『天外Ⅱ』に参加しようと決めたワケ

『天外Ⅱ』の発売28周年というので、ちょっと記事を書いておこうと思った。
continueでちょっと喋って、下の記事でもちょっと書いた話だけど、詳しく書いたことはほとんどないなあという話。

どうして『天外Ⅱ』の仕事を受けることにしたのか?

大恩人の中本さんに頼まれたら、やっぱり断りにくい…というか、断るなんてありえないっしょ。
また、当時は超大作RPGを作るのに憧れてたし、広井さんに「岩崎じゃないとヤダ」と指名を受けたのはもちろん嬉しかったし、かつ桝田さんがスゴく仕事が出来る人だったので一緒に仕事してみたかった。
ここまでは、まあ普通の話だと思うのだけど、あと一つ、とても大きな理由があった。

それは「辻野さんのコンテをちゃんとコンテ通りに動かしたかった」のだ。

どういうわけか、僕はたまたまコンテを読む能力があった。
不思議だけど、あったのだ。
そして、当時、コンテを読めるヤツはハドソンにはいなかった
それもムリはない。
コンテが必要になる仕事なんてやったことないんだからしょうがない。

ところでコンテを読めない人は、コンテというのは上から下に並んでいる通りに絵を作っていけばいいと思うかもしれないが、そうじゃない。

コンテには時間の情報や「どんな風に動かしてほしいか(今の人にわかりやすく書くならイージングの指定とか書かれている)」が書かれているし、セリフが決まっているときには「どのあたりから喋り出すか」なんて情報も入ってる。
さらに細かいいろいろな情報、例えばここは一瞬止めてくれとか、ここは動きをためて欲しいといった情報も必要に応じて書かれている。

つまりコンテはアニメーションを作るための動きと時間の設計図で、実際にアニメーションを作る人間が書かれている指示から時間やいろんなものを読み取っていかないと、コンテを描いた人の意図したものにならない。

そして最初に書いた通り、ハドソンにはコンテを読めるヤツがいなかった。
これは断言しておく。
なぜなら、初めてハドソンで辻野さんのコンテを読んだ時、全くその通りにビジュアルシーンが動いていなかったからだ。

書いているシーンとは違う。
ただテキスト内容は違ったけど、同じシーンがアクションRPG天外1にもあった

今でも覚えている。
1988年の夏前、天外1の開発機の上で、まあ僕らが後にビジュアルと呼ぶことになるアニメシーンのようなものが表示されていた。
当時、ハドソンのスタッフはCD-ROMのCLVの恐ろしさを分かっておらず、まるでフロッピーのようにCDから読みまくれる前提でゲームを設計していて、僕が「いや、その作り方はやばいよ」と言っても、まるで馬耳東風だった(中本さんからしてそうだった)。

それで初めてマスターが出せるようになって板焼きをしたら、アクセスがとんでもなくて真っ青になるのだけど、もちろん、この時は、そんなことは知るわけもなくCDシミュレータを見るとバリバリとデータを読みまくっていた。
それで「こんなことやったら止まってばっかりで動かないんだけどなあ」と思いつつ、ふっと横を見ると、辻野さんのコンテが机の上に転がっていた。

なんてこともなく「あーコンテがあるな。これが辻野さんのコンテかぁ」と思いながら読みはじめた。

とんでもなくうまいコンテでぶっ飛んだ。
今から考えてみりゃあ、辻野さんはテレコム・アニメーションフィルム出身のジブリ直系の弟子筋に当たる人なのだから、そりゃあクソうまいに決まってるのだけど、ともかく自分が直接目にした中では突き抜けてデタラメにうまいコンテだった。

だけど問題は目の前に動いているアニメシーンが、全くコンテの通りに動いていないことだった。要はスタッフがコンテに描かれている情報を読み取れていないってことだ。
それで、いたスタッフに思わず怒ってしまった。

「なあ、このアニメ、全然ちゃんと動いてないんだけど!」
「え?」
キョトンとしたグラフィックのスタッフ。
「だからさあ、コンテのここにこう書いてあるでしょ?」
「あーはい」
「これはこういう意味だから、こう動かせってことなの! 全然その通り動いてないじゃん!」
「あー…知りませんでした」
「これはこうだからスクロールすりゃいいってもんじゃないし、ここは書いてあるこの動きが全然入ってないじゃん? これじゃあ全然コンテで意図したモノになってないんだよ」
「すみません…」
と、怒っちゃった僕に、超ヘコんだ感じのスタッフ。

ところで、このスタッフが誰なのかも覚えているけど、今では絶対にコンテの意味を理解しているのは知っているので、名前は伏せておく。30年以上も前の若造の時代の知らなかったことで、今さら実名を書かれても困るだろう。

と、こんなことがあったのだけど、そのあとどうなったのかというと、コンテ通りに動かすどころか、CLVの遅さに激突して戦闘スタートするのに1分とかかかってしまうもので、もちろんそっちをなんとかするのにみんな必死になった。

そして開発は遅れに遅れ、このビジュアルを含むアクションRPG『天外1』はボツになり、1989年の初頭から当時の王道のコマンド・対面型戦闘のドラクエ型RPGに桝田さんが突貫工事で直していくことになる。

この時に使われた技術はバックグラウンドリードから絵を表示する+スプライトでアニメする、基本的にはコブラで使われた技術と同じで正直、辻野さんのコンテ(レイアウトは一応その通りなので)の破片程度のものでしかなく、僕としては「あまりにもったいない」と思っていた。

だから『天外Ⅱ』を始める時には、辻野さんのコンテが本当にコンテの通り動くを目標にしていたし、実際、ほぼなんとかなったと思っている。
…なんとかなってなくて文句あったらスビバセン、辻野さん。

なお個人的なお気に入りは、タイトル・玉・根の一族の初登場・絹あたり。
というわけで、絹のシーンも豚も、CERO Dで突っ張って、ほぼオリジナルの『天外Ⅱ』が遊べるのは、PCエンジンminiってことで。

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今でも辻野さんのコンテ集出してほしいし、出してくれたら『天外Ⅱ』については「これを実現するためにかくかくしかじかのような処理をした」とコメントを付けられるのになあとか、思ってしまうのだ。

ところで余談なのだけど、CLVのコトをちょっと書いたので思い出したけど、メガCDをCAVだとかCLVではないとか書いてる間抜けな文章が世の中にある。
CD-ROMのロゴが付く限りは、必ずイエローブックの規格を満たす=レッドブックの規格を満たす=物理的には音楽CDと同じ=CLVなのだから、自動的にデタラメだ。
よくこんな間違いが出来ると驚くのだけど、 どうやらモトネタは太田出版のゲームアーツのインタビューらしいのだけど、技術者がたとえ話として説明したことを、多分よくわからずに翻訳したのだろう。
そして、その間違いをさらに拡大してコピーしている、まるで基本を理解していないデタラメが相変わらず書かれているのを見ると、情けなくなるのである。

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2件のコメント

  • ゲームアーツがCD-ROM2の悪口を言ってたのは、メガCD現役当時からみたいですよ。
    BEEP誌上での多部田氏との対談でもそんな話が出てきてますし。

    • 別に悪口なんてどうでもいいんですよ。だいたい古い話ですし。
      問題なのは、今でもメガCDのCDはCAVなんてデタラメを信じてしまうテクノロジーに対する素養のなさです。

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