シナリオの教科書

このブログの横についている、アマゾンのアフィリエイトというヤツはまったくクリックされないといっていい(本当は数字を書いたほうがより面白いのだけど、アマゾンの規約で書くことができないのが残念だ)。
結構メンテはしてても、まさに置いてあるだけといっていい代物なのだけど、その中で唯一売れていて、そしてもっと売れてほしい、絶対に知られるべきだと思っている『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』について、ちょっと書いてみたい。

ちなみに2番目に売れているのが、桝田さんの『ゲームデザイン脳』、3番目が『PINBALL HALL OF FAME WILLIAMS COLLECTION』で、その他のゲームはさっぱり売れたことがない。きている読者がどういう人種なのか想像がつく気もするが、それはまあいい。

2019年の今、追記しておくと、アフィリエイトを横につけるのは今の所やめている。なんかウィジェットがうまく動かないので頭に来てしまったw

はるか遠い昔、1990年代前半に、はじめて(ゲームのためもあったけれど)小説や脚本マガイのものを書けるようになろう! そのために一本小説(もしくは脚本)を書いてみよう! と思い立ったとき、はたと困ったのが「どんな風にして話を作っていくのか?」だった。
良くお話は起承転結を考えて…というが、その起承転結と実際の小説、例えばトーマス・マンの『魔の山』やそれとも映画『スタートレック』の間には深くて広い川があるのは誰でもわかるだろう。
そして僕は、川を渡る方法を知りたいとき、ともかく先人達の業績の集大成、簡単に書くならノウハウ本とか教科書を読む人なので、書店に走り、片っ端から立ち読みした。
わかったことは「何の役にも立たないゴミばかり」ということだった。

ほとんどの本に書いてあることは同じだった。

  • 起承転結を決めろ
  • 登場人物を作れ
  • 場面のカードを作って並べ替えをしてシナリオを作れ
  • あとは登場人物が動くのを待て

…たった、これだけのことを結構高い本に百ページ以上かけて、偉そうに(たまには偉そうにではなく)書いてあるだけだった。
一応、この通りのことはしてみたが…起承転結を決めてカードを作っても、その間のカード(場面)を埋められるわけがない。人物だって動いてくれない。
だいたい、それが出来ないから教科書を読んでいるのだ。僕が知りたいのは「起承転結と実際の作品の間を埋める方法、ちゃんと完成までお話を持っていく具体的な手続き」で、脚本家や小説家の「こんな苦労した、あんな苦労した」って苦労自慢じゃない(良く書かれていた)。
最終的に得た結論は、この手の本を書いている人達は間をどう埋めるかの基本的かつ具体的かつ実行可能な方法を体系だって持っておらず、それを教えてもらったこともなく、また体系だてることも出来ないので、小学生でも書けそうな起承転結の4コママンガと実際の作品の間を埋める方法を知っているフリをして、もったいつけて適当なことを書いているということだった。

もちろん4コマが簡単なわけではない。例えば週間連載でクオリティの高い4コマを週に十個以上も考えるのは、おっそろしく難しいのは間違いない。ただ、4コマはアイディア勝負なので、1本だけという限定なら、誰だってプロクラスのアイディアは思いつける。
僕の知り合いの小説家で、素人でも1本ぐらいなら余裕で星新一と同じ質のショートショートを書ける。プロの小説家なら間違いなく10や20は書ける。短編に向いた作家なら100や200はなんとかなるかもしれない、でも1000は無理だ、それが星新一のすごさだ、と教えてくれた人がいた。

そんなわけで困りながら、川を渡る道具としての教科書を探し回っていて見つけたのが別冊宝島144「シナリオ入門」だった。
これまた2本文章が入っていて、後ろ半分は役立たずのゴミと言っていい代物だが、前半分が、今回の本の元になっている『シド・フィールドのシナリオワークブック』。
もう目から鱗が1000枚ぐらい飛び出してしまう、実に明快にシナリオの作り方を段階を追って説明してくれる本だった。

シド・フィールドの方法をものすごく単純に説明すると以下のものになる。

  1. テーマを決める。
    ただし、この本の言うテーマは人類愛とかそういうモンではなくて、もっと分かりやすいたとえば「ゲームを作る人達の間の成功と別れについて書く」とか、そういうとても具体的なことだ。シド・フィールドはテーマに言外に「抽象的なテーマを置くな」と書いている。
  2. それに基づいてあらすじを書く。
    あらすじと言うのは例えば「二人の男がゲームのベンチャーを作り、出資を募り成功するが、それによって仲たがいし、最後には二人は会社を売り飛ばし、別々の道を歩き出す」。つまり男の友情が壊れる物語というような、ホンの1-2行でまとめられる短い文だ。
  3. あらすじを3つのパートに分ける
    a)状況説明 - 二人の男が会う
    b)葛藤 - 二人でゲームを作り、成功して、けんかする。
    c)解決 - 二人は別れる。
  4. いくつかの重要なポイントを決める
    bを2つに分けて、ミッドポイント、だいたい映画の真ん中になるシーンを考える(書き忘れたが、この本は映画のシナリオをいかにして書くかの本だけど、あらゆるシナリオや物語に応用の効く方法だ)。例えば前のあらすじを下のように分割する。

1)二人の男がベンチャーを始めるところを描く
2)友情タッグで苦労しながら、出資を募りゲームを作るシーンを描く
*ゲーム完成!←ほぼ映画の真ん中。
3)できたゲームで金持ちになった二人は、それが理由で分裂していく
4)片方は会社から離れ、二人は、別々の道を歩いていく

さらに2と3を完成させるために1の終りに事件を起こせとか(例えば、メインスポンサーになってくれそうな人を発見する)、3と4の間に最終的方向を決定するための事件を起こせ(片方が公開された株を1株だけ残して売るとか)とか、そういうことまで教えてくれる。

もちろん、実際はもっと緻密な解説で、どうしてその事件が必要なのか? といった理由を、映画の実例を豊富に引きながら説明してくれているが、ここでは簡単・乱暴に説明している。

で、上の話に一通り加え、シナリオの元になるレベルの構成を組み立てると、例えばこんな風になる。

  • 1)二人の男(A、B)が、ゲームベンチャーを夢見ている。
    ネカフェでAとBが出会う。たちまち意気投合。
    Aが起業しようじゃないかと言い出す。
    インターネットで必要資金の計算が出来、作れるという結果をAが見せる。
    Bが馬鹿にしながらも、引きずられ、実際に起業に向かって走り出す。
  • 2)出資を募り、ゲームを作るシーン
    いざスタッフを集め、当座の自分達の金で回していく
    投資家を巡るが空振りばかり。
    給料不払いでスタッフ辞めると言い出し大ピンチ。
  • *ある日、喫茶店で目の前のオッサンのノートPCがトラブルを起こしている。Bが直す。実は投資家。チャンスをもらい、プレゼン。ついに資金がつく。
    これを皮切りに資金が次々集まっていく
    開発スタッフも回り始めて、完成する。
    ゲーム発売! 爆発的にヒットする。
  • 3)AB、どちらも大金持ちに。
    スタッフ全員のドンちゃん騒ぎ
    Bが投資家に言われ、株を公開してもっと儲けようと言う。Aは反対する。
    Aは好きにゲームを作れるようにするべきだから、公開するべきではないという。
    *重役会(2のメンバーはみんなここで偉くなっているのを見せる)で決が取られ、公開が決まる。
    1人残るA。
    *Aが公開された株を1株残して全て投資家に売る。
    4)AとBが別れる。
    Aは退職届をBに渡し、握手する。
    A、でかくなった会社を見上げ、そして去っていく。
    Bは会社で次のゲームを作ろうと必死になっている。オフィスで新しい片腕になりそうなヤツを見つける。金持ちのはずのAはぼろいネカフェで、ネタを探している。Aもネカフェで野望あふれるヤツを見つける。二人を別々に並べているカットで終り。

と、こんな風に結構細かいところまでシステマチックに作ることが出来る。
正直、このストーリーが優れているとは全く思わないけれど、少なくとも起承転結からどう進めばいいのか、わからず立ち止まっているよりは遥かにマシだ。完成しないシナリオには一文の価値もない。
もちろん、こんなある意味システマチックにパターンにされたものに頼らなくても作れる天才的な、そうスティーブン・キングのように書くだけで大ベストセラーが書けてしまう、どう控えめに見ても天才という表現以外できない人は世の中にいる。
でも、世の中ではキングはマレだからキングなのであって、僕ら、凡才は全くそんなことは出来ない。そして、凡才には困ったときに立ち戻れる基本が必要で、シド・フィールドのやり方は、困ったときに戻れる基本になってくれる。だから、とても優れたやり方だと思う。
僕が感動した別冊宝島はもう絶版になっているのだけど、これをもっとページを使って丁寧に書いた教科書が『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと』。

映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術
映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術

これこそ、シナリオやゲームデザインに興味がある人は絶対に読んでおくべき本だ、と断言して憚らない本なのだ。

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1件のコメント

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    別冊宝島の本は、十数年前に読んだことがあります。
    懐かしいですね。
    セオリーに従うなら、友情が壊れる話を描こうとしたら、まずはその反対に、鉄壁の友情を築くところから始めろ。
    それが鉄則でしょうか。
    世の中のすべてのストーリーは、大きく分けて二つしかないというのが僕の持論です。
    何かを探す話と、何かを隠す話。
    アクションものだろうと、恋愛ものだろうと、自分の本心を隠し、相手の本音を見つける、言わば騙し合いですからね。
    嘘と秘密の巧妙さ。
    僕がイースや天外魔境Ⅱに今も尚、魅了されている理由です。

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