Roe R. Adams III がやったこと(6/終)

“Utima IV”と”Wizardry IV”のシナリオを作りレベルデザインを行って、現代にいたるまでのゲームシナリオの在り方の一つの決定的な形を作り上げた Roe R. Adams IIIのシリーズ。
その(1)
その(2)
その(3)
その(4)
その(5)
今回の話はRoeのもう一つの功績…と言っていいかどうかわかんないけど、“Wizardry IV”についての僕が覚えてるRoeが喋っていた話など書きつつ、Roeについての話のまとめとしておきたい。
といっても、敬愛する“Ultima IV”ほどにはRoeから話を聞いておらず、エピソードの羅列なことは断っておきたい。
ところで先に書いておくと、本来、”Roe R. Adams III”の評伝を書くべきは、僕ではなく故・多摩豊さんだったと思っている。
多摩さんはアスキーから発売された『Wizardry IV』の翻訳で、文字通りRoeと膝を突き合わせて説明を受け、あまりのダブルミーニングやジョークに訳せねえって感動しながら作業して、発売にこぎつけている。
多摩さんの「もうね、Roeの説明を聞くと、テキストにものすごい複雑な含意があるわけなんだよ。しかもジョーク混じり。聞いて爆笑してから、こんなのどう訳すんだ! って頭を抱えるの繰り返しだったよ」ってのは、ものすごく印象的だった。
日本でのPC版の発売が1988年なので、上記のエピソードが1988年周辺の話なのは間違いない。
で、僕は1990年に多摩さんと出会う。そして多摩さんは1992年の『天外Ⅱ』が完成する少し前に、僕をRoeに会わせてくれる。
だからRoeの話は僕が書く事ではないと思っているのだけど、多摩さんが亡くなって、Roeはもちろん全然しゃべらないヤツ(ホントにシャイなヤツなのだ)だし、ブライアン・モリアーティとか現役でRoeを知っている連中もちゃんと話を残しそうになく、どうもRoeの話をちゃんと残しそうなのが自分ぐらいしかいないのではないかと思ったので、今回書いたところがある。
Roeは不滅の仕事をしたのに知られなさすぎなのだけど、多分、本人は別に残したいとも思ってないのが僕としては納得いかない。
歴史ってのはそういうもんじゃないでしょってところがある。
と、まあそんな話はともかくとして、Roeと会ってすぐあたりでの僕とRoeの会話。
「それにしてもさ、どうしてウィザードリィ4はあんなに難しいんだい?」
「だから、パッケージにエキスパート向けって書いてあるだろ?」
全くマジの会話だ。


コレで終わってしまってはどうしようもない気がするのだけど、ここで驚くべき話を書くなら、Roeにとって、あの難易度はやり過ぎではなくて「エキスパートならこれぐらい解けるだろ」ってコトだった。
あのゲームを遊んだ人なら、誰でも「ウソだろ、おい」と言いたくなるだろうが、Roeを知っている人間なら、誰だって「うん、間違いない。Roeならそういうね」と言うだろう。
少なくとも、僕はそう思う。
また、プレイした人なら「あんなふざけて難しいゲームに何を言っているんだ!」と言いたくなるだろうけれど、Roeに言わせれば「”fair” に作ってあるからエキスパートなら解ける」のだ。
これはRoeの考え方…というか、欧米、特にアメリカのゲームデザイナーの根底にある”Fairなゲーム”という概念がこの話には強く関係するので、ここで”Fair”の概念を説明しながら、Roeのロジックを敷衍したい。
例えばかの有名なDINKの謎について、Roeに話を聞いたとき「二つのヒントがある」と彼は言った。
一つはMRONのご宣託とマップにDINKと書かれているってモノ。まあ良くこんなヒントを思いつくものだと思うけれど、Roeは「最高のヒントだろ!」って嬉しそうに言っていた。
確かに解けた人間がいなければ、難しいナゾとして有名にならないわけで、ちゃんとこれがわかった人がいるってことだ。
こっちが正攻法なのだけど、もう一つのヒントはというと「推理出来るんだ」とRoeは言った。

・呼び出せるあらゆるモンスターの中で、攻撃するうえで全く役に立たない、唯一のモンスター。
・なぜか地下1階でも呼び出すことができる。

つまり消去法で

1)今まで使ってきた、あらゆるモンスターの攻撃は通じない。
2)なおかつ、なぜか呼び出せるDINK
結論)だからDINKが答えに違いない、試してみよう

上述した二つのコースのどちらかからDINKを推理することが出来る…と断言していた。
これが、欧米のゲームデザイナーのいう”Fair”、一口で言えばヒントはちゃんと置かれている、間接的に直接的に、謎に対してヒントが置かれていて、ある謎に対してロジックで詰めて考えれば答えが導き出せるという考え方だ。
今でも欧米のゲームデザイナーは”Fair”を非常に重視していると思うが、この考え方を当時のゲームデザイナーがどうして強く持っていたのかというと、初期のグラフィックアドベンチャゲームがただの言葉探しになって、論理的に答えを導き出せるゲームではなくなり、辞書から単語をひいて総当たりするようなゲームになってしまった反省かなあと思ったりする。
が、それでも”Wizardry IV”の謎の難易度はけた違いで、ロジックを敷衍するにしても「出来るかよ」と僕は思うけれど、困ったことにRoeなら考えれば答えを出せるだろうってことは、想像できてしまうのだ。
また、Roeは戦闘についてこんなことを言っていた。
「ちゃんとベストの解はあるんだ。ただそこから先には運がある。リターンキーを叩いたら、もうあとはハラハラして見ていることしか出来ない。だから面白いんだ。パズルは答えがわかっていれば解ける。そこに少しの運があるのが面白いんだよ」
それは「あのクソ難しい謎を楽しんで解ける人間がいうセリフで、僕みたいにフツーのプレイヤーにとっては理不尽なだけだよ、Roe」と言いたかったけれど、まあRoeの考える”expert”ってのは桁が違って、僕なんざまるで普通でexpertじゃなかったってことだ。
ところで Roeのとんでもない話ってのは、最初に書いた”deadline”の話から始まって、CGDCの伝説的な”LOOM”3時間クリア事件とか、もう枚挙にいとまがないのだけど、自分が目の前で見て唖然としたナンバーワンは”THE DIG”だった。
“THE DIG”はルーカスアーツのポイント&クリックアドベンチャで、たまたま僕とRoeは一緒に遊んだのだけど、Roeがプレイしているのを横で見ていると、全く詰まらない。
中でも、本当に唖然としたRoeの謎解きが以下。

・どうやら海の中に入らないといけないということはわかっている。
・海の中にはヤバい魚がいて入ることができない(入ろうと近づくとドドーンとか魚が飛び出してきて入れない)。
・ある種の生き物を復活させる薬品がある。
・海岸にカメの化石がある。
・自分は爆薬を持っている。

これから

1)爆薬をカメに括り付ける。
2)復活する薬でカメを復活させる
3)ヤバい魚がカメを食う。
4)爆発して魚消滅。
5)海の中に進む。

これを、本当に全く詰まらずに一瞬で解いて、そのまま進んでいった。
あまりに唖然として聞いた僕とRoeの会話が下。
「これって前にやったの?」
「もちろん初めてだよ。ものすごく面白いよ」
こんな化け物だから、”Wizardry IV” を平気で作れたんだと理解できたw
“Wizardry IV”はRoeにとって難しいゲームだったんだなあと思うのだ。
正直、どれだけ自分が書いても、あのRoeのウソみたいなスゴサ、化物のような能力はわからないと思う。
世の中には信じられない化け物のような人間がいて、あまりに超越しているとき、どれだけサイズが大きいのかわからない。
僕にはいったいRoeがどれだけのサイズなのか、最後までわからなかったけれど、その足跡ぐらいは、こうして残したいと思うのだ。

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1件のコメント

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    この一連の話は歴史的に非常に重要な話なのが見てて分かります。そして山ほどあるゲームの中身や歴史にうん蓄を述べるサイトでは一切触れられていないのが残念に思えましたし、ここのコメント欄も大人しいのが悲しくなります。グラフィックが大切か、とかの話には大挙してコメントが投稿されていたのに…
    こういう話こそ、注目されて然るべきですよね。

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