ゲームマシンの見かけによらない親戚関係

これは『電撃王』や『電撃プレイステーション』に載せていたコラムの中で思い入れが深いものや、付け加えをして今出すと面白いと思ったものをアップトゥデートして載せていくシリーズ。
今回は2005年、PS3の発売の半年ほど前に電撃PSに掲載したコラム。
なお、これは僕が書いた原文なので掲載されたコラムとは若干文が違う。

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年末(2004年末)に発表された大きなニュースとしてNVIDIAとSCEの提携がある。
この会社、家庭用ではメジャーな名前とは言い難い(当時は雑誌の読者に知られているとは言いがたかった)が、ライバルのATI(現AMD)と、パソコンでは市場を二分している世界最強のグラフィックチップを作れるメーカーの一つ。
すなわちSCEとNVIDIAの提携は「PS3のグラフィック(チップ)はNVIDIAが作ります」に等しいわけだが、まああと半年ほどでプレイアブルなPS3(仮称)が出るのに、今から作るなんて、泥縄な話ではむろんない(当時はPS3はまだ仮称だった)
現実には数年前から共同で制作していて、いよいよPS3の発表も近くなってきたから、正式に表明しておきますよ…という話だ。

そして歴史的に見ると、この時期はGPUがunified shaderに移行する寸前で、XBOX360はその波にある程度乗れたが、PS3はNVIDIAが派手にアーキテクチャを変える寸前のハードだったために苦労することになった。

さて、ここから先が面白い。


ゲーム業界のメジャーハードメーカーと言えば、SCE、任天堂、マイクロソフトの三社なわけだが、この三社は大変なライバル関係にあると同時に、とても近い親戚関係にもあってしまうのだ。
「えっ?」と思うかも知れないが、これは全くの本当。
というのも、まず今回SCEと提携したNVIDIAはXBOX(XBOX1)のグラフィックチップの製造元。そしてATI(現AMD)はGAME CUBEのFLIPPERなるグラフィック+色々を搭載したシステムチップの製造元。しかもATIはXBOX2(と呼ばれている、現在マイクロソフトが開発しているXBOXの次世代マシン(現XBOX360))ではグラフィックチップの提供元になることが決定している。
つまり、GAME CUBEとXBOXとXBOX2と、さらにはPS3の4つの機種にATIとNVIDIAは関係しているわけだ。
これに加えてSCEと共同でCELL(新PSのCPUの名前)を開発したのは東芝とIBMだが、IBMはPowerPCというCPUをモトローラと開発しており、このPowerPCはGAME CUBEで使われている。そしてさらにはXBOX2では、PowerPCがCPUになると報道されている。
つまり実はXBOX2とGAME CUBEは親戚関係にあり、しかもIBMはCELLの開発にも関係しているという世にも面白いことになっている。
これでわかると思うが、PS2以降に発売されたゲームマシンのほとんどにはIBMとATIとNVIDIAは関わっており、しかもそれはCPUはグラフィックといった、まさにゲームマシンのコアに近い所なのだ。だから親戚関係だと書いたわけだ(ほとんどには…と書いたのは、携帯ゲームマシンはまた世界が違うが、新ハードウェアなのは間違いないからだ)。
どうしてこんな風になったのかというと、理由は簡単で「ゲームマシンのハードウェアが恐ろしく高度になったから」だ。
ファミコンやSFCの時代までは、ゲームマシンに積まれているグラフィックチップは自称最先端ではあっても、現実的には当時売られていた高級ハードウェアの相手にならなかったし、設計も原始的で速度も遅かった。だから、自社に近いところで設計を簡単に出来たし、それで問題もなかった。
これがPS2の時代になると、もはや(当時の)パソコンの最高のグラフィックチップに匹敵する性能になり、設計に必要なノウハウも大変な物となって、もはやATIとNVIDIAの2大メーカーと共同で作業する方が、絶対にいい…ということになってしまったわけだ。
そしてCPUも事情は同じで、もはや本当に高性能のCPUを作るためには、本当の大メーカーと協力して、全力を注がないととても作れない時代になったのだ。
と、ここでインテルはXBOXでは入っているのに、XBOX2では違うじゃないか…あれは世界最高のCPUメーカーの一つじゃないのか? と疑問に思う人もいるだろう。
確かにその通りで、現実にマイクロソフトはXBOXではインテルのCPUを使っていた。
でもXBOX2ではIBM(らしい)に鞍替えすることにしたわけだが、この理由は簡単に推測出来る。インテルのCPUはパソコンには素晴らしく便利だが、ゲームマシンには少々電力消費が厳しいとか、ゲームマシンにはいらない「古いソフトとの互換性を維持する部分」とか、そういう、イマイチ頂けない部分もあるので、今回はマイクロソフトはPowerPCを選択することにしたのだろう。
ただ、これが本当だとすると、PowerPCとインテル、アーキテクチャが違いすぎるのでXBOX2はとてもXBOXとの互換性は保てそうにもないのだが…これはどうするつもりなんだろうか…などと思ってしまうが、このあたりも今年のE3でははっきりしているだろう。
ま、何にしても、親戚同士の激しいバトルが今年から始まりそうで、興味は尽きないところだ。

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どうしてこの記事を出してきたのかというと、この次の世代、つまりWii Uと、もうすぐローンチするPS4、XBOXONEの世代では、さらに兄弟化が進んでしまい、もはや従兄弟どころか、血の繋がった兄弟のレベルになったからだ。
まず、ビデオチップは全メーカー、AMD。
Wii Uの場合には互換があるので選択肢が(多分)なく、PS4&XBOXONEはどちらもAMDに。
そして驚くべきはCPU。
Wii Uは互換のためもあってIBMのPowerシリーズを採用したが、PS4/XBOXONEはどちらもAMD(いわゆるIntel系)に移行することになってしまった。どっちも互換性をかなぐり捨てての移動だ。
しかもAMDの統合化チップで、ぶっちゃけた書き方をするなら、PS4とXBOXONEのどちらも「値段の割にはゲームをやるうえでの性能は高いノートパソコン」みたいなシロモノになってしまい、少なくともPS2あたりの世代までの「メーカーごとに全然特性も性能も違う」って時代ではなくなってしまった。
これはまあハードの開発に必要な予算が膨大になり、プレイヤーが減ったからなんだけど、まあ80年前後のCPUだけでも6502, SC/MP, COSMAC, 80系(Z80含む), 86系, 68系, 68000系などなど散らばっていた時代から知っている人間としては少々さびしいものがあるわけだ。
※ 追記
僕のフォロワーの方のつぶやきが余りに面白かったので、ここに紹介しておく。

たしかにそうだ、Martyばかりになっている(笑)。

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1件のコメント

  • AGENT: Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64; rv:25.0) Gecko/20100101 Firefox/25.0
    ハドソンに至ってはHuC62(PCエンジンの中身)とか自社設計してたそーですから、当時のチップ事情はある意味牧歌的というか、それで何とかなったもんなんだ、って感じますw
    ハードメーカー的な面のハドソンにもいろんな逸話がありそうですが、ソフトメーカー面以上に話題にならないのが残念です。

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