桝田方式によるユーザーストーリーの作り方(7)

“Progession Wall”とはなにか?
直訳すると”進行するときの壁”とでもいうところになる。
そもそもはRPGなどで難易度の壁を作るために必要なゲームデザイン上の技術で、これが転用されて海外で極めてよく使われるマネタイズの技術になっている。
非常に基本的な概念なので、まずRPGやCity Builder系でよく使われる形式でユーザーの所持金に関係するモデルを組み立てよう。
極端に単純化してあるモデルだが、ちょっと調整すれば簡単なゲームに使用可能な妥当なモデルになっているので、説明していこう。

最初にこのexcelファイルをダウンロードして開いて欲しい。
ダウンロードexcelファイル(ZIP)
すると、以下の様なシートが1枚入っている。極めて単純なシートだ。

まずレベルに対応して基本収入を設定する。
これはあるレベルで稼げるお金の基本値だとかんがえる。値は単純にレベルの100倍にしておこう。こういう乱暴なことをやるとあとで苦労をするので、本来は関数にしておいたほうがいいが、今回はこれで十分だ。
次に稼ぐ比率という列を作る。これは「実際にそのレベルにいるとき、何%稼げるのか?」だ。例えばレベル1では実際に100%稼げるとする。レベル1でスライムと2回バトルしたらレベル2に上がるとすると、スライムは一匹50ゴールドということになる(このシート上では全く抽象的な単位だが、このように具体的なイメージを持つとわかりやすくなる)。
実収入はその比率で入ってくる実際のお金の単位だ。同じ例で仮に90%になると、スライム一匹は45ゴールドだ。これで基本収入から何%ズレるのかを記述出来るようになった。
次に必要な金だ。これはRPGならそのレベルあたりでの装備の価格と標準的に使用するアイテム価格の総計ぐらいだで、City Builder(街を作る系列のゲーム)なら、そのレベルで必要な建物の価格の総計、とでもいうところだ。ここでは0.5、つまり50%で統一しているが、こちらも比率を調整できるようにしておいた方が望ましい。今回、固定値にしたのはあくまで入門なので、単純化しているからだ。
差分「そのレベルで入る金ー必要な金」だ。これがマイナスになると、そのレベルでの収支は赤字ってことになる。
そしてレベルが上がって行く時、実際に持っている所持金が所持金列だ。
で、Progression Wallが出来るように作ったグラフが以下。
これを作るために入れた欄は稼ぐ比率だ。このシリーズで2つ目の完全手打ちで作ったデータだが、この手のProgression Wallを作る時の調整は、必ず手打ちになる。
ただ50%でお金が増えない、それ以上なら増える、それ以下なら減る、なので、それをベースに作るって目安は存在している。

オレンジ色の線が所持金、紫の線が実収入ということになる。

  1. 普通にプレイすると、レベル10ぐらいからお金が減りだして、レベル13~14あたりで不足する。
  2. レベル15あたりから足りるようになり、また増えていく。
  3. レベル23あたりから、急速に所持金が減る。
  4. また少し回復し、今度はすぐ貧乏に。
  5. 再度復活して、一気に減る。

ここで“Progression Wall”になるのは、言うまでもなく所持金が足りなくなったところだ。
例えば「次のレベルに上がるためには<必要な金>で特定の条件を満たさなければならない」とすると、お金がマイナスになったところでレベルが上げられなくなる。つまり、レベル13で一度”Grind”、すなわちお金稼ぎをしないとダメになり所持金がマイナスの所は、ゲームを進行する時の壁になる、すなわちProgression Wallとして機能するわけだ。
さて、どうしてこれがマネタイズと結びつくのか?
これが売り切りのゲームならば”Grind”する方法以外はなかったわけだけど、F2Pの世界なら、この所持金がマイナスになってツライところで、ゲームマネーを購入して、一気に楽にする…という方法が使えるようになった。
そして、このマネタイズテクニックは、海外で標準となり、今でも海外のゲームでは普通に使われる技術になっている。
では、この技術をどのようにして「装備」にアレンジするのか…というあたりまで書いている時間がないので、先に同人誌で全部まとめてから、あとでブログにもアップしようと思う。
多分、新刊のタイトルは『F2Pの最初の3か月』か『F2Pの最初の90日』。前の本は3分だったので、エラく長い話になっているのである。

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