1990年8月 – 卍丸

7月頭に、初めてREDに行ってからあと、天外2のミーティングは週に一度のペースで、浅草REDで継続的に行われていた。
広井さんとあだちさんの監修の下で、だいたい毎週、桝田さんが新しい議題を提示し、各自が前回のミーティングで持ち帰った課題の解決案などを示して、それをまた枡田さんがまとめ、次のミーティングで説明すると同時にまた新しい議題を…とこんな方法でブレインストーミングとゲームデザインミーティングをまとめた形で進んでいた。
実際的なプロセスとしては、キャラクタ・ゲームシステムの枠作りなどを行い、国の数をきめ、1から引き継ぐ登場人物を決め…というように、まず大きな枠組みを決めた。これに2-3回、つまり1ヶ月弱かかったと記憶している。
ちなみにこの中で一番簡単に決まったのは国の数だった。なんせ西日本、九州と四国は使わない、そして当時の国の分け方…までは決まっていたので、ほとんど自動的に決まってしまったのだ。

この段階ではおおざっぱ以上のマップ/システムデザインなどは行っていない。というのもスーパーCDの最終的な仕様が決定していなかったので、容量計算が出来ないため、戦闘の計算式などの論理的な部分以外は決められない状態だったのだ。


最大4人のパーティで、カブキ・絹・極楽のパーティで出来て、それぞれ主人公・技も力も使える、技オンリー、力持ち…なんて簡単なキャラクタが決まり、また僕が天外1の戦闘が気に入っていたこと・継続性などもあり、対面戦闘で術が交換可能で…といった戦闘に関する基本方針も決まった。
そして次にCDROMのアクセスの都合なども兼ねて、暗黒蘭の根で移動を妨害する…という案も決まった。
ちなみに、もともとの「暗黒蘭」は広井さんが考えたアイディアで「暗黒卵」だったのを桝田さんが勘違いして暗黒『蘭』になったのは、結構有名な話だと思う。
また天外2の特徴のひとつになっているHP表示も結構簡単に決まった。もともと、このHP表示はファルコムの英雄伝説がやったのを見て「これの方が面白いよ」いうので決まったものだ。
だいたい敵と戦っていて手ごたえからどれぐらいHPが減っているかはある程度わかるはずで、それがわからないのもどうなんだ…と思っていたのに加え、HPが見えたほうが戦略を立てやすく、ゲームが面白くなったと感じたので、HPを表示しようといったところ、それの方が面白いんじゃないかと結構簡単にまとまって、決まった。
なお、対面型戦闘で敵のHPを表示したのは英雄伝説が初めてではないか、と思う。
さらに舞台が前作と継続していることを明快に意識させるために、敵キャラでは僕が大好きだったマントー、NPCでは桝田さんが気に入っていた足下兄弟と、前作からのお助けキャラとしてホテイ丸が登場することになった。
ここでマントーがどうして選ばれたのかというと、理由ははっきりしていて、前作の天外1の大門教のメンツの中でプレイヤーに殺されていないのが、こいつぐらいしかいなかったのだ。もちろん敵も復活させればいいだけの話だが、コミックリリーフとして使いやすいこと、僕と広井さんが気に入っていたことなどが理由でマントーが選択されることになった。
でも、まさかマントーがその後も登場することになるなんて想像もしていなかった。
そして、自分の記憶が不確かなのだけど、確かこのあたりでタイトルが決まったはずだ。
広井さんが言っていた名前は「三日月丸」だったのだけど、桝田さんは以下の理由でダメだと判断した、と当時言っていた。

・天外1は「ジライア」という名前、つまり主人公の名前がタイトルについている。すなわち、2もそうでなければならない(シリーズの継続性)。
・とすると、「天外魔境2 三日月丸」なるが「三日月丸」は、線が細く、字面が弱く、また発音に濁音が含まれていない(発音が弱い)

なので、この名前はまずい。と、まあこんな説明があって、卍丸に決まるのに確か1-2週間かかった記憶がある。
では、なぜ卍丸なのかというと、これまた桝田さんらしい機械的な理由なのだけど、

・文字自体に記号性があること。
・濁音が入っていること
・発音が短いこと
・出来れば1字であること

などといった理由を並べて行った結果、卍丸に行き着いたらしい。
「悪いけどさ、タイトルは機械的に決めたからロマンなんてどこにもなかったよ」と、桝田さんは言っていたけれど、機械的に条件を並べて「卍」って文字を導き出すのは、やっぱりスゴいことで、こーいうところにプロフェッショナルを感じてしまう。
また、たぶん桝田さんのことだから、最後までいくつかの候補があったと思うのだけど、どっかに桝田さんが書いてたけれど、卍って文字は、サンスクリットの性交の体位の意味もあって、天外っぽい下品さも兼ね備えているって意味で、最終的に「卍」が選ばれたわけだ。
ところで、桝田さんが選んだ卍という文字は、PCエンジンにはありもしない拡大・回転・縮小をするためにはとてもありがたい形状で(対称軸が多いのでパターン数が少なくて済む)、タイトル画面でコケ脅しをするのにとても役に立ったわけだけど、コレ自体は全くの偶然だ。
桝田さんがこのタイトルを決めたときには、まだスーパーCDの容量も決まっていなかったし、SFC(スーパーファミコン。1990年末に発売)の発売は決まっていたけれど「そんなものは技術で乗り越えられるよん」的なことを要求されることになるとは思っていなかった。

桝田さんからそれとなく言われていたかも知れないけれど…このあたりの記憶は不確かだ。実際に容量が決まって、デモなどを作る段階が近づいたとき、そういう話が出てきて、ともかくタイトルで拡大・回転・縮小やれといわれた記憶がある。
またSFCと比較されても、CDROMにはオーディオと圧倒的な容量って強みがあるので、結構いい勝負が出来ると考えていた。実際天外2が発売されてからあとの1992-93年は結構いいソフトが出て、PCエンジンの全盛時代と呼べる時期だと思うので、それも間違っていなかったと思う。

と、ここまでは「卍」にはメリットがあった…という話だが、実はひとつ大デメリットがあった。
それは、この「卍」のせいで海外への移植が非常に難しくなってしまったのだ。
というのも、逆卍マークはハーケンクロイツで、これはナチスドイツにつながっていて、海外ではもうマークとして使用すること自体が禁止されているような代物だ。
で、天外2を作り終わった直後に、NECアメリカが結構このゲームを海外用として移植して欲しがったのだけど、テキストを全部英語表記にして…英語のセリフを作って…という膨大な作業に加えて、タイトルを変更しなければならない=タイトルプログラム・あとオープニンググラフィックなどの全書き換えをしなければならないなどの問題があまりに大きく頓挫したのだった。

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8件のコメント

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    卍は日本においては宗教的なシンボルとして使われる、といった説明では通用しないのでしょうか。神社の境内で外国人(西洋人)を見かけますが、卍を見ても別に驚いてる様子はありませんし。倫理というより生理的嫌悪のような気がしないでもない・・・

  • AGENT: Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64; rv:2.0) Gecko/20100101 Firefox/4.0
    ポケモンですら卍マークの使用を取りやめたくらいだから他も推して知るべしです。
    他社の海外版タイトルとか見ると、輸出の際には十字架、六芒星、卍などは、
    軒並み別の物への差し替えが多いですね。ナチや宗教だけじゃなく飲酒や喫煙関連もうるさい。
    海外市場はそういう面では自由度が無いとも言えますね。

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    SEGAのファンタシースター(1987年)も敵HPを表示してましたね。
    複数の敵でもグラフィックは1体のみで、画面上に敵の匹数だけHPが表示されていました。

  • AGENT: Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; rv:2.0.1) Gecko/20100101 Firefox/4.0.1
    ファンタシースターって表示してましたっけ!?
    もしそうだとすると、対面型での敵のHP表示の記憶がまるで間違っていたわけだ…というわけで、チェックしてみます。

  • AGENT: Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; rv:2.0.1) Gecko/20100101 Firefox/4.0.1
    >>Take様 & はちはち様
    海外でのさまざまな規制は、年齢層の幅が広がれば広がるほど大変に厳しくなり、全年齢対応ともなれば、本当に問題だらけになり、\”political correct\”を維持しようとすると、大変面倒くさい代物になります。
    そして当時はESRBといった、レーティングをつける自主機関などもなく、コンソールゲームはfor kidsな物だったので、基本は全年齢になり、大変に厳しい規制になりました。
    すなわち「これは日本では宗教のシンボルマークだからね」という、大人は納得してくれる説明では通らない状態だったわけです。
    この問題には海外版イース1・2でも一度ひっかかりまして、それのせいでラミアの村の商人のネーチャンがビキニではなくなったりしています。

  • AGENT: Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64; rv:2.0) Gecko/20100101 Firefox/4.0
    対面型かどうか意見が分かれるところですが、ファミコンの天地を喰らうとかは
    敵のHPが全部わかるようになってましたね。あと数値表示ではありませんが、
    ナムコがファミコンで出してた貝獣物語なんかも、敵のHPが少なくなると
    絵が弱ってるポーズに変わるとか、これはこれで上手い表現方法だと思いました。

  • AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/4.0; GTB6.6; SLCC2; .NET CLR 2.0.50727; .NET CLR 3.5.30729; .NET CLR 3.0.30729; Media Center PC 6.0; .NET4.0C; niconico)
    戦闘画面はサイドビューですが覇邪の封印のファミコン版も敵のHPが数値で出ますね。パソコン版やマークIII版はゲージ式でした。
    発売時期がファンタシースターとほぼ同じなので、対面式でHPを数値化してるソフトだとファンタシースターが一番古い記憶があります。

  • AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 5.1; Trident/4.0; .NET CLR 2.0.50727; .NET CLR 3.0.04506.30; .NET CLR 1.1.4322; .NET CLR 3.0.4506.2152; .NET CLR 3.5.30729)
    ファンタシースター1の時もそうですが
    銀河の三人が同じ時期に出てましたね。(5日早かった)
    少し後だとFCの新里見八犬伝もです

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