大騒ぎになった。
そして、開いたシャッターの前には…なんと…カタログを買う一般参加者の列があった。
「これでどうして、混雑対応出来るのか、オレに言ってみろっ!」
僕は思わずスタッフに向かって怒鳴っていた。
その時、後ろから一言、ボソリとミスターBの声が聞こえた。
「あーあ、終わっちゃった」
9:52 混乱
僕ら、サークル関係者はシャッターが開けられたことで、大混乱に陥っていた。
そりゃ当たり前だ。
- どこから
- どんな風に
- 列を回していくのか
そういう議論・考え・事前の計画・説明、その他モロモロ一切なく、いきなりシャッターだけが開けられたのだ。後ろには、殺気だった買い込み部隊がいて、前は開いたシャッターと、呆然とカタログを買っている一般の列。
そして、シャッターを開けただけで、消えてしまったスタッフ。
この窮地に置かれて混乱しないわけはない。
「ともかくどうするか考えよう」
必死になっている僕らの所に、またスタッフがやってきた。
そして--
シャッターを閉め始めた。
閉まったシャッターを見ながら、僕らは呆然とした。なんのために開けて、なんのために閉めたのか、何も分からなかった。
そのとき--BZの机をドンと叩く音がした。後ろを見ると、ミスターBが机に両手をついていた。
「ねぇ、オレ、ここ仕切っちゃうよ? いい?」
みんなうなずいた。全員の顔がひきつっていた。
「そうしよう。そうじゃないと、オレ達死んじゃうよ」
ハードボイルドKGが言った。
「じゃあ、僕、SPとネゴ取ります。あと使えるメンツを使って、なんとかしましょうよ」
僕らは必死で計画を立て始めた。時間はもうほとんど残されていなかった。
10:00 大混乱
10時になったとき、僕らは大雑把に混雑対応の計画を立て、そしてそれに対応する用意は一応出来ていた。むろん、コミケやその他モロモロの『それなりにまともで、人が来る即売会』と比較すれば、粗雑極まりない計画だった。
だいたい前が狭すぎて、計画全体にもの凄く無理があるのもはっきりしていたし、それだけの列が入るのか、誰もが心配だった。余りに不確定要素は多かった。だが、少なくとも「何もない」よりはマシな計画なのは確かだった。
僕らは、不安はあったが、「なんとかなるかも知れない」と思いながら、開場を待っていた。だが…10時になっても、なんのインフォメーションもなく、そして開場される気配もなかった。(ついでに書くが、またまたシャッターも開いていた。全くどういうつもりだったんだろうか。シャッターを開け閉めするのが楽しかったのだろうか)。
どう考えても、なんの開場準備が終了しているとは思えない状態だったから、それも当たり前だったが、会場全体が異様なムードになりつつあった。
そして10時5分頃、全ての破綻が始まった。
まず、どこからともなくパラパラと拍手が起こった(これがどこから起こったのかは未だ以て分からない)。そして、それに合わせて、開場と勘違いしたサークルの買い出し部隊が走り出したのだ。
この状態になったら、ともかく開場してしまうしか方法はない。
当然、HIGH RISKにも列が出来ていた。
「ねぇ、ボケナスさん、開場してないよね」
「うん、開場してないけど…売っちゃえ。このあともまともに売れるか分からないからさ」
僕はあいざわひろしに叫んだ。
これから先、外に2万人からいると噂される人間が流し込まれるのだ。
どれだけの混乱が起こるのか想像がつかなかった。ともかくサークルとしては売れるうちに売るのが正解としか思えなかった。
「あーこみパは準備が遅れていて、まだ開催されておりません。開催は遅れますが10:15になります。みなさま、席に戻ってください」
天井のPAから、会場を人が走り回っている状態を無視したアナウンスが行われた。だが、むろん、そんな声は誰も聞かず、ただひたすら人は走り回っていた。(余談だが、結局、いつ開場宣言したのか、僕には未だもって分からないのだが)
途方もない量の人がBZ・SP・MTの前に押し寄せ、列が狭い場所にできあがりつつあった。汗だくになって走り回るハードボイルドKGや、ファンキーHMの横に、黒服・背広姿のスタッフは何をするでもなく立っていた(背広がおたくの汗で汚れるのを嫌ったのだろう)。
だが、僕らは、その下らない動かないスタッフを気にする余裕はどこにもなかった。ひたすら、列を整理するために、必死になって動き続けた。
10:15 地獄に落ちやがれ
10時15分の段階では、僕らの予想より、ほんの少しだけだが現実は「良かった」。
これには理由がある。
まず、スタッフの手際が恐ろしく悪かったために、一般入場が途方もなく遅かった。
おかげで、人の流れ込むスピードが遅く、結果として列を形成する時間を稼ぐことが出来ていた。
そして、次にスタッフ間の連絡が破綻していたおかげで「どこから外の列に並べるのか」を誰も説明することが出来ず、結果として、サークルの中の買い出し部隊も、広い館内を走り回っているだけで、にっちもさっちも行かなくなっていた。
結果として、形成された列を制御するだけの余裕が出来ていた。
これならなんとかなるかも知れない…僕らはそう思い始めていた。
だが、その僅かな余裕を奪い去る驚くべき出来事が、この瞬間にまさに起ころうとしていることを僕らは知らなかった。
僕らのサークルの横のスペース(シャッターの脇)は「通路としては使えない」という話をスタッフからされていた。まあ簡単に言うなら通行禁止だ。
スタッフはメガホンを持って、ずっとそれを喚いていた。
「ここは通れません。あちらの出口から外に出てください」
まあ、これだけが『正規スタッフの仕事』みたいなものだったのだが、そこに激怒した一団がやってきた。
「あっちに行けば、あっちは通れない。こっちから通れと言われるんだけど、どうなっているんだ! どこから出られるんだ!?」
僕は列の整理で汗だくになりながら、それを聞いてあきれ果てていた。どんな奴だって、こんな対応をされれば怒るに決まっている。だいたい、出口すら決まっていないイベントなんて生まれて初めてだ…僕は思っていた。
だが、次の瞬間、そのメガホンを持ったスタッフが言ったセリフは、全ての予想を裏切るものだった。
「今から、この通路は通れることになりました」
目の前には通路が通れないことを前提にして、MTの列があるのだ。そこを通路にするというのだ。正規スタッフには、今、自分の目の前にあるものが列だということすら理解出来ないのだろうか?
「わわわ」
突然、通路になった場所に人がなだれ込み、混乱が起る中で、慌てふためくアイアイサーWNの悲鳴が聞こえる。
「何考えてやがる、通行止めって言ったろう!?」
僕が怒鳴るのを無視して、正規スタッフ(背広+メガホンつき)は逃げるように、その場から消え去った(実際、逃げたのだと思う)。
「アイアイサーWN! ここ切って、通路にしろっ! 後ろはなんとかするっ」
僕はアイアイサーWNに怒鳴ると、混乱を起こしつつある列の中に飛び込んだ。
「ね、列の最後尾このあたりになかった?」
列の中ではシューティングKGが汗だくになって叫んでいた。
「KG、中メチャメチャだ、なんとかしなきゃ」
「あ、ボケナスさん、いいところに来てくれました! ここちょっと押さえておいてください」
「分かった」
「列の最後尾がどこかに行っちゃったんですよ」
「じゃ、押さえておくから探してきて」
ほんの5メートルほどの所に3つの人気サークルの列が詰め込まれ、まるで朝の山の手のような状況になっている中で、列の切った貼った(誤植ではない(笑))をしているのだから、行方不明になるのも無理はなかった。
ハードボイルドKGに相談して、中をなんとかしようとしたのだが、外もなんともならない。どこからか人を捜さなければならなかった。
「あのーボケナスさん…最後尾ってどこですかねぇ?」
その時、僕の背後から聞き慣れた声が聞こえた。はっとして後ろを向くと、そこには勇者LFが立っていた。
「いいところに来たっ! もうすぐハードボイルドKGがここに来るから、それまで列押さえておいて!」
「い、いいですけど…新刊が…」
「わかった! オレがさ、話してなんとかするからっ! お願いっ!」
「分かりました…やります」
実は、もらえる自信は全然なかったのだが、ともかく人は欲しかった。騙してでも、使えるスタッフが欲しかった。あまりにこちらは戦力不足だった(余談だが本をもらえて、勇者に対して顔を立てることに成功はした。いや、本当に悪かった)。
僕は、勇者LFを列に置くと、また泥沼化しているであろうMTの列に向かって突進した。アイアイサーWNが泣きそうになっているはずだった。
僕らは泥沼の中で戦い続けた。
12:30 戦いは終わった
11時以降も、ツライことはあった。
HIGH RISKの周囲のサークルさんの机が押され、倒れそうになっているのをジャニーズNNとともに他のサークルさんとも話をして、全体を後ろに下げて、ようやくの事で切り抜けたり、正規スタッフが「SP、列ひどいなあ、販売とめちゃおうか」とか言っていてキレそうになったり、まあ本当にイロイロとあった。
だが、そんな事はあっても、ともかく列は列として機能し、2時間足らずで、僕らの周辺のサークルは全て売り終わっていた。
モノがなくなれば、人もいなくなる。
僕らはなんとか生き延びたのだった。
旅の恥はかき捨てってか?
この物語の教訓はなんだろうか?
スタッフ経験者は偉いなあ?
いやいや、そんなバカバカしい事を言うつもりはない。あの混乱のど真ん中にいたとき、僕らはひたすら右往左往しただけだったし、僕らがなんとか出来たのは、実力も少しはあるだろうが、どちらかというと運の方が大きかった。
ちょっと一般入場の速度が速かったら、もう絶対にダメだったろうし(そして一般入場の速度が遅かったのは、あのボンクラな正規スタッフのおかげなのだ)、突如、通行禁止を通行可能にしたスタッフが10分早く同じ事をやっていたら、やっぱりダメになっていただろう。
僕らの言うことを、一般参加者が聞いてくれなかったら終わりだったし、外側から回り込まれたりしたら、やっぱり終わりだった。一般参加者が協力してくれる中、紙一重の条件が重なって、少なくとも事故は防げただけなのだ。
要は「運が良かった」って話でしかない。
それにだ。ここでいかにも「物語は終わった」フリをしているが、教訓も何も、この物語は終わっちゃいない。
もともと、この物語はホームページにアップロードするつもりだった。余りに、ひどい目にあったのでキレて書いて、ホームページに公開するつもりだったのだ。
では、どうしてアップロードしなかったのか?
その理由は簡単。公式掲示板を見ていたから、に尽きる。
こみパが終わった後、公式掲示板には様々な書き込みがなされた。
「いい」もあれば「悪い」もあった。そして、コミケやその他、普通の即売会を経験した人達からは「ひどい」とかなり手厳しく批判された。批判の数は多かった。
では、これらに対して公式はどのように答えたのだろうか?
答え:「全部削除」
彼らは反省もへったくれもなく一般に対して「大成功したカッコいいイベント」のイメージを作るために、あらゆる批判を全て削除してしまったのだ。
こんな聞く気がない態度を見せられては、この文章をアップロードするのもバカらしくなる。
彼らにとっては企業イメージが一番大事で、即売会として反省するとかそういう考え方は一切なかっただけなのだ。
『どうでもいいや』
僕の文章は作家が必ず持つという、伝説のボツ箱の中に投げ込まれ、こうして、物語は終わりを迎えることなく、消えることになるかと思われたのだった。
だから、物語は終わっていないってわけだ。
だが、この文章の存在をかぎつけた某氏が、この怪しげな本に「載せよう」と言ったので、こうして復活することになったわけだ。
つまりだ、本当の教訓は…
「原稿をボツにしても、削除はせずにファイルは残しておこう。そうすれば、また出すチャンスもある」
ってことなのだ。