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1988年 - ハドソンで作られていたゲームについて
前回はコレ
過去記事の集合体はコレ
この話は1988-89年頃、PCエンジン版のイースを作るとき、僕が経験した話を出来るだけ正確に記録に残すつもりで書いている。ただし、これは
1)21年前の話で、記憶違いの可能性は十分にある。
2)僕が体験したり思ったりしたことを書くようにしているが、伝聞情報(二次情報程度)もある。
だから、当時の正確な記録ではない可能性はあるのは理解して欲しい。

前回の続きで今回も88-89年に、自分がハドソンでデバッグしたり、バランス調整に関わったり、ちょっと制作を手伝ったりしたゲームについて書いていく。
今回は1988年の7作品について(前回取り上げた作品は除いてある)。

魔神英雄伝ワタル、定吉七番 秀吉の黄金、パワーリーグ、ファイティング・ストリート、No・Ri・Ko、あっぱれゲートボール、ビックリマン大事界


魔神英雄伝ワタル
いきなり書くのもなんだが、ハドソンにいた3年弱の間で、一番腹が立ったゲーム。プログラマに本気で怒鳴った唯一のゲームだったりする。
最終デバッグ段階で、どうしてもラスボスが難しすぎて、クリアできなかった。
このゲームは敵のエントリの出来も悪ければ、ゲーム内容も単調で、正直出来がいいゲームとは言い難かったのを我慢してプレイして、デバッグで最後まで行き着いたのに倒せない。自分だけが苦手かと思って、デバッグしていたゲームのうまい連中に聞いても誰も倒せていない。
だから担当の浦さん(この人と仲が良かったのでやたらゲームをやっていたわけだが)に「このラスボスを倒せるとは思えない。非常にジャンプがシビアで無理だ」と言った。
正直、かなり腹を立てながら言ったわけだが、北海道に来ていたプログラマ(メイン)は、なんと「倒せますよ」と言った。
「じゃあ見せてくれ」
正直あり得ないと思った。前回も書いたが、当時はゲーマーとしての腕は明らかにピークで普通のゲームをやるヤツより圧倒的にうまいだろう自分が何度やってもクリア出来ないのだ。
そしたら、まあいきなりラスボス前からスタートし、ラスボスと戦いだした。僕よりどう見てもヘタクソ。こんなん死ぬじゃんと思ったら、死にそうになったらデバッガでbreakをかけてHPを増やした
「それでクリアっていうつもりかっ」
その瞬間、マジで激怒して怒鳴ったら、そのプログラマは言った。
「最近のガキはうまいから、これぐらいクリアしますよ」
本当に浦さんが押さえてくれなかったら、殴ってたと思う。こんな野郎にゲームを作って欲しくないと本気で思った。
そしてもちろん、こんなひどい難易度ではラスボスはクリア出来ず、クリア出来ないとデバッグが終了にならないので浦さんが困っていたとき、僕はバグを見つけた。
ジャンプでラスボスの部屋に飛び込むとラスボスの起動判定が甘くて動かなくなり、簡単に殴り殺せるのだ。
「こうすりゃ倒せますよ、どうします? 浦さん」
「なあ、岩やんやあ(浦さんはそう僕を呼んでいた)、このバグは取らないでおこう。こうしないと誰もクリア出来ないと思うんだよね」
「僕もそう思いますよ」
というわけで、ハメて殺す以外殺しようがないラスボスでワタルは発売されたのだった。今でも知りたいが、ハメる以外で倒せた人は世の中にいるのだろうか。

パワーリーグ
奥野さんのラインが作った野球ゲーム。これがヒットして、以降「パワーシリーズ」が出来る。
奥野さんという人は、どういうわけが作りたくない物を作らされる人で、パワーリーグの前はあのファザナドゥを作り、ファルコムを怒らせた。
本人は「だって俺、ザナドゥ嫌いなのに作れって言われたんだもん」って言っていた。
でも、書いておくけれど、ザナドゥという名前でなければ、結構出来が良いというよりは、佳作…というより名作の方に近いと言ってもいいぐらい出来がよく、雰囲気もいいRPGの要素の入ったアクションゲームなのは間違いない。
そしてパワーリーグも実は野球を作りたくないのに作らされた(笑)
それのおかげでパワーリーグは実は外野に自動守備がある一番最初のゲームの一つだったりする。
奥野さん曰く「だって、俺、フライ取れないんだもん」

これのデバッグは最後は野球大会になり、なんと決勝戦まで進んで、和泉さんと戦うことになり負けたのをよく覚えている。ちょいと悔しかった。

定吉七番 秀吉の黄金
これはあんまり僕はデバッグしてないゲーム。名前を思い出せないけれど、ハドソンのメインラインのチームの1ラインが作ったゲーム。メインプログラマの作ったマルチタスク用のエンジンがかなり特徴的な設計で印象に残っているのだけど、名前を思い出せないのが悔しい。

ファイティング・ストリート
あまり知られていないが、アルファシステムの実質的な第一作(のうちの一つ)。
ストリートファイター1の移植作品。
ストリートファイターではなく、ファイティング・ストリートになったのは、当時商標に理由があったはずなんだけどSFC版ではストリートファイターIIになっていたので、カプコンが商標を買い取ったか、そのあたりなんだろう。
知っている限りでストリートファイター1の唯一の移植作品のはず。曲がCDDAでアレンジ版なのだけど、ゲームでCDDAが鳴るなんてのは初めてなわけで、聞いたときのインパクトがすごかった。
プログラムでは実は自分も解析手伝ったりしてたんだけど、HaHi君が派動拳や昇竜拳の入力ルーチンを解析して「こんなの岩崎さん、入力できないよ」といっていたのが印象的(笑)
ところが、その次の年(1989)のハドソンのゲーム大会でファイティングストリートが使われたんだけど、対戦は右と左で波動拳の撃ち合い。失敗した方が負けって、ものすごい世界になっていたと、高橋名人から聞いた。

No・Ri・Ko
当時デビューしたところだった(正確には改名して売り出し中だった)小川範子をフィーチャーしたミニゲーム&トーク集のような作品。CDROMだから曲がCDDAだし、声も出せるしで、結構ファンには嬉しかったんじゃなかろうか。
この流れが『鏡の国のレジェンド』とか『みつばち学園』に繋がっていって、結構固定ファンのいたジャンルだけど、結局アイドルグッズの一環から抜け出すことが出来ないままDVDの登場で消え去ったジャンルだと思う。
開発はアルファシステム。佐々木社長がじきじきにプログラムを組んでいた。
あまりに毎日デバッグで小川範子の歌を聞く物で、デバッグしている周囲で仕事をしている人間全員が小川範子の歌を歌えるようになっていた
そしてそれどころか、仕事しながら鼻唄で小川範子の歌を歌ったりする物で洗脳ゲームだと言われていた。

あっぱれゲートボール
多分ワン&オンリーなゲートボールの面白さを僕に教えてくれたゲーム。このゲームを対戦プレイするとどうしてゲートボールで殺人が起こるのか理解できる
ともかく対戦をやると、凄まじい意地悪の泥沼バトルになって、ものすごい事になる。
今でもすごくいいゲームだと思うんだけど、ゲートボールという題材があまりにマイナー…というか、ユーザー層と合わなさすぎ。
一番最初にハドソンにデバッグROMが来たとき骨までゲートボールという、上からガイコツが降ってきて、カカカと笑うタイトルだった。
ものすごくインパクトのあるタイトルで、最高だと思っていたのだが、あまりに不謹慎なタイトルのせいか、がんばれゲートボールにタイトルが変わり、最後にあっぱれゲートボールになっていた。
最初のタイトルの方が問題はあったろうけど、受けた気はするんだが(笑)

今ならDSでもPSPでもPS3でもX360でもアナログ入力があるから、もっと微妙なゲーム性が出て面白いんだけど…売れないよなあ(苦笑)

ビックリマン大事界
友達の会社(自分と同じ会社にいた人たちが辞めて作ったベンチャー)が作った作品。
作った人はタイトーで『ダライアス』のメインプログラマーをやった人だったりする。

お気楽に書き出したら、えらく長い寄り道になっているが、まあ当時の記録代わりだとしておこう。
というわけで続く。
|| 20:22 | comments (7) | trackback (0) | ||

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コメント
「このラスボスを倒せるとは思えない。非常にジャンプがシビアで無理だ」.... wwww
| TNR | EMAIL | URL | 11/03/30 21:18 | KeSI6Ywk |
すごい! 生まれて初めて「ワタル」をハメなしでクリアする攻略を見ました。
理屈で分かっているのと、現実で出来るのは違うので、ものすごい練習したんだろうなと思います(笑)

>PCエンジンのワタルのラスボスの件は、そうなって然るほどの糞バランスなので
>お怒りもごもっともでしょうが、当時の現場だとわりと斜め上視点の冷めたプログラマーも
>多かったと聞きます。

真面目な話、自分がいる間のハドソンはそういうことはなかったですね。斜め上視点のプログラマは、ワタルの外注だけでした。
| 岩崎 | EMAIL | URL | 10/05/06 12:36 | kdP8zjdQ |
当時の現場の話面白いです。もっとたくさん聞かせてください。

バランス取りというのはゲームの制作上では最重要部分でしょう。
PCエンジンのワタルのラスボスの件は、そうなって然るほどの糞バランスなので
お怒りもごもっともでしょうが、当時の現場だとわりと斜め上視点の冷めたプログラマーも
多かったと聞きます。殴りかかるくらい勢いの熱さのあるそういう現場じゃないと、
名作とううのは生まれないでしょうね。そしてその想いは遊び手にも伝わるはず。

一応ガチでラスボス倒してる動画があるのでパターン化はできるようですね
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm5262583
| 通りすがり | EMAIL | URL | 10/05/06 10:09 | 7Q0Cf0A. |
そうなんです。

奥野さんという人は、すごいお気楽な雰囲気の腕のいいプログラマだったんですが、ともかく作りたくもないものを押しつけられる(なぜか、そういうときに空いてしまっている)不思議な人だったんです。

しかも変に腕がいいものだからちゃんと出来ちゃうと言う(笑)
| 岩崎 | EMAIL | URL | 10/05/05 23:35 | kdP8zjdQ |
パワーリーグとファザナドゥにそんな繋がりがあったとは(笑)。
ファザナドゥを初めてプレイした当時は、原作の存在が大きくその良さを感じ取れませんでしたが、岩崎さんのこの作品に対する高い評価は、今はよくわかります。特に、独特の味がある音楽がとても印象的で耳に残ります。
| はちすけ | EMAIL | URL | 10/05/05 18:36 | RmmRoep6 |
やはりハメ殺してましたか…(苦笑)

見つけてクリアしたあと、浦さんと本当に真剣に話ししたのを覚えています。いや、マジで。
| 岩崎 | EMAIL | URL | 10/05/04 21:37 | kdP8zjdQ |
「魔神英雄伝ワタル」、うちの友人が持ってました。そして実際にクリアするところを何度か見せてもらいましたが、いつもハメ技使ってました。「こうすると楽勝なんだ。」と。

「あっぱれゲートボール」は大好きなタイトルです。ゲートボールは北海道発祥のスポーツなんですが、だからハドソンで出たのかとばかり思ってました(おい)。
| 本名荒井 | EMAIL | URL | 10/05/04 21:28 | 1fVcgV6Y |
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