どうしてハドソンはROMカートリッジを自社生産しなかったか?

『ハドソン伝説』に関係して「どうして独自カートリッジを生産しなかったか理由が書いてありましたか」「ファミコンの最初期から任天堂さんがサードパーティとの生産委託の契約書を持っていた」という、正直な話として、1983-84年当時のことをいろいろ勘違いされているなというツイートを見かけたので、ちょっとここに書いておきたい。

まず「ナムコは独自でROMを生産したのに、どうしてハドソンは独自で生産しなかったのか?」

答えは簡単で、ナムコはすでにマニュファクチャとして基板を大量生産する能力があったけど、ハドソンにはなく、なおかつそんなことをする金もなかったから。

当時、つまり84年ごろのハドソンはせいぜい数十人しか社員がいない小さな会社で、83年時点で売り上げが全部合わせて20億程度。
ROMの生産委託の2億行かないぐらいの費用すら、集めた問屋の注文を銀行に見せて、ようやく融資してもらっているサイズの企業だ。

ROMを大量生産する=基板を量産する&カートリッジのプラスチックを量産する、そしてそれを流通に出すときの倉庫を持つ、さらにハドソンが使ったことがないオモチャ流通も開拓しなければならない

そして84年当時のROMの生産委託費を出すのすら銀行から融資に頼っていたハドソンに、そんなことをやる余力があるわけない。

だからナムコのようにROM生産を考えられるのか? と考えれば答えは明白で出来るわけもない
そして当時の任天堂さんはファミコンのカートリッジを生産できるのがわかっている会社なのだから、任天堂さんに生産してくれと頼むのが当たり前なわけだ。

なお『さよならハドソン』に書いたけれど、ハドソンは初のサードパーティなのと同時に、今のコンソールのビジネスモデルの生産委託契約を史上初めて結んだ会社でもある。
つまり現在のコンソール業界の在り方はハドソンと任天堂さんの契約がなされた瞬間から始まっているともいえるわけだ。

そして、二つ目の話。
任天堂さんはそもそもサードパーティなんてものは想定していない
だから契約なんてありゃしなかった。

ATARIにサードパーティがあったじゃないか云々と語っている人がいたが、1979年にアクティビジョンがVCSにサードパーティとして参入したとき、ATARIは、市場にカートリッジが出ないように妨害して、なおかつ訴訟まで起こしている。

これがATARIの敗北が決まるのが1982年。そしてファミコンの発売は1983年7月で1年ほど。

なおかつ日本では、パソコン以外にはメーカー以外のソフトハウスがソフトを出す文化はないし、そのパソコンにしても79年あたりから出来上がった文化で、まだ数年の世界だ。

だから、任天堂さんはサードパーティなんて想定しているわけがない。

それがゆえにハドソンとの契約は史上初の生産委託契約ではあったが、後に盛り込まれた本数の制限がないし、ロイヤリティなどいろいろ違うところがあった。
またナムコさんの参入では、ROMを生産する能力も資金力もあったことから直販まで匂わせつつ、強面の法務がまとめていった結果、カートリッジの独自生産になったという当事者の話が残っている。

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これらの話でわかるとおり、任天堂さんはファミコンでサードパーティを想定していなかったのだ。
もちろん社内で「サードパーティ出てきたらどうすんの?」みたいな会話はあったかも知れないが、それもなかったと考える方が当時の状況を考えれば合理的だ。

では、これがいつ頃契約としてまとまっていったのか?
ハドソン&ナムコが参入してから、次にジャレコが『エクセリオン』を発売したのが85年2月。
この半年の間に、ハドソンの契約をベースに生産委託契約の形が完成したと考えていいのではなかろうか。

正直、ゲーム史を見るうえでは基礎の基礎の話なのだけど、基礎過ぎて書かなかったのは失敗だったかなあと、ちょっと思ったのであった。

それはともかくとして、そんなハドソンの全ファミコンソフトについて出来るだけのエピソードを集めた本が『ハドソン伝説』。

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2件のコメント

  • この分だとハドソン伝説、ファミコン編PLUSが百頁越えしてPCエンジン編も上中下更にPLUSが出て全6巻構成になりそうな・・・
    いっそイース通史共々全巻収納BOXが欲しくなります
    可能ならPCソフト編も!(デゼニランドとか)

    あとハドソン伝説ファミコン編、イース通史Ⅰのように修正入った二刷目出るならリアル店舗購入派としては背表紙片隅とか外から二刷目と判る表記があると嬉しいです
    修正箇所が結構あるようなら二刷目も購入したい(いやPLUSに正誤表入るのが一番ですが)ので是非お願いします

  • 多分、ファミコンからハドソンを知った人にとっては「当時のハドソン=ナムコ並の大会社」的なイメージがあるんじゃないかなあ。急成長甚だしい会社だったから、そう思われるのも無理ない気がします。

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