MSXは失敗だったのか?

なぜ、突然、こんなワケのわからないことを書いているのかというと、twitterで「MSXは失敗だったと言われてもなあ」ってボヤキがTLに流れてきたから。
だいたい世の中、成功・失敗と簡単に白黒つけられたら苦労はしない。そういう単純なモノゴトの見方は話しにならんだろうと思って書いてみることにした。
まずMSXは何者かというと、1983年にアスキー=マイクロソフトによって提唱された共通ハードウェア/ソフトウェア規格だ。この規格にソニー・パナソニックなど10社以上が乗り、ホビーパソコンとして、またホームコンピュータとして売りだされることになった。
世界共通規格とか、そういう宣伝文句は全く無視することにして、当時のパソコン/電機業界でのMSXの目標は2つあった。
■御三家に食い込んでシェアを獲得する
これは表にはならないメーカーそれぞれの思惑になるけれど、当時のパソコン業界はパソコン御三家と呼ばれたシャープ・NEC・富士通の3メーカーが圧倒的なシェアを持っていた。MSXに参加した各社はこれに食い込むことが目標だったのは間違いない。
だから、当時のパソコン御三家はMSXにはほぼ関わっていない。またこの状況を揶揄してMSXのことが弱者連合などと言われる場合もあった。
■ホームコンピュータとしてご家庭の中央に位置すること
当時、ホームコンピュータと呼ばれる、いわばサーバーとでもいうか、セントラルコンピュータとでもいうか、今の人には少々理解し難いと思うのだけど、一台のコンピュータがあって、そのコンピュータが家の全てをコントロールする「ホームオートメーション」って発想があり、21世紀の生活はホームコンピュータで、ワープロやりながら、家計簿つけながら、子供の勉強させながら、なおかつ住宅はホームオートメーションで制御されている! とか言われていた。そしてMSXをその中心にあるホームコンピュータにして窓を開けたり閉めたり、風呂入れさせたり、ピアノを自動演奏させたり、ビデオの録画を予約したり…というのを全部やらせよう…なんて夢があった。
では、これは成功したのか?


前者の御三家に割って入るについてはまあまあ…というかかなり成功だと思う。
もちろん成功の定義に依存するし、だいたいMSXの中で売れたハードは松下(パナソニック)とソニーがたぶん中心で、それ以外は負け戦ではなかったのではないかと思うが、それでも台数的に大きな勢力になったのは間違いない。
当時のシェアのデータが残念ながらまともなものが見つからず概算レベルでしかないのだけど、ホビーコンピュータとして、プログラミングの勉強の道具として、8ビットパソコンで一番売れたのは間違いないようだ。
ただし最初に書いたとおり規格の単位の話なので、現実的に勝ち組だったのは、パナソニックとソニーぐらいしかなかったと思うのだけど。
またホビープログラミングについてもMSXにはディスクが遅い(そして高かったと思う)という、はっきりとした問題があり、かつ、開発環境をマジメにディスクで揃えるとお値段がシャレにならなくなったので、プログラム入門用のパソコンとして「素晴らしい」と手放しで褒められたのか?とかあるのだけど、少なくとも間口を広げたという意味では、間違いなく成功だったと思う。
ただ、確かに御三家に割って入るのは成功したのだけど、MSXはテレビゲームが遊べる、家庭のテレビの前の位置をファミコンと取り合いしたハードでもあった。そして、ここではファミコンに完敗したわけだ。このイメージを持てば「MSXは失敗」と言えなくもないが、本来は立ち位置が違うハードで、しかもファミコンが得意とするジャンルで競争させられたわけで、これをもって失敗というのはMSXにあまりにかわいそうだろう。
後者のホームオートメーションについては?
これについては、完全な失敗と言っていいだろう。というか、だいたいもともとの目標がムチャすぎたから、成功するはずもなかったのだ。
当時はwifiやBluetoothといった無線LAN系の技術はおろか、赤外線(95-2000年ごろ、それなりに使われていた)すらまともになく、USBなどによるhotplugも、イーサネット(いわゆるフツーのネットワーク)も実質的になく、もちろんインターネットもなく、パソコン通信すら黎明期で、通信といえばせいぜいがRS-232C(それもまともに使われておらず)で、今に通じる(残っている)規格はMIDIぐらいしかないって時代だ。なんの標準規格もない状態で、全てのホームオートメーションを有線でやらせようなんて、出来るわけもない。
加えて、MSXはZ80、メモリもせいぜいが32KB程度のシロモノだ(ファミコンよりはコンピュータとしてはマシだけど)。これに窓の開け閉めだのビデオの録画予約だの、常時電源がついていて、常時ネットワークかなんかで接続されていて、かつOSがいろいろ出来て…と出来ないとどうしようもないことをやらせようとすること自体に無理がある。
仮に有線で引いたとしても、どんだけ通信速度いるんだとか、耐ノイズとか、だいたい延ばすためのバスパワーあんのかよとか、引っ張り回すコストどーすんだとか、もう問題山積みで、今なら「なんの冗談言ってんですか?」で終わりなのだけど、熱に浮かされたようなブームで夢広がる時代で、それがいったいどんだけのリソースが必要なのかとか、安定性が必要なのかとか全然わかってなかったんだから、しょうがなかったと同情はできるけれど、やはり無理も度が過ぎたと思う。
ホームオートメーションではなく、ホームコンピュータの位置づけでのワープロであったり、それとも家計簿であったりといったものについては、それなりの成功を収めたのではないか…とは言えるけれど、これになると今度は16bitパソコンと競争をしていたと考えるとやっぱ、微妙で成功とは言いがたいよなあと。
と、そんなわけでだ、MSXを評価するならホビーパソコンとしては「かなり成功」、ホームコンピュータとしてはマア失敗。ホームオートメーションは完全な失敗(ムチャな期待しすぎ)、御三家に割ってのはそこそこ成功、各社の商売としては負け戦の方が多かった、ぐらいなのではなかろうか。

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4件のコメント

  • AGENT: Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/39.0.2171.52 Safari/537.36
    当時の私の周りの同好の士には「ファミコンとPC88には負けたくない」という意識がありました。
    MSX2なら「横スクロールがないこと以外はファミコンより上! 投稿プログラムのレベルの高さを見よ!」「ディスクアクセスの遅さ(でもあっちは2Dこっちは2DD)と解像度の低さ(でもこっちのほうが色数は多い)と漢字ROMがオプションだってこととFM音源のしょぼさ(でも発音数はこっちのほうが多い)以外は88より上!」とさかんに言っておりましたw
    プライドをくすぐったのは、できのいいMSXオリジナルゲーム(コナミさんナムコさんありがとう)と、ファミコンにはアレンジ(ダウングレード)移植されたゲームが、MSX(2)には他のパソコンと同仕様で移植された時ですね。

  • AGENT: Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/38.0.2125.111 Safari/537.36
    ホームオートメーションならば、PCエンジンもコア構想がありましたね。
    共通ハードウェアであれば、3DOなんてのもあって、松下も出していましたね。
    このあたりも記事にしてもらいたかったり。

  • AGENT: Mozilla/5.0 (Windows NT 6.3; WOW64; Trident/7.0; MALNJS; rv:11.0) like Gecko
    PCエンジンもいろいろ周辺機器くっ付けて 色々やろうとしてたなあ(自分はゲームしかやってないが・・)
     ハドソンが深く開発に関わってたのに
     同時期にスーファミにもハドソン参入してたから いいのかよライバル機にゲーム出してとも思っていたな

  • AGENT: Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/38.0.2125.111 Safari/537.36
    MSXのおかげでプログラミングはじめたけど
    説明書に山ほど周辺機器載っててワクワクした記憶があるw
    最終的に使っていたのはmidiキーボードとカセット・ジョイスティックだったかな?
    そのゴテゴテに慣れちゃって、ゲームはPC-E買ったよ…
    PC98ノート買った時も音源3つとmidiキーボード付いてたよ…
    個人的には諸悪の根源

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