こくらさんと31年ぶりに会った

今回は31年前に発売された初代の『ときめきメモリアル』の発売日、ということもあり、この前、こくらさんと31年ぶりに会った話を中心に『ときメモ』についての雑多な話を書いておきたい。

さて、こくらさんは、いうまでもなく、こくら雅史(小倉雅史)さん、あの『ときめきメモリアル』のキャラクタデザイナーだ。
で、31年ぶりにこくらさんと会った…という話なのだけど「31年?」と誰でも思うだろうから、その昔、会ったときの話に触れておきたい。
こくらさんは、確か、ASUTYに連れられて31年前のNifty Serveの第2回の『ときめきメモリアル特設会議室』のオフにやってきたと記憶している。
この時には、もうnifty のfcgamemではときメモの人気が炸裂していて、大変な大賑わいだった。
で、ホント、1言、2言しか話せなかったのだけど、今回、なーんと熱血君のオフに来られたので、いろいろな話が出来たのもあり、メモ代わりに残しておきたい。

さて。
こくらさんといえば、もちろんいうまでもなく『ときめきメモリアル』のキャラクタデザイナーであり、あのヒロインたちを世に送り出した人なわけだけど、31年前、僕がASUTY(永山君だが、僕にとってはASUTYの方がなじみが深いので、そう書かせてほしい)から、何回か聞かされていた話があった。
それは「どうしてキャラデザをこくらさんに決めたのか?」という話だった。
この話が最初にどういう流れで出てきたのかは覚えていないけれど、ASUTYの答えはとても良く覚えている。

いやーうちのチームで女の子を描けそうなのが、こくら君ぐらいしかいなかったんよー、だからこくら君に決めて、描いてもらったんよ。彼は元はデザートコアとか描いていたんだけどねー

ASUTYは『ときメモ』の前は、PCエンジン版の『グラディウスⅡ』を作っていて、その時にもこくらさんと組んでいたのでこういうことを言っていたわけだ。
で、今回、せっかくこくらさんと会えたこともあり、この話を聞いてみた。

こくらさんの答え。

私はデザートコアは描いてないんですよ。私が描いたのはOP・人工太陽面(1面)・モアイ面(5)・高速スクロール面(6)などです。(指摘を受けて修正)

「えーっ!?」
なんてこったい、ASUTYのヤツ、記憶違いをしていたのか、それとも適当なことを言ったのかのどっちかだったらしい。
でも、本当に面白かったのはここから先だった。

当時、チームにはデザイナー(アーティスト OR ドット屋)が3人いたんですが、企画が決まった時、全員、ヒロインを描きたくなかったんです。もちろん、私も女の子を描いたことはありましたけれど、プロとして描くことはないと思っていましたし、描きたくなかったんです。

と、なんとも驚く話。では、どんな風に決まったのか?

3人とも描きたくないんだから、じゃあ、じゃんけんで決めようということになりまして、私が1抜けしたんですよ。で、描かなくていいと大喜びしていたんです。
ところがしばらくしてからASUTYさんがやってきて「ヒロインを描くのは、こくら君にやってもらうからー」と言われたんですよ。

ASUTYがデザイナーで決めたことをひっくり返して、こくらさんに決めた、というわけだ。理由は僕にはわからないし、こくらさんも説明されていないそうだ。
ASUTYが僕に言った「女の子を描けそうなのはチームではこくらさんだけだった」という、彼の勘だったということだろう(下のコンペがあったとしても、最後に決めるのはASUTYだ)。

●追記
こくらさんの証言によると「知らないところでコンペのようなものがあった」らしい。
詳しくはポスト参照。

https://x.com/MiyaPale/status/1927362258146930840

まさか、女の子を仕事で描くことがあると想像もしておらず、ペン入れの練習から始めるという、とんでもないことになった、とこくらさんは言っていたけれど、そうして描かれたヒロインたち+1名は、31年経った今もこうして愛されている。
とても素晴らしい結果だと思うのだ。

あと、こくらさんがツイッターでちょっと書いていたけれど、オープニングについて当時の人間にしかわからない話をずいぶんとしていた。
レビューの話になるのだけど、初めて『ときメモ』をレビューした時、ゲームの中身はまだ知らなかったけれど、驚いたのはオープニングのビジュアルのプログラムの技術と手間のかけかただった。

まず「歌詞」がちゃんと音源に合わせて流れてくるのにビックリした。

というのも、当時のCD音源とセリフを合わせるためには音楽を聞きながら、いちいちプログラムで微調整するしかなく、しかも最後まで聞く以外方法がないので、恐ろしく手間がかかるものだった(CD音源のデータをトリガーにするようなことは全く出来ない)。
だから、歌に合わせて歌詞を出すというのは「音を聞きながらひたすらピッタリのタイミングで文字が出るように調整する」作業で、それだけで丸1週間以上はかかる作業という感覚で「うわー手間かかってるなあ」と思った、というような話をこくらさんにしたら。

実は絵を入れ替える前はもっと歌詞と絵は合っていたんです。絵を入れ替えたらピッタリ合わなくなったと文句言われました(なお歌詞の入力と調整をしていたのはASUTYだそうな)。

いやーそりゃ文句言うわ、僕だって絶対に文句言ったわ。
他にも『ときメモ』は面倒くさいことをいっぱいやっていて、例えばタイトルで背景をスクロールさせて、ラスターを広げたあと、背景をスプライトに交換して、BGでときめきメモリアルのタイトルを出している。

まあ、見たとき「理由はわかるけれど、よくこんな面倒くさい処理やるわ」と思った。
で、その面倒くさいことの一つが下の優美ちゃん。

一見すると、手前に半透明の板が置いてあるように見えるが、背景画面が1枚しかないPCエンジンではそんなことは出来ない。BGは☆マークで使っているので、これはBGのパレットをいじって、半透明の板が乗っているように見せ、その上に”tell your heart”とスプライトを表示しているのだ。
そして背景を使っているということは、優美ちゃんはスプライトだ。
ところが優美ちゃんの足には半透明の処理がかかっているように見える。
こんな風に見えるようにする一番簡単な方法は、ラスター割り込みで、優美ちゃんのスプライトパレットを書き換えることだ。他にも方法はあるが、遥かに処理が面倒なので、まず間違いなく、この方法だろう。
初めて見たときに「よく、こんな面倒くさいことをしているもんだ、と思ったわけですよ」と、こくらさんに言ったら。

その優美ちゃん、IGAさん(五十嵐さん)が「すごいだろう」って、私にすっごい自慢していたんですよ。この31年間で、初めて優美ちゃんのところを褒められました。(なお、IGAさんはヘルプでここのカットを作っていたということらしい)

僕、爆笑。

最後にレビューがらみの話で出た面白いエピソードも残しておきたい。
当時、レビューで100点つけようかどうか本当に迷ったんだけど、95点になったのは、100点には上がない、という以外にも理由があった。
1プレイに9時間ぐらい、慣れても7-8時間なのがひっかかった。
これで11人(まだ伊集院と舘林に気が付いていない時)だと、ほとんど100時間。ちょっと長すぎる、と思ったのだ。
このプレイタイムについて、後にASUTYに聞いたら、1プレイ5時間ぐらいのつもりだったと彼は言っていた。開発機だと多分もうちょっと速かっただろうから、それよりちょっと遅いぐらいのつもりだったんだろうなと思ったんですよね、と、話をしたところーー

実はゲームの長さは「長すぎるんじゃないか?」とチームでも問題になりまして。
それである日、立石君(最初に『ときメモ』の企画を書いた人)が「そうだ! 2年をなくして、1・3年だけにしちゃえばいいんだ!」と言い出しまして。
チームのみんなで「いや、ゲームは面白いし、なくさなくてもいい!」と説得するってことがありました。

えええーっ!?
立石さん、ムチャ言いすぎ。まあ、こんなとんでもない修正がなくてよかったという話だった。

最後に、こくらさんから聞いた開発のエピソード。
下の収録の記事に関係する話。

収録とは関係ないけど、台風情報が載っていたのでついでのお話。
金曜日の夜にチームみんな貫徹しいて、次の日もみんな作業してるけど、早朝に私とメタルさんは「じゃあ帰ります~」って地下鉄に乗ろうとしたら水害で動かないって事があって、結局会社に戻って作業再開しました。この日だったのか?
https://x.com/MiyaPale/status/1900887873697837339

■僕
あ、間違いなくその日だと思います。
ファンミで声優さんが「地下鉄が浸水して動かなくて大変だった」という話をしていました。
■こくらさん
ありがとうございます。裏が取れました(笑)
あの日はいつだったんだろうなってずっと思ってました。
会社からは早期退社勧告があった気がしますが、チーム全員居残りをきめてたのかな。忘れてる(汗)
というより土日出勤当たり前だったからな~当時
■僕
ズバリ正しいと思います。
今、調べたところ1993/8/27は金曜日なので、その記憶の話とバッチリ合います。
27日に接近~抜ける感じだったので、28日朝は浸水していて動かないのも不思議なしですw

で、さらに調べたところ、以下に浸水事例があり、モロにこの日だったとわかったのである。

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siryo4.pdf www.cas.go.jp
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4件のコメント

  • >CD音源のデータをトリガーにするようなことは全く出来ない

    ここを読んでいて思い出したのですが、PCE版『スナッチャー』ではCD音源の会話(工場跡から本部に帰ったあとの局長とのやり取りのシーンや、ACT2冒頭のここまでの捜査の振り返りシーン等)でCDが音飛びすると、キャラウインドウの口パクが動かなくなってシーンが進行しなくなったんですよね。
    さらに音飛びが少し前の音声パートに巻き戻った場合だと、音飛びした次のセリフのところまで音声が進むと口パクが再開してシーンが進行しだして。
    歌詞のタイミング合わせとはちょっと違う話でしょうけど、CD-DAにトリガーになる信号かなにかが含まれていて、口パクの同期というかキッカケにしているのかなと、当時とてもビックリしました。

    • それはPCエンジンのBIOSでは出来ない独自処理です。
      CD_Playを実行したあと、すくなくともBIOSでやれることはないのですが、CDプレイヤーを見てわかる通り、もちろんボリュームを読み取ったりすることはできます。
      ただし、それは公開情報ではなかったはずですし、もちろん使用していいものでもないんですが…w

  • そうことだったのですね。
    私はもしかしたらCDの当該TRACKの中にINDEX(TRACKの一つ下の階層区分)が設けられていて、それをキッカケにしてるのかなとか想像していたのですが、それを確かめたくてもINDEX表示ができるCDプレイヤーなんてPCエンジンCD-ROM2のCDプレイヤーモードくらいしか手持ちがなく、当然それでPCE用ディスクを再生しようとしてもシステムカードのトップ画面に戻されてしまうので、確かめられないまま今に至っておりました。

    でもこれ60fps動作のバーチャルコンソールやPCエンジンmini等のエミュ環境だと、長ーいビジュアルシーンの後半になると59.94fpsの映像のタイミングで作成されたCD音声が絵とズレてくる問題が回避できる、未来を見据えた設計ですね(もちろんそんな想定してるはずもないですが)w

    • INDEXが使われていたことはありえないと思います。
      なぜならPCエンジンの開発システムではINDEXを生成して出力するオプションが存在しないからですw
      ただし、コナミさんがそこらへんまで含めてCD-ROMのノウハウの蓄積を兼ねて、作られていた可能性はゼロではないですが…

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