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集え! ナイコン野郎ども!
これは『電撃王』に載せていたコラムの中で思い入れが深いものを、細かくアップトゥデートして載せようという試み。
新たなコメントは【注】、最初からあったコメントは【原注】と表記している。

■■■


 「ナイコン」…これってワケのわかんない言葉だよね。
 この「ナイコン」、なにかって言うと、1976~80年ごろのマイコンはとてつもなく高くて、なーんの使い道もないし、なーんの実用性もないから親が買うわけもなくて、そして値段が高いから子供の小遣いで買えるわけもない代物だった。
 けれども欲しい。
 しかたないから雑誌を買ったり、本を読んだりして紙上でプログラムを勉強し、店先のコンピュータでプログラムを打ち込む、そんなコンピュータを持っていないコンピュータマニアを「コンピュータを持っているマニア=マイコン族」の逆、「ナイコン族」と呼んだわけ。

【注】 当時はパソコンではなく、マイクロコンピュータを略して「マイコン」と呼ばれていた。で、この「マイ」が「マイ・ホーム」なんかの「マイ」と同じなんで「マイ・コンピュータ」とも引っかけられていた。
だから「ナイ・コン」なんて言葉が成り立つ余地があったワケだ。


 ところで「なーんの実用性もない」と書いたけれど、これはマイコン黎明期、つまり1976-80頃のマシンのパフォーマンスを考えれば当り前。
 フルセットのシステム、本体、専用グリーンディスプレイ、放電プリンタ、それにディスクを揃えれば(ディスクは存在すればだけど)100万円以上は当り前。その癖してメモリは8~20キロバイト程度。(奇跡的に32キロとか64キロってシステムは存在したけど)
 漢字も出ないし、ソフトを立ち上げるのはだいたいカセットテープで、運良くテープリードエラーが起こらなくても立ち上げるのに10分以上かかる。だいたいそのソフトからしてベーシックがあれば運がいい方。
 当然「市販ソフト」なんてないし、ましてやワープロ・スプレッドシートなんてまったくない。(漢字が出ないんだからワープロが出来ないのも当り前だけど)
 パワーもなければソフトもない。まさにないないづくしな代物だったわけ。

【注】 
■グリーンディスプレイ
当時はカラー表示なんて高級なマイコンにしかなかった。で、目が疲れない専用ディスプレイとして緑の文字を出すブラウン管があったのだ。
■放電プリンタ
当時主流だった安くて、それなりに使えるプリンタ。アルミ蒸着された特殊な紙を放電で焼くから「放電プリンタ」と呼ばれた。
■カセットテープ
オーディオ用のカセットテープを利用して、当時はデータやプログラムのセーブが行われていた。速度は110~2400bps。


 こういうポンコツが電気屋の店先で麗々しく「マイクロ・コンピュータ(無限の可能性を持つ!)」として飾られていたわけだけど…電気屋の店員にとっては、こいつはまさしく頭痛のタネだった。
 「なーんにも使えないゴミのごとき商品」なのに「やたらめったら商品説明が難しい」のだ。
 実はこのことは今でも本質的には変らない。コンピュータほど「何に使えますか?」と聞かれて困る物も珍しい。
 プログラムを組んで、周辺機器を作れるなら(しかもとんでもなく難しいわけでもない。ある程度の努力をすれば誰でも出来る(!))炊飯器の制御だろうと、シャッターの開け閉めだろうとワープロだろうと電話の制御だろうと、およそ考え付くことなんでも出来るんだから「何に使えますか?」と言われて困るのが当り前。
 今は単に「ワープロ」とか「ゲーム」とか「表計算」とか「データベース」なんかに代表される『コンピュータでやれること』を普通の人が認識しているから、店の人も「ワープロに使える」とか「家計簿に使える」って言うだけ。

【注】 ここにインターネットとメールが入っていないのは、当時はインターネットもメールも普及していなかったから。当時、パソコン使う上で最も大きな要素はワープロだった。


 コンピュータに出来ることが1977年当時から変ってしまったわけじゃない。
 単に1977-80年当時のマイコンでワープロとか表計算をするのには1000万円とか2000万円とかの家が一軒買えるほどの金が掛かっただけで、出来ないわけではなかったのだ。

 当時のコンピュータでリーズナブルな金の範疇で出来ることは「単純なゲーム」と「ベーシックを動かしてプログラムを組んで遊ぶ」だけだった、と言うのが正しいわけ。
 だけど「単純なゲームを自分で組んで遊べます」じゃマニア以外は買わないから「無限の可能性を持っていてプログラムでなんでも出来る」なんてかっこいい台詞で何も知らない素人に押し付けていたわけ。
 それでもまだ、こんなワケの分からない商品を面白がって触るのは好奇心旺盛な人間、それも一部の新しいモノ好きの金持ちだけ。店の売り上げから見れば「小さな商売」だったのだ。
 そこに「マイコンブーム」ってのが起こって、マイコンは一般に広く名前が知られるようになり、一般の人の興味を引くことになった。
【注】 マイコンブーム時代、出来るサラリーマンはBASICを使いこなす、なんて本まであった。とても信じられないだろうが。

 店にマイコンを買いに来る人は後を絶たなくなり、店の売り上げはどんどん伸びた。ところがコンピュータは「拡張機器」とか「ソフト」って奴があるおかげで、売りっぱなしあとは修理以外は知りません、なんて言えるもんじゃない。
 アフターサービスが当時の他の電気商品より遥かに複雑だったわけだね。
 だから電気屋の店員は、売ってもいないソフトのサポートをしないといけないし、ブームのおかげで、どんどん新製品が出るしでとんでもなく大変だった。
 そこに現れた便利な「ヤツ」がナイコン族(マニアだけどね)。
 ナイコン族は新製品を店員よりも良く知ってたし、店にとっては複雑な商品も簡単にセットアップしたし、分からないことも聞けば知っていて教えられる便利な人だったわけ。
 結果的に、店とナイコン族の間にはある種の共生関係が出来てきた。
 店にある機械を使わせてあげることで、ナイコン族は毎日店に現れるようになり、寄せ餌になって他のマニア(買えるぐらい金を持っている人もいるってわけ)も集まってくる。
 結果的にナイコン族は客集めまでしてくれるほとんどタダで働くおいしいバイトだったわけ。
 皮肉な見方をすれば、ブームが起こった状態ですら、その程度の市場で、実用性がなかったってことの裏返しな訳だけどね。
 では、その毎日現れるナイコン族は店で何をやっていたのか?
 なんと驚くべきことにプログラムを組んで遊んでいたのだ。
 学校から帰れる4時頃には店に現れ、店が閉まるまでプログラム。日曜は朝の10時から夜の7時に店が閉まるまでプログラム。まさに店に居座ってプログラムをしていた。(いやまったく今から考えれば唖然とする話だ。今で言えば店先のマシンでゲームを遊んでいるのに感覚的には近いと思うけど、それにしても無茶だ)
 なにせ、電気店なら自分の小遣いじゃ高くて買えないマシンもタダで使えるし、機種もたくさんあったし、メモリもだいたい目一杯に拡張されていた。
 寝転がったり出来ないのを除けば、家でプログラムをするよりよっぽど楽しい場所だった。
 てなわけで1977年頃から、電気屋のコンピュータが置いてある場所(コンピュータショップなんて気の利いたものはまだなかった)はナイコン族の溜り場となって、来る日も来る日も、マニアがプログラムを作っている不思議な場になっていった。
 なにを隠そう、愛機を持っていた僕も「店に棲んでいるマニア」の一人だった。中学~高校の受験勉強なんてそっちのけで毎日コンピュータと共に暮らしていたってわけ。
【注】 ここに書かれていることは、今の人達に取って全く信じられない話だろうが、嘘も偽りもない本当だ。僕の場合には学校が終わったらともかく店に来て、店で4時-8時ぐらいまでプログラムし、そのあとゲーセンに行って遊ぶという生活をしていた

 こうして店に集まったマニア達。
 毎日、同じ顔ぶれを見ていればだんだん顔なじみになるし、話もするようになる。話が合えば友達になっていく。(だいたいコンピュータの事しか話さないんだから合うに決っている)
 段々、顔なじみが確実に集まるようになっていき、人数も増える。なんとなく仲間意識も出来て来る。
 そしてある日、誰かが言い出した。

「コンピュータ倶楽部を作ろうじゃないか」


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