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斉藤由貴さんとKMOとハドソンと(下)
上はコレ
中はコレ

【あらすじw】
1987年、CD-iにウンザリしていた僕は、KMOで仕事をしていた知り合い編集SKさんの誘いに乗り、ハドソンでゲームを作らないかという話にダボハゼのように食いついた。
そしてハドソンにプレゼンを行い、首尾よくサイキョーRPGを作れそうになったところまではよかったが、うっかりCD-iの仕事をしていると話したことで、中本さんにCD-ROMの話を根掘り葉掘り聞かれる羽目になり、エラい目に合ってしまう。
こんなわけでKMOの仕事を断りにくくなった僕に、メインプログラマがパンクしているので新しい88のサウンドルーチンを書いてくれ、との依頼が舞い込む。
首尾よく書き終わって渡して数日後、なぜかNECに一緒に来てくれということになり、お気楽に行くと、なんとプログラムが出来ていなくて、メインプログラマが南の島にトンズラ状態な事実が判明する。
そして、なんとメインプログラマの代打を引き受けさせられてしまったのだった…

以下、本文。
今回は完結篇。

僕が「やります」といったので、会議は終りになり、代わりに僕とNECの間での仕様の打ち合わせに変わった。
いかにパーツとはいえ、一度引き受けた仕事で、少なくとも責任の一端はあった。それに正直なことを書けば、サウンドルーチン程度を書けない人間が全体を書けるわけがないとは思ったし「どうにも出来る感じがしねえ」と、メイン君を見て思っていたのに、それを警告しなかった自分に責任も感じていた。
【注】このとき以降「悪い事になる」と自分が思ったときには必ず言うようにしている。それが仮に自分の好きでない人間で、自分をハブった挙句にプロジェクトから叩き出そうとしている人間であろうと警告はしている。外れれば「外れましたね」でいいし、少なくとも自分が危ないと思っていることぐらいは伝えたほうがいい。


「ところで締め切りはいつなんでしょう?」
「非常に厳しいのですが、あと10日です」
ゲーっとなった一瞬だった。ただ、デバッグは結構大変だけど、プログラム的に面倒なところは読めていたし、なんとか間に合うだろう…と予想できた。
ただしサウンドボードが問題だった。手元にあるサウンドボードは完全版ではなくPCM部分がなくてFM音源部だけという代物だったので、全部自分で書かないといけないって話になると音声部分のテストが出来ない。
「僕の手元には、サウンドボードのFM音源部しかなくて、PCM部分が入った最終版がないので、音声周りのテストのしようがないのですが、貸し出していただけますか?」
「それがですね…今、全て貸し出し中で、最終版は当社にもない状態なんですよ」
「え?」
「あ、それは私がメインプログラマからもらってきます」
ハードがないことに驚いた僕にTKさんが言った。
「あとですね、一部音声の取り直しがありますので、サウンドボードを一度NECに持ってきていただいて、そののちに岩崎さんに素材と共にお貸しする、という形でよろしいでしょうか?」
「はい、そういうことでお願いします」

【注】このときはわからなかったが、今ならソフトハウスに貸し出されてソフトが作られていたとわかる。有力なサードパーティにハードを貸し出しているのは、プロになった今から考えれば全く当たり前の話だ。

「あと、仕様を確認したいんですが、アセンブラは使ってはダメなんですよね?」
「ええ。このデモディスクはですね、購入されたユーザーのみなさんにも配られるんですよ。そこでソースを見てもらって『こんな機能があるのか』と理解してもらう教材も兼ねているので、BASICで書いていただかないと困るんです」
ゲーッとまたぶっ飛んだ。
ショップにデモとして置かれるのは分かっていたが、ユーザーの教材になるなんて話は聞いてない。めんどくさくて、適当につけた変数名(tekitoだの、gomiだの)、いい加減極まりない行番号だのを全部直さないとマズいのがわかった瞬間だった。
「つまり教材も兼ねるから、出来るだけコメントはついていたほうがいいしBASICで完結させて欲しい、とそういうことですね?」
「はい、そうなんです。短い時間で大変だとは思いますが、よろしくお願いします」
会議の最初とはうってかわって、ニコニコしている銀縁オジサンに握手されながら言われたが、全部あわせて10日しかなくて、しかも手元にはサウンドボードIIが無くて、最終的な音のチェックすら出来ない有様だ。おまけに一部の声の録り直しがあると明言されている。全くタイトロープもいいところだ。正直、シャレになってない。
そうはいっても音声などについてはコメントアウトしておくだけで作業は出来るわけだから、作業は出来る…ということで、本当に忙しくなった。
確か、この前後に「会社を辞める」という話をして、自分の仕事のまとめを始めていたはずなので、会社で自分の仕事をまとめ、部屋に帰って、デモのコードを書き、と本当に忙しく仕事をする騒ぎになった。

そして、3日後だったという記憶があるがTKさんから連絡が入った。
「岩崎君、サウンドボードIIが戻ってきたんだけど、予定通り一度NECにボードを渡しておくから、明日NECに受け取りに行ってくれるかな?」
「あーはい」
「それで予定が詰まってるらしくて、明日、NECでデータの修正を行い、岩崎君に確認してもらって、サウンドボードIIと一緒にそのまま渡すという流れで、よろしくです」
「あー、はい、わかりました」
「明日は僕はいけないけれど、よろしくです」
「はい、わかりました」
「なんとか間に合いそう?」
「サウンドボードが来れば大丈夫だと思います」
と、少し心配そうなTKさんの質問に、まあなんとかなるだろうと読めてきたので、結構落ち着いて返事した。

【注】このサウンドボードIIを取り返すのに、TKさんは恐ろしく苦労したらしい。ミスターメインプログラマ君は南の島にバカンスにお出かけして、電話は繋がらず(1987年当時なので携帯電話じゃないよ)、TKさんと誰か編集部の人が延々アパートの前に張り込んで、メインプログラマ君が帰ってくるのを待つという、まるで探偵のようなことをやって、ようやくとっ捕まえたらしい。
TKさんからチラっと聞いたが、つかまえたとき、NECの会議に行けなかった言い訳を始めて「もうすぐ出来る」と言ったらしいのだが、ともかくいいからサウンドボードを渡せで、奪い取ったという話だった。
このあと、メインプログラマ君とは一度も会っていないので、今、何をやっているのかは知らないが、あの能力でゲーム業界に来ることだけは止めていただきたい。

明くる日。
頭の中は来る筈のデータとサウンドボードのことで一杯の状態でNECに行き「KMOの岩崎ですけれど」などと受付に言ったら、例の銀縁オジサンがニコニコしながら出てきた。

【注】フリー稼業をやっていると、付き合いが深い会社の名刺がいろいろな都合で供給されたりする。まあライターの名刺やフリーの名刺では困るときは、そっちを出してくれってことだ。例えば僕はフリー時代に角川メディアオフィスとハドソンの名刺を持っていたりした。

「岩崎さん、これから社内のスタジオで録音するところですので、こちらへどうぞ」
「あ、はい」
「作業の進行状況はどうですか?」
「大丈夫だと思います。音声は飛ばしてますけれど、残りのルーチンはほぼ出来て動いてます。音声は今日ボードもらったらテスト出来ますし…部屋が火事になるとか、よほどの事故がない限り、間に合うと思いますよ」
「そうですか、それは良かったです」
銀ブチオジサンの質問に答えつつ、社内にスタジオあるなんてスゲエなあ…と思いながら、案内されたドアを開けたところにいたのは…斉藤由貴さんだった。
正直に書く。
僕はアイドルとか芸能人に興味のない人だ。さすがに斉藤由貴さんの名前は知っていたが、ファンでもなんでもなかった。だが目の前で見たとき「ああ、アイドルは常軌を逸して可愛くて、すごい」と思った。
この興味のない僕が、見た瞬間に「うわ~めちゃくちゃかわいい(こんなカワイイ女の子は見たこと無いってレベル)」と思ったし、それに部屋の中にはずいぶんな数の人がいたのに、一瞬で僕の目を捉えたのは斉藤さんだった。
世の中には視線を惹きつける…いわば目立つ人がいると思う。不思議なことだけど、これは間違いない。歩いていると、なぜか道を聞かれる人と全然聞かれない人がいるということだ。そして、その人目を惹きつける人の中でも、オーラとか、そういう言葉を使いたくはないけれど、そうとでも表現しないと説明出来ないほど人を惹きつける力のある人がアイドルなんだと思った瞬間だった。
「こちらがデモの作業を行ってもらっている岩崎さんです」
あまりのかわいさに、ちょっとポカーンとしていた僕を銀ブチオジサンが斉藤さんの前まで連れて行き、紹介した。
「はじめまして、よろしくお願いします」
おじぎをした斉藤由貴さん。
「はじめまして、よろしくお願いします」
うわーかわえーと思いながらも、アイドルなんてナンボのもんじゃいとハスに構えた僕。
「それでは、少し予定が変わったセリフの録音を…」
などと説明が行われ、録音が行われた。変更したセリフは、NEC社内の広報用の何かをやるついでにうまくねじ込んで録音させてもらった…とか後から聞いた。
「よろしくお願いします」から始まるセリフと、若干修正された原稿(実はオリジナルの原稿を知らないので、何が修正されたのか僕はわからない)を斉藤さんが読み、数テイク録音したのち、オーケーが出た。
「それでは、お先に失礼します」
お辞儀をして、斉藤由貴さんは去っていった。
あとは録音をサウンドボード2用に加工して、もらってデモを完成させるだけだった。


【注】ちなみにここで書いておくと、このとき録音したのはメモリではない。デジタルデータでもない。オープンリールだ。…と書いても分からない人が多いだろうから書いておくと、アナログで録音する、当時は業務用では普通に使われていたカセットテープの親玉のような代物だ。


え? 斉藤由貴さんとは本当に挨拶しただけじゃないかって?
そのとおりだが、挨拶だけとはいえ、当時、物凄く人気のあったビッグアイドルと、距離1メートル以下で挨拶できる、なんてのは、さすがにあまりない経験だろう。
というわけで、これが、僕がどうして斉藤由貴さんと会ったことがあるのか…という顛末だ。

…とオチをつけてしまったが、デモはモチロンできた。
この録音の後、すぐにマスターのPCMデータをもらい、2日ほどで完成させた。

このコテンパンな仕事は金額的には割があわなかったと思っているけれど、それでも斉藤さんに会えたのは、少々自慢のタネではなかろうか。
|| 21:41 | comments (6) | trackback (0) | ||

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コメント
楽しいお話でした。意外とオチがあっさりしてましたね。

斉藤由貴を知らない人がいるのに、びっくり。
といっても、当時は子供だったので「めぞん一刻」の歌を歌ってた人くらいの認識ですね。

その逃げちゃったプログラマさんは、その後も逃げ続けているでしょうから、ご苦労なさってるかと思います。

割に合わない仕事の方が「次はもっとうまくやってやる」って気にさせられるので、案外捨てたものでもないのかなとは思います。
| iju0210 | EMAIL | URL | 10/11/13 10:44 | WxtAvuuA |
無事完結お疲れ様でした。
打ち切りENDじゃなくて良かったですw

私も以前人気のある俳優の方を見かけた時
同じような印象を持ちました。
不思議なものですよね。

あとハブられたプロジェクト~のくだりに
興味が湧いてしまったのは失礼でしょうか。
次のお話も楽しみにしております。
| ケラ | EMAIL | URL | 10/11/13 00:27 | /FtDGUrQ |
ああ、オーラとか人を惹きつけるような女性は確かにいます
私も芸能人じゃないけど某局の美人女子アナを取材先の現場に
居合わせた関係で目の前で見たことがありますけど、そばにいた他の
女性スタッフや、野次馬の女性とかを含めて一際目を惹いたもんです

オープンリールは昔学校の放送部にあったから友人とこれで結構遊んだ覚えがある
80年代じゃ再生速度を自由にいじれる身近な機器はこれくらいだったかな?
| はちはち | EMAIL | URL | 10/11/12 23:43 | 7Q0Cf0A. |
凄い話ですね。
そんな手枷足枷状態で10日とか言われたら、内容はともかく逃げ出したくなっちゃいます。
…斉藤さん…という人は知りませんが、トップアイドルさんと会った経験より、納期きっちり間に合わせた岩崎さんの仕事ぶりの方がふつーに自慢になるのではw
| shrike | EMAIL | URL | 10/11/12 14:27 | Kr.onr.k |
僕もそのあたりの経緯はサッパリ謎なのです。
23年ほど前に一度あっただけの人間で、なぜプログラマになっていたのかとか全く知りませんから。
多分、当時KMOに(何らかの理由で)出入りしてて「ちょっとしたプログラム」ぐらいなら書けたんだろうと思います。
で、聞いたら「やれます」とか安請け合いしたんじゃないのかなーと。もちろん推測ですが。
| 岩崎 | EMAIL | URL | 10/11/11 11:39 | Eeem.i3Y |
仕事を放棄したメインプログラマ氏が、どういう経緯で仕事を請けたのか分かりませんが、依頼する側は事前にプログラム能力の確認をしなかったんですかね?簡単なテストを行うとか方法はあると思うんですが。


しかしオープンリールとは懐かしいです。昔の「スパイ大作戦」に出てくるアレですよね。今でも一部のマニアは使ってると思いますよ。
| take | EMAIL | URL | 10/11/11 08:30 | /ywjWtWQ |
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