Roe R. Adams III がやったこと(5)

Roe Adamsがやったことの続き
その(1)
その(2)
その(3)
その(4)
上で全部読んでほしいのだけど、まあ自分の経験的にはこれをちゃんと読み直してくれる人は10%もいないので、ここでもう一度、ここまでの話を簡単にまとめておく。
Roe Adamsとは誰なのか?
“Ultima IV Quest for Avatar (1985)”で、コンピュータゲームのシナリオ構造を決定的な形でプレゼンテーションした人物だ。
“Ultima IV”があまりに決定的だったので、以降32年、若干の調整があったことを除けば、シナリオの書き方は変わったことがないと言っていいほど完璧に近い形で「ゲームのシナリオはこうあるべき」とプレゼンテーションされた、という意味で、余りにスゴい仕事をしたと言って間違いない。
実際、”Ultima IV”のシナリオはグラフィックとメカニクスを今風にアップデートして移植すれば、問題なく通じるのは間違いないレベルだ。ただあまりにシナリオのパーツがコピーされているため、今の人がプレイすると「何もかも、どこかで見たことがある」気がすると思う(もちろん話は逆だが)。
というわけで本題。
前回の話まで戻ると、”Ultima IV”以前の”Ultima”は世界を探索できるゲームなのに、世界を探索するゲームになっておらず、Roeがいかにして『世界をめぐる必然性』を作り出したのかを説明したが、今回はRoeが生み出したもう一つの決定的なアイディアについて説明したい。
これまた実質的に”Ultima IV”以前にはなく、そして”Ultima IV”があまりに衝撃的かつ高い完成度でプレゼンテーションしたため、以降、あまりに当たり前になってしまい、CRPGの常識になってしまっていて、全く誰も気にすらしていない、当たり前…どころか、そうなっていないことすら考えられないアイディアだ。


どのようなアイディアかというと

●ヒントがバラバラの断片になっていて、プレイヤーがそれを集めて、組み合わせることで謎が解ける
●解けた謎を組み合わせることで、解けなかった謎が解ける

と書いても抽象的なので、わかりやすい例を作ってみる。

■洞窟があり、洞窟の入り口には扉があって、カギがかかっている。
■以下の2つのヒントテキストがある。
A「<カギ>を<カギアナ>に使えば扉は開く」
B「洞窟の扉を開けるには<カギ>が必要だ。Aに使い方を聞け」

そしてAのヒントテキストを言うNPCは普段は「こんにちは」としか言わない。そしてBのヒントテキストを見たプレイヤーが、Aと話すとヒントテキストを話す。
これでBに話をすると、Aの情報が聞けて<カギ>を手に入れればいいという話になる。
それではカギのヒントはというと、以下のようにしておく。

C「<カギ>は2つのパーツにわかれている」
D「2つのパーツに分かれているモノは1,2だ。ありかは商人のWが知っていたはずだ」
E「カギ職人のZだけがカギを一つに出来る」

これで、C・D・Eでカギが実は2つのパーツに分かれていて、さらにC,EのヒントメッセージはBから<カギ>の話を聞かないと、聞けないとすると…

■プレイヤーはBと話をする前には「カギのパーツを集められるだけ」
■Bと話をすると、ACEのヒントが聞けるようになり<カギ>を使う場所と<カギ>の作り方の情報が手に入る。

と、こんな風に
■<カギ>をどこに使うのか
■<カギ>をどのように作るのか
この二つの謎が組み合わせられて、さらに<カギ>を作るためのパーツを手に入れるために商人のWと、カギ職人のZを探すことが必要になるという、一連のカギを巡るクエストが出来上がる。
さらにここでカギを開けて入る洞窟には、プレイヤーが探し求めているものの一つがあるとか、それとも洞窟を経由してどこか違う場所にいく、なんて風に次につながっていくことになる。
と、ここまで説明してきたこの構造は今の作り手にもプレイヤーにも余りに当たり前で「だから?」と聞きたくなるかもしれないが…

■ これを作り出したのが”Ultima IV”なのだ ■

このシリーズの2~3のあたりで書いたけれど”Ultima IV”以前のゲームではシナリオは「Aを見つけろ」、「街Zに行け」というようなコトを繰り返す、互いにほぼ関連のないモノの延長上にゲームエンドがあるものがほとんどだった。しかも見つけたダンジョンに入ってみたらAを手に入れて「なんだこりゃ?」と思いながら、ほっつき歩いているうちに「Aガ ナケレバ オウノマニハ ハイレナイ」なんてテキストを読んで「あーこれがいるんだ」と思うような、今の感覚からすると前後関係が破たんする謎もよくあった。
このその場限りの謎と粗雑な前後関係を一掃し、近代的な謎と謎が結びついた複雑なシナリオ(映画的なシナリオの意味ではない、世界観と謎のセットアップの意味でのシナリオ)を初めてプレゼンテーションしたのが”Ultima IV”で、これを作り出したのがRoeだ。
どれだけ重要といっても言い切れないほど圧倒的な功績で、このシナリオ構造を作り出してプレゼンテーションした一点だけでも”Ultima IV”は疑いもなく不滅のゲームで、Roeの名前はゲームの歴史に燦然と輝くべきだと僕は断言したい。
そして、前回書いた、世界中を歩き回ることを要求される構造と、このシナリオ構造は切っても切り離せない。
プレイヤーは世界にちりばめられたヒント(シナリオ)に引っ張られて世界を探索し、徐々に大きなナゾに迫っていく、この30年続き、そして多分ゲームがある限り永遠にあるだろう不滅のシナリオ構造を”Ultima IV”で作り上げたのがRoeだ。
どれほど偉大と書いても、書き足りない功績だと思うし、それが知られていないことをあまりに残念に思うので、こうして残しておく次第である。

ここで一つ書いておくと、このRoeが作り出した”Ultima IV”のシナリオは絶賛され、熱狂的に受け入れられたのだけど、同時に当時のゲーマーの一部からかなり批判された。
というのも、当たり前だがRoeの作り出したこの方法は謎を解く順番が結構厳密に制限される。だから「RPGのあるべき自由度がスポイルされている」というわけだ。
これはただのないものねだりでしかないのだけど、文句を言う人は同じないものねだりを30年するのだなと思う。

ところで半分余談だが”Ultima IV”はキーボード入力で単語を入力でき、それに対してNPCが返事するシステムがあった。
これを使って、簡単な会話をNPCとすることができたわけだが、Roeはそれを利用して、先ほどのAのヒントテキストを言うNPCに普段は「こんにちは」と言わせておいて、Bのヒントテキストを見た人間が、Aに「カギ」と質問すると「<カギ>を<カギアナ>に使え」という仕組みにした。
今はこれが洗練されて(単純化されて)Bと会話をすると「カギの知識を得た」フラグがオンになり、自動的にセリフが「<カギ>を<カギアナ>に使え」に変わるが、当時はテキストアドベンチャの名残がはっきりとあり、<カギ>とか入力するシステムだったわけだ。
そして古いファミコン系のゲームを遊んでいた人なら、この単語を聞き出して、他人にぶつけるというシステム、どこかで聞いたことがあるだろう。
1988年末にリリースされた『ファイナルファンタジーⅡ』のワードメモリーシステムだ。要はキーボードのないファミコンで”Ultima IV”のシステムを再現する仕掛けなわけだ。
と、こんな風に86-88年あたりにリリースされた様々なRPGを見ると「おいおい、これって”Ultima IV”そのままじゃん」と言いたくなるシステム・ナゾ・演出の山で苦笑いしたくなってしまう。

さらに余談の余談を付け加えると『FFⅡ』が発売された時、マル勝ファミコンの企画で僕は坂口さんたちとの座談会に出席させていただいていた(この座談会の顛末は記事【ファミコン版FFⅡのアルテマはなぜ弱かったのか?】に書いた)。
その時、ポニーキャニオンのウルティマシリーズのプロデューサーの方が出席しておられ、明らかに”Ultima IV”の影響を強烈に受けている『FFⅡ』が主役の一つの座談会で「Ultima IVの移植しますよ」と言っておられたわけである。
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