1989年6月 – お礼に一曲吹きましょう

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この話は1988-89年頃、PCエンジン版のイースを作るとき、僕が経験した話を出来るだけ正確に記録に残すつもりで書いている。ただし、これは

1)21年前の話で、記憶違いの可能性は十分にある。
2)僕が体験したり思ったりしたことを書くようにしているが、伝聞情報(二次情報程度)もある。

だから、当時の正確な記録ではない可能性はあるのは理解して欲しい。

■■■

よく「サラが死なない、オリジナルと違う」と、オリジナルのイースを好きな人は文句をいうわけだが、どうしてサラを殺さなかったかというと銀のハーモニカが大問題になったからだ。


銀のハーモニカは、二人の女神の片割れのレアの物だが、なぜか廃坑の宝箱に入っていて、これを取り返すと結構な経験値がもらえるのだが、オリジナルのイース1では、実は銀のハーモニカはゲームをクリアする上で必須イベントではない
ある日、なんだったか理由は忘れたが「銀のハーモニカっていらないんじゃね?」という疑問が出てきて、山根に聞いたら「どうだったかなあ、宮崎さんならちゃんと調べてるんじゃないかなあ」とか曖昧で(山根はグラフィックなら1ドットの違いも覚えているが、それ以外のあらゆることは全て忘れるダメ人間である)、しょうがなくソースを調べると銀のハーモニカのフラグチェックはレアしかやっていないっぽい。
(記憶が逆で、銀のハーモニカ絡みをソースで調べていたら、必須じゃないっぽいとわかって、山根に聞いただったのかも知れない)
こりゃもしかしたら必須じゃないかも…とチームで騒いでいると、なんと当時、仲が良かったチーム(スーパーグラフィックスに大魔界村を移植していた連中)にMSX版のイースで銀のハーモニカを取らずにクリアしたというヤツが(偶然にも)実際にいた。
なんてこったいと驚き、88版で実際にやってみようという話になって、進藤がやってみるとなくてもクリアできる。
「山根君、クリアできるべや!」(と叫ぶ進藤)
「俺のせいじゃないじゃん、宮崎さんのせいじゃん、ゴー」
みたいな感じの会話があって、みんな笑い転げていたのが印象的だったが、結局、オリジナル版のイース1では、銀のハーモニカはオマケイベントで、銀のハーモニカを取らずにクリアすることが出来るわけだ。
まあ銀のハーモニカを取らなくてもいいだけなら「あはは」と笑って見過ごせる話だが、問題は銀のハーモニカは2のクライマックスでウルトラ超トンデモスペシャル重要アイテムとして登場することだ。
ラストバトル寸前、女神が世紀の大ピンチで「そうはいかないぜ、魔物さんよ」の名セリフとともに曲が”Don’t go so smoothly”に変わり、盗賊のゴーバンが世にも格好良く現れると「アドル、これだ!」とかいって、銀のハーモニカを投げて渡す
そしてアドルは脳裏に浮かんだメロディーを静かに吹き始めたとかいって”Feena”を吹くと、女神の封印が解ける…痺れるほどカッコイイシーンをプレイヤーは見る。
ここでゴーバンから銀のハーモニカを投げてもらうのはいいが…
「エ? コレナニ? 見たことないよ、僕?」
では笑い話にもなりはしない。
ついでに書くと、もはやこれを読んでいる大半の人は知らないだろうが、オリジナルのイース1ではレアは”Feena”を吹かない。吹くのはファルコムが1987年に発売した『太陽の神殿』の中の1曲だ。
だから、なんでアドルの脳裏に浮かんだ曲が”Feena”なのか、さっぱりわからない(笑)
もちろん、こんなものはレアの吹く曲を”Feena”に直しておけばいいだけだし、実際に直したが銀のハーモニカイベントを必須にしなければならないのは間違いなかった。
(ちなみにPCエンジン版イース1・2は、レアが初めて”Feena”を吹くようになったバージョンだ(笑)…って、考えてみたらエターナルとかではどーなってんだろ?)
この問題を、最小限の手当で解決する方法がサラだった。
パソコン版ではサラが死んで、留守番していたヤツが本をくれるが、これを止めて、サラは危険を感じて身を隠したが、そのときレアに本を託した。なぜサラがそうしたか? レアが(復活しつつあった)女神の力を使って、サラの心に干渉したのだ。そしてレアはアドルのテスト+銀のハーモニカを取り戻すために取り戻せと言った。銀のハーモニカはもちろんクレリアのハーモニカであり、女神の能力を増加する役目を果たす」…とでも考えれば、合理的に話は成り立つ。
これをサラが死んでいるとすると「サラが死ぬ前にレアに本を渡したらしい」とか、世にも不自然なセリフを留守番がいうことになるので、あまりに厳しすぎる。サラは死んで留守番が手紙を渡す方法もありえるが「レアに本を渡して手紙を書くほど危険を感じていたのに、逃げずに殺されて、おまけにその手紙は留守番は見つけられたのにダルク・ファクトの手下は見つけることが出来なかったわけか」と、突っ込みどころが満載になってしまう。
サラはいじらず、ゴーバンでブロックする手もあるが「お前、吟遊詩人にハーモニカを取り返してやんないとさあ、ダームの塔には入れてやれないな」は、留守番のセリフよりさらに理不尽だ。
サラでもゴーバンでもなくロダの木でブロックする手もあったが、これはHaHi君が編み出した脅威の戦略「ゲームスタートで即廃坑に入り、ロダの実を手に入れ、シルバーソードをゲットして、アドル無双でプレイする」方法を壊してしまい、プレイする戦略に影響を与えるのでいただけない。
と、いろいろな案を考えた結果、少々レアが嫌みなキャラになりすぎるきらいはあるが、フィーナと対照的だし、それに女神なんだからアドルのテストってことに出来るし、先に銀のハーモニカを見つけて嫌味を言われない人もいるだろうから、これがいい…というわけでサラは姿を隠すことになったわけだ。

HaHi君はレアが嫌味になるのが気に入らなかったようで「岩崎さん、レアってずいぶん嫌味なキャラになっちゃったよねえ」と言っていた。そしてデバッグのとき、レアが嫌味なキャラにならないように、先に銀のハーモニカをとって渡していた。

ところで、どうして銀のハーモニカをゴーバンが持っていたのか?
アドルが渡した銀のハーモニカをレアがゴーバンに渡していた? それとも中枢で落ちていたのをゴーバンがネコババした?
ダームの塔に入るとき、クレリアを丸ごとむしられるのをわかっていたレアがゴーバンに渡したというのが一番ありそうだが、実際のところどうなのよ、と山根に聞いたときの答えは簡単だった。
「細かいこと気にしなくていいじゃないっすか。宮崎さんね、結構前後のこと考えてませんでしたから」

■余談
CD音源に余裕があったら、本当は”Feena”を吹くシーンはもっとカッコ良くやりたかった。
封印されている女神の前でハーモニカを吹く→単音のハーモニカ→いろいろな音が被さっていき、荘厳に派手な曲になる→女神の封印が解ける…なんて演出を考えていたのだが、既に書いたとおりNECからCDDAは70分までと釘を刺されている状態ではやりようがなかった。
ちなみにこの演出はエニックスの大傑作アドベンチャ「ジーザス」のクライマックスシーンのパクリ。
現スクウェア・エニックスさん、『ジーザス』はアレンジし直して、リアルタイムアクションアドベンチャにしたら世界に通用する作品に出来る自信ありますよ、ホントに。”Dead Space”とか”Bio Shock”よりずっと面白いゲームに仕上がる自信ありますよ、マジで。
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5件のコメント

  • AGENT: Mozilla/5.0 (Windows; U; Windows NT 5.1; ja; rv:1.9.2.3) Gecko/20100401 Firefox/3.6.3 (.NET CLR 3.5.30729)
    のっぽさんのサイトで披露していたハーモニカの逸話ですね。やはりオリジナルの制作者はそこまで深く考えていませんでしたか(笑)。
    ファンの間では「フィーナを目前にしてアドルの脳裏に浮かんだメロディが『Feena』だからこそ良いのだ。」と解釈する向きもありますが、PCエンジン版の変更は、綺麗にまとめたなという印象があります。ついでに「エターナル」でもレアが演奏していたのは「Feena」でした。
    岩崎さんによる「ジーザス」リメイク。ぜひ見てみたいですね。音楽はもちろんすぎやまこういちさんで。

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    >ファンの間では「フィーナを目前にしてアドルの脳裏に浮かんだメロディが『Feena』だからこそ良いのだ。」と解釈する向きもありますが
    いやーさすがにこれは厳しいでしょう。
    もちろん解釈は人それぞれですが、仮に当時、この解釈を聞いたとしても、移植している人間としては太陽の神殿の曲を鳴らす気にはちょっとなれなかったでしょうね。
    たった一度しか聞いてないあのメロディーを、銀のハーモニカをもらったときずばりと吹ける、ということ自体が美しいとぼくなんかは思うのですがねえ。
    あと、これは僕の推測ですが「深く考えていなかった」のではなく、多分宮崎君も山根も銀のハーモニカは必須のイベントにしていたつもりだったのだと思います。
    実際、山根は「なしでもクリアできる」ってことを信じていなかった記憶があるので。

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    2ラスト前は、ほんとにウルトラ超トンデモな感動でした。痺れましたねえ・・・(今でも思い出します)
    まあそんなシーンではありましたけど、金撞堂に戻って、イースが地上に降りたシーンも確認してましたw
    時間軸としては
    ダーム決戦前(夕方)
    ダーム決戦(夜通し?)
    決戦後(朝)・・・で、The Morning Growと・・・
    決戦って長かったんだなあと思いました。
    そんなに弾幕から逃げられないけど。
    アドルがFeenaの曲を・・・のシーンで思い出すのは、アドルがリリアに草笛で吹いてあげた、OVAイース天空の神殿の1シーンです。
    リリアがアドルにその曲の事を聞くと、アドルが遠い目をしながら「大切な人から教えてもらった」旨のシーンも、思い出されます。
    ドラマチックなエターナルでレアがFeenaを吹き、記憶の封印が完全に解かれるシーンが

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    はじめまして。
    毎回更新されるのを楽しみにしています。
    大魔界村をハドソンで作ってたというのは驚きです。
    まあ、エイリアンクラッシュとかもそうだったみたいだし、そういった開発代行(というのでしょうか)は結構多かったのですか?
    イース以外にも当時のいろいろな状況が描かれているので、とても興味深い内容です。
    出来ればPCエンジン全体の総括のような形で、書籍にして欲しいと思っています。

  • AGENT: Mozilla/5.0 (Windows; U; Windows NT 6.1; en-US) AppleWebKit/532.5 (KHTML, like Gecko) Chrome/4.1.249.1059 Safari/532.5
    >のっぽさん
    決戦の時間についてHaHi君が突っ込んだとき、山根が言ったせりふは「戦いが終われば、朝になるもんなんですよ、ゴー」でした(笑)
    >もさん
    当時ハドソンはPCエンジンのトップメーカーであると同時に下請けも数多くやっていました。
    またPCエンジンを作ったメーカーでもあったので他所のメーカーの作品でも最終段階の開発は、ハドソンにデベロッパーがやってきてデバッグする、といったことは良くありました(特に1988-89はPCエンジンはまだ立ち上げ期に近くてノウハウがありませんでしたから)。
    企画と仲が良かったのと、当時生粋のゲーマーでもあったせいで、やたらハドソン以外のゲームのデバッグも行いました(笑)

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