1989年9月 – 微調整と最後のバランス

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この話は1988-89年頃、PCエンジン版のイースを作るとき、僕が経験した話を出来るだけ正確に記録に残すつもりで書いている。ただし、これは

1)21年前の話で、記憶違いの可能性は十分にある。
2)僕が体験したり思ったりしたことを書くようにしているが、伝聞情報(二次情報程度)もある。

だから、当時の正確な記録ではない可能性はあるのは理解して欲しい。

■■■

9月も後半になると、イースは本格的なデバッグ体制に入っていた。ほとんどすべてのマップ・イベント・(スタッフロールだけはまだ作っていなかった)が入り、デバッグ&バランス調整の最終段階に入っていた。
このころになると、中本さんがデバッグに入って細かな穴が見えるようになっていた。ぶっちゃけるなら最後まで遊べるようになったところで、自分も遊ぶべぇって話だが、もちろん何も知らない初プレイの人ってのは凄く大事で、結構決定的なモノを見つけてくれる。
「岩崎ぃ! 2のボスが倒せないべやあ!」
なんてセリフのが、その一つだ。
イース1ではボスは体当たりで倒すもので、イース2ではファイアの魔法で倒すもの(違うボスが2匹ほどいるが)だが、イース2では誰も魔法の使い方を教えないし(もともとのPC版ではマニュアルに書いてある)、誰も「ボスにはファイアの魔法しか通用しない」なんて言わない。しかもマズいことにザコは別にファイアの魔法でなくてもイース1と同じように倒せてしまう。
つまり、ファイアの魔法をとっても使い方が分からないし、ボスはファイアの魔法でなければ倒せないこともわからないわけだ。
まあ使い方のほうはメニューで選択すりゃ、ボタンも押してみるだろうし、ボタン押せばファイアが飛び出すんだし、マニュアルにも書かれているんだからなんとかなるだろう…ということにして、ボスをファイアの魔法以外で倒せないってことを教えるために、神官の像に「勇者よ、魔法でなければ巨大な怪物を倒すことは出来ない」などといわせることで切り抜けた。ところで「勇者よ…」という言い方はあまり好きじゃないのだが、イース2では導きの巻物とか結構「勇者よ」って書いてあったりする。

【注】ところで中本さんのセリフには「べぇ」が入っているのは、中本さんは北海道弁の人であり「だべさ」と「べぇ」は、北海道で最も聞く語尾…少なくとも1988-92にはそうだったので、僕は死ぬほど聞いた。
使い方としては「岩崎ぃ、酒飲みにいくべぇ!」、「これはバグだべさ」、「そんなんだめだべさー」と、こんな感じ。


当たり前のことだが、9月ともなれば(ビジュアルシーンのような固定されたものを除いて)細かい作業でないといけないわけだが、ともかく様々なデバッグや細かい付け加えなどをしていた。
それに平行して「オリジナルにあって、PCエンジン版に無いもの」がないかを洗い出す作業をしているうちに見つけて悩んだのがジラの家でコメントアウトされているソースだった。
知らない人のために説明しておくと、ジラの家はイース2の一番最初の基地になるランスの村にある家で「地下室から夜な夜な気持ちの悪い音がする」とか言われ、地下室に入り、イカニモなアイテム「悪霊の鈴」を鳴らすと壁を破ってドサ~~~ッとモンスターが現れ、その先には落盤でいけなかった神官の像があるって場所だ。
だいたい、そんなところでそんなもん手に持って鳴らすな、とか思うが、それはともかくとして、初めてイベントを見るととてもビックリして、最初のうちは非常に危険な場所であると同時に、ある程度レベルが上がると、大変に効率のいい経験値稼ぎの場になるという、とてもよく出来た場所になっている。
そして経験値が1になっても、最後までここで稼ぎ倒して、レベル最高にして挑む人が非常に多い超メジャー経験値稼ぎの場だったわけだが、ここのソースを読んだとき、びっくりした。
サルモン神殿で銀のペンダントを手に入れると、ジラが「君のおかげで地下室のモンスターは退治できたよ」と言って、地下室に入れなくなってしまう…というソースがコメントアウトされていたのだ。
これを復活させるかは、かなり迷った。というのも、デバッグしていて、結局、みんなジラの家で経験値を稼いでレベルを上げ倒してしまうからだ。ならば、そうしてしまうほうがいいのではないか…と考えたが、結局、止めた。
というのもだ、これは多分、結局、オリジナルのスタッフも同じ思考をたどったと思うのだが(後半戦のフラグをチェックしているということは、デバッグでもプレイして、結局コメントアウトしたんだと思うので)、仮にコメントアウトせずに実際に使えなくしたとしよう。そうすると、経験値を稼ごうと思ってきたのに(突然)稼げなくなったことになる。
そして経験値を稼ごうとしたということは、ボスに負けた・きつく感じたといった理由だ。その状況で、いきなり使えなくなるというのは理不尽以外の何者でもない。
また仮にセーブデータがあったら、それに戻ってレベル最大まで上げちゃうだろう。そして、当然レベル最大まで稼ぐだろう。それはバランスとしてどうよ、という話になる。
つまり「いつでも使えるからこそ、逆に適当な所で使うのを止めて、負けると使う…を繰り返すのだ」という判断だ。
次に経験値は最後にはすべてのザコが1になるように出来ている。そこで1000単位の経験値を稼ぐなら、どう考えても一番楽なのがジラの家で、これを潰すのはやはり理不尽だ。
だから、コメントアウトしたのだろうし、僕もこのイベントは復活させないことにした。
また、このころはダームだのボスのバランス&演出に集中していた時期でもあるのだが、ちょうどこの時期に付け加えた大きなパートがダームとの最終決戦で橋が落ちる。最初から案としてはあったが、間に合うかどうかわからなかったのが、間に合うと確信できたので入れたイベント。
もともとのPC版では、ドアを開けるとダームがいてセリフしゃべって、最終決戦で全くなにも演出がなかったので、ここに橋を入れてくれ、と進藤に頼んだのがソレ。
ドアを開けると真っ暗で、橋が一本あり、アドルが走っていくに従って橋に稲妻が落ち、どんどんと落ちて消えていく。そして橋の先にはバトルステージがあり、ダームが待っている…という仕掛け。
底なしの穴の上を走っていく雰囲気を出したかったのだが、イマイチ自分のイメージとは違う感じになってしまった。
イメージのモチーフは銀河鉄道999の最後の機械化母星がバラけてくシーンだったが、底なしの雰囲気がうまく出なかった。当時はどうすりゃいいかわからなかったがVRAMは少し余裕あったはずだから、今から考えれば、底に薄暗く青い光とかあれば、深さがもっとイメージできたのにと自分の演出力のなさにがっかりしてしまう。

全くの余談だが、銀河鉄道999は、高校時代に見たときは面白い映画だと思っていたのだが、時が経ってから見ると、実に散漫な構成の映画でびっくりしてしまった。映画を沢山見ることから来る「目の肥え」というヤツは結構怖いものだ。

どうしてこの演出入れたのかというと、ともかくPC版で衝撃的だったのが最終決戦で背景が炎になってアニメした瞬間だった。オープニングどころではなく、本当には腰を抜かした。実はハドソンの開発で一番最初にエンディングに到達が自分だったのもあって、その瞬間、後ろで見ていたギャラリーから「おおー!」という声が起こったほどだ
だが、反面、このシーンの手前が弱いと思っていた。なんせ普通のボス扉を開けるとふつーのボスルームがあって、そこで偉そうなセリフを言って、突然炎。これじゃ、あまりにタメがなくてもったいない…というわけで作ったわけだ。
いろいろな都合上「負けるといちいち橋が落ちるよ?」とHaHi君に言われたのだが、そこについては目をつぶることにした。なんもないよりは絶対にいいと思っていたし、数秒の演出だ。
ところでダームに関係したことで、21年の間、誰も書いたのをみたことがない演出について、一つ触れておきたい。
ダーム戦ではHaHi君が考えた演出が一つ入っている
それは背景でアニメする炎の色がダームのHPに応じて変化していくというもの。最初は赤い炎がHPが減っていくに従って青くなっていく。
ある日、HaHi君が「こんなんやったんよ、岩崎さん」って言って見せてくれた。カッコイイしやってもらってまるで良かったが、当時「戦闘に必死で後ろを見る余裕はないと思うんだよね」と言っていたのだが、予想が当たってしまった。
21年経っても誰も触れたのを見たことが無いので、ここで書いておく。戦闘時の炎の色が変わっていくのはHaHi君のオリジナルである
そしてダーム戦で、一番悩んだのがバランスだった。
というのも、レベルを最大まで上げればさくま先生や桝田さんでもクリアできて、なおかつ低いレベルでは歯ごたえあるバトルを楽しめる…そういうバランスを作るためには、ダームにどういうパラメータを設定すれば思いつかず、毎日四苦八苦していたのだが、ある日、スゴいインチキなアイディアを思いつき、一気に解決した。

1)自分のバランスでは54以下では実質的にダレスを倒すことはできない(イースでは=与えられるダメージ=自分の攻撃力-敵の防御力で、これが0以下になるとダメージを与えることが出来ない)。
2)言い換えるなら、ダームと戦うのは55,56,57,58,59,60,61の6レベル。
3)ダームと戦うときの装備は盾と魔法を除けば実質固定。違う装備は即死で構わないレベル(だいたいクレリアソード以外では当たり判定がでない)。
結論:
6レベル分の戦闘用の特別なテーブルを用意して、アドルのレベルに応じて参照すれば、こちらの思った通りのバランスを作ることが出来る。

というわけで、以下はイース1・2の恐るべき(笑)秘密。

1)ダームとの最終決戦では実はアドルのレベル以外なにも見ていない。
2)アドルのレベルで、ダームに「どれだけダメージを与えるか」と「どれだけのダメージを受けるか」が決まる。攻撃力とか防御力は関係ない。
3)クレリアソードでなければ、与えるダメージは自動的に0
4)クレリアアーマーでなければ、ダメージ大幅アップ
5)クレリアシールドでなければ、ダメージ大幅アップ

つまり、PCエンジン版イースでは、ダームとのバトルではレベルと装備しか見ていなかったわけだ。
インチキといわばいえ。だが、ゲームは面白いことが絶対の正義で、それ以外はどうでもいい。こういうのが演出というものだ、と僕は言いたい。
そして、こうすることによってレベル61…つまり99999で、圧倒的に強いアドルを作ることが出来、さくま先生だろうが、桝田さんだろうがクリア出来る、と確信する強さに出来たのだった。
イースはもう完成寸前だった。

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3件のコメント

  • AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 5.1; Trident/4.0; .NET CLR 2.0.50727; .NET CLR 3.0.4506.2152; .NET CLR 3.5.30729)
    PCエンジン版はダーム戦で「女神の指輪」を使わないと、降ってくる隕石?を避けられずボコボコにやられてしまいます。
    最大レベルでも同様なので指輪を使わせる仕様になっていると思うのですが、使わないとシナリオ上不自然だからでしょうか?
    でも女神の指輪を使うと生命復活薬が使えないんですよね。レベルが上がるとシールドの魔法の持続時間が延びるとか、ヘタな人のための救済策があると良かったんですが・・・
    PC88版では生命復活薬がないと最大レベルでもお手上げの私です(笑)

  • AGENT: Mozilla/5.0 (Windows; U; Windows NT 5.1; en-US) AppleWebKit/533.4 (KHTML, like Gecko) Chrome/5.0.375.127 Safari/533.4
    不正確なので修正。
    PCエンジン版の、女神の指輪の仕様はPC版と同じで、つけていないとダームの弾の速度が大幅に上がります。ただ速度の上がりはPCエンジン版の方が上です。
    ちなみにシールドの魔法の使用可能時間…というか、食らったときに減るMP量が下がるので、使用可能時間は延長されています。

  • AGENT: Mozilla/5.0 (X11; U; Linux i686; ja; rv:1.9.0.15) Gecko/2009103012 Firefox/3.0.15 Flock/2.5.5
    ダーム戦で橋が落ちていくのを見て「お!これいいな、決戦らしい雰囲気がでてるなぁ」と思いながらダームに挑みました。私には、底なしの深い闇の中へ落ちていく感じが伝わってきましたよ。
    拝読していて思いますが、より多くの人を楽しませよう驚かそうといった、岩崎さんをはじめとする制作者の方々の想いが詰まった作品を楽しむ機会があったことは素直に嬉しく思います。

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