桝田方式によるユーザーストーリーの作り方(4)

今までのシリーズ
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パート(3)
前回は「どのようにユーザーストーリーを作って、どのようにストーリーマッピングをするか」について書いた。
ユーザーストーリーをバランスを取ったデータにストーリーマッピングした結果、プレイ時間がわかるので、それで調整できる…というところまでは理解してもらえたと思う。
どのように調整すればよいバランスなのか? については書かない
なぜなら、この調整は例えば指先の技術がものを言うアクション要素が強く入っているのか、それとも入らないのかで全く変わるし、さらにターゲットユーザーでも変わる。加えてF2Pと売り切りでも大きく違う。
同じF2Pでも長期運営可能なのか、広告モデルかで変わるし、マネタイズのモデルでも変わる。売り切りでもプレイタイム・ゲームシステムなどで全く変わる。
つまりパターンが多種多様で、一概にまとめて説明することは出来ない。
また、この良いバランスは最終的にはゲームデザイナー/レベルデザイナーの専権事項だ。
極論だが、一撃でぶっ殺されるゲームであろうと、それをいいバランスだとゲームデザイナーが思うなら、まわりを説得すればいい。
と、簡単に説明した所で、話は前回の最後に書いた成長感になる。
成長感というと曖昧なので『強くなったと実感する』と定義しよう。
もちろんこれでも曖昧だが成長感よりはマシだ。
では、これはどのように実現されるのか?
強くなったと実感するためには、自分が硬くなる・敵が倒れるのが早くなるあたりが分かりやすいだろう。
そこで強さというナゾのパラメータを用意しよう。
このパラメータは現時点ではレベルの10倍にする。つまりレベル1では10,レベル50では500。1レベルごとに10ずつ上がる完全に直線的なパラメータ上昇だ。
加えて、敵には攻撃すると必ず強さぶんのダメージが出て、そして同一レベルの敵は常に3発殴ると抹殺できると設定しよう。すると同一レベルの敵のHP=強さの3倍ということになる。
そして標準的にはゲームは、同じレベルの敵と戦っていくのが適当なバランスとしよう。
と、決めると、例のゲームで初めての街から外にでると、周囲の敵は標準的にはレベル1。
レベル1の敵のHPは30。ちょっと戦闘してレベル2になると2撃で抹殺でき、レベル3まで上がれば1撃で死ぬことになる。
最初は「オッ?」と思ったスライム君がプレイ開始後12分(エクセルのプレイタイムを見よう)ほどで、もう楽勝。
いかにも「強くなった!!」と感じるだろう。成長感は満点だ。
問題は、この成長感は機能しなくなることだ。


なぜか?
パラメータの成長比を考えてみる。
一つレベルが上った時に、どれだけ強さが上がるかだ。
レベル1→2は200%、とんでもなく強くなる。ところがレベル49→50はたったの102%。2%しか強くならない。
ここでさっきのバトルに戻ってみよう。
レベル1→3では一撃で倒せるようになったが、レベル48→50ではどうだろうか?
レベル48の敵のHPは1440で、レベル50の攻撃力は500。1440/500=2.88。やっぱり3ターンかかる。
高いレベルになると、レベルが上がってもちょっとしか強くならないので、強くなった気がしない、だから成長感が失われる問題が起こるわけだ。
またレベル1→2の成長感を維持しようとすると、前のレベルの強さのN倍がルールになり、今度は数字のインフレがとんでもなくなってしまう。
では対処のしようはないのかというと、この成長感を、ある程度維持する方法はある。
3撃で死ぬ敵が2レベル上がると、1撃で死ぬバランスを出来るだけ維持したいと考えた時、例えば敵には硬さがあり、ダメージ=強さ-硬さとする。
次に敵の硬さを強さの90%だと決める。
すると、レベル1では防御力=9になり、差分の1*3=3。敵のHP=3。
レベル3では強さは30なので、30-9=21。簡単に一撃で死ぬ。
レベル50では50で、レベル47では42。で、47-42=5だから5*3=15。50-42=8なので、レベルが3上がると2撃で殺せる。
硬さ(防御力)の概念をいれることで、HPの増加量を抑えて、パラメータを分散させることで、それなりには成長感を維持できることが分かる。
と、こんな風に数字をある程度維持することはできるけれど、パラメータのゲームでは母数が大きくなることで成長感が維持できなくなる問題点はRPGメカニクスではほぼ間違いなく必ず残る
また上記のような方法(どちらも)を取ると、今度は「格上の敵が極端に強く、ゲーム展開が狭まりやすくなる」といった問題が簡単に起こるので、成長感を3撃が1撃になるような形で維持するのは、あまりいい方法とは言いがたい。
しかもレベル1→3はたったの12分だからスピード感に溢れているが、48→50は6時間が必要だ。
やはりこの手の成長感の維持は難しいには変わりない。
加えて、この作りをすると、例では最終ボス(レベル50)と最終ボス手前の敵の強さがあまり変わらない問題を引き起こす。
少々余談になるが、実戦の話として書いておくと、イース1・2のバランスを取る上で最大の問題になったのが、まさにコレだった。
イース1・2のPCエンジン版は理論的にはレベル55でラスボスダームと会える。そして上限値は61。
レベル55と61では普通にパラメータを設定すれば10%程度しか差はない、すなわち10%ぐらいしかレベルを上げても有利にならない。
またパラメータの上限が255で打ち止めなので、1レベルあたりに割り当てられる平均的なパラメータは4程度。最後の5レベルだけとんでもなくパラメータを引き上げるってインフレ技も使えない。
だから2つのボスの間で少々パラメータを調整したところで、レベルを上げても、さくま先生や桝田御大では間違いなく倒せない問題が発生したわけだ。

正確に書くと、ダームのバランスをマルチプランで取っている段階で、何をやってもコリャだめだろうとわかった、が正しい。
ただ、どうしようか思いつかなかったので、そのバランスで投げ込んであった。

悩んだ挙句に、アドルとダームの間のレベルと装備以外は見ないって無理やりな方法(■それの記事■)でバランスを取ったわけだけど、これはダームが最後のボスで、装備はほぼ固定で、しかもあとはエンディングだけで何もなく、やりこみとかそういうものもないからなんとかなっただけで、長期間の運営が前提のゲームだとか、ゲームの中ボスではこんなムチャは通じない…というか、やれないことはないが止めておいたほうがいいのは間違いない。
ではどうすればこういった問題を解決できるのか?
一番簡単なのは成長の軸を増やすことだ。
成長の軸を一個のパラメータに絞っているのは軸がひとつに等しい。ここに例えば成長軸に新たにスキル・魔法といったものを付け加える。
そして例えば…

レベル41ぐらいから現れる特別な敵(の種族)がいて、この敵は強さの50%しかダメージを受けないが、43で覚えるスキルを使うと強さの3倍のダメージが与えられるとする。

こんなふうにすれば、スキルを覚えた瞬間、特別な敵はカモになり、強くなった感を味わえることになる。
加えて、スキルはレベル18までは覚えないことにして、ここから5レベルごとに覚えていく、なんて設定にしておけばユーザーストーリーの間を埋められて、いつでも何かが起こっている感が増せるので有効だ。
加えて属性だのなんだのとパラメータを増やせば、増やすものの数が増えるので、成長感は(それなりには)維持できることになる。

わかりやすく、光と闇って属性があるとして(陳腐…)、それぞれのスキルが7レベル毎に更新されていくなんて方法を取れば、だいたい3レベルごとに何か成長感のあるイベントが起こることになる。

ではこれで安心か?
実は安心ではない。上記した方法は違う問題を引き起こすのだ。
属性やイロイロなものを増やすとユーザーが管理するものやパラメータを増やしていくことになる。さらにじゃんけん型の3すくみの属性なんかにすると、属性の強弱関係をユーザーに教えなければならない。
つまりゲームが複雑化していくのでプレイ出来ない人が増えるし、だいたい最初のうちは、パラメータを沢山押し付けること自体がリスキーなので、チュートリアルが複雑化するうえに、バランスを取る作業自体が大変になる。
加えてこれを入れた所で、バトルの基本的な部分の成長感は担保できていない(パラメータの母数問題)し、なにより他のパラメータを入れた所で、長期化で母数による差問題は結局発生してしまうのだ。
では、どうすればいいのか?
【装備】を作ることで、強さが派手にジャンプするようにすればいい…そしてこれは海外のF2Pでよく使われる”Progressive Wall”による課金にも使えるんだよ…というところで次回に続く。
ところで…これ最後まで書けとアチコチの業界友達から言われてるんだけど、書くことで、自分が考えきってなかった所まで言語化出来るってメリットは有るんだけど…めちゃくちゃ書くの面倒くさくて、大変なので、続けば続くのである。
■今回の計算が入っているexcelシート→ダウンロード

元ゲームロフトの同僚に、ユーザーストーリーはゲームロフトではどんな風に呼んでいるんだい? と聞いた所、”User Progression Chart”という名前だと教えてもらった。またこれをバートルテストと組み合わせて、それぞのれタイプのユーザー毎に作るのが目的だったと言われたけど、これを書くのは1年で止めになったといっていた。
理由ははっきりしてて、バートルテストと組み合わせるのがダメダメで、HQの連中、なにアホウなことやってんだいと思ったのだけど、どうしてダメかについては面倒くさいので自分で考えるように。
あとバートルテストわかんない人は、わかっておいた方がゲームを作るときのちょっとした指針にはなるんで、知っておいたほうがオトクですよ、うん。
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