補足(1):天外世界の創造者

コメントで質問された事には、あとで触れることも、今書いたほうがいいことも、いつ書くか迷うものもあるのだけど、いつ書くか迷うけど、といってほったらかしにしておくのも難しい事を補足、として付け加えながら書いていくことにした。
今回は『原作者』についてや、背景設定などについて。
公然の秘密だろうとなんだろうと、僕がかかわって20年経っていようと、ネタバレはネタバレだと思うので、以下続きにしておく。


今回のこの話は書いていいのか、かなり迷ったのだけど、少なくとも書いて害があるとは思えないし、実質的に広井さんもあだちさんも認めてしまっているし、むしろ広井さんとあだちさんがどれだけえらいのか、はっきりすると思ったので書くことにした。
原作者のP.H.チャダについて。
当時の雑誌には原作はスミソニアン博物館東洋研究第3主事の東洋研究家、P.H.チャダ著『FAR EAST OF EDEN』って本で、これをたまたま見つけて読んで面白がった広井さんが、この舞台をゲームにしようと考えた…なんて紹介されているけれど、これは創作物語だ。
だから原作者も創作。
当たり前だけど、スミソニアン博物館の歴史を探しても、こういう人物がいた記録は見つからないし”far east of eden”を検索しても、出てくるのは日本の天外に関係するページばかりだ。

2011年現在の検索エンジンで検索すれば、”far east of eden”で検索して出てくるページがbingだろうがgoogleだろうが日本ばかり。googleに至ってはこれってコレじゃね? なんてとんでもない単語で確認してくるので創作だとネタバレしてしまう。
インターネット時代になってから、こういう本当にありそうな面白い嘘をつくのが難しくなったなあと思う。

ペンネームについて説明するとチャダは「あだち」のアナグラム(文字の入れ替え)。
P.Hは広井王子=プリンス・広井=Prince Hiroi=P.H.。つまり生みの親二人の名前から作られた人物だ。
ちなみにチャダの著者近影のイラストは、あだちさんを西洋人風にアレンジしたものだ。

■2011/05/03追記
コメントで質問されて、確かにそうだと思ったので若干の追記。
聞いたのはレッドの忘年会のときだったが、これが「事実なのか?」と質問されたら「僕の記憶では事実だ」以上のことは言えない。
僕は聞いたとき「はーなるほど」と思ったけれど、ペンネームはあだちさんが考えて、たまたまP.H.とつけたら、それが広井さんと被った…という逆の話が本当だったのかも知れないし、僕をびっくりさせる冗談だった可能性だってある。
■2012/01/01さらに追記
この件について、僕はかつがれていたということが2011年の冬コミで判明した。
というのも、ファンの方が、実際にあだちさんに聞いてみて、返事が返ってきていたのだ。
あだちさんからの返事によると、P.H.はあだちさんが好きな小説家などの名前から作られているということ。つまり、僕は1990年のビンゴでSFCを持っていった広井さんを見ながらスタッフが教えてくれた話に20年かつがれていたわけだ。
というわけで、この話は都市伝説であるw

基本的な天外世界のコンセプトを思いついたのは多分、広井さん(詳しくは聞いていないが経緯からして間違いなくそうだと思う)。
アイディアは「西洋人が見た、誤った世界観による日本(ジパング)という設定で、アニメか何かを作ろう」だ。
そして最終的にまとまっていった世界が、16世紀(室町後期~戦国時代前期)の日本を西洋から観た誤った日本観という設定。
どうしてこの時代になったのかというと想像だが、戦国少し前で、日本の基本的な文化の枠組みが出来上がっていて、かつ江戸時代ほど使われておらず、なおかつ鎖国していないので海外との交流を使う事が出来…と非常に自由度が高かったからではないかと思う。
今ではそう驚くようなアイディアでもないかも知れないけれど、この世界観はすごい。本当にすごい。ワタルの世界もそうだし、天外のZIPANGもそうだし、サクラ大戦の太正浪漫で歌劇で蒸気でファンタジーなんて世界もそうだけど、広井さんという人は、こういう大枠を考え付くのが本当にうまい人で、感動してしまう(酒の席で話すだけなら誰でも出来るが、スポンサーがお金を出してくれる所まで説得するのが難しい)。
「だってジパングだもん」の一言で、日本の歴史から世界の歴史から面白いところをザクザク持ってこれて、ファンタジー化出来るのだから、まったくムチャだ。

この手の並行世界的なアイディアは、SFやファンタジーでは、懐かしのP.K.ディックの『高い城の男』なんかに代表されるごく一般的なアイディアだったが、1980年代半ばの日本という点で考えたとき、間違っても一般的ではなかった(過去でなければ例はある)。

このジパングという大枠を考えたのが広井さんなら、細かい世界設定を作ったのがあだちさん。
あだちさんという人は、ものすごく日本の歴史に詳しい人だ。しかも理由は知らないけれど、少数民族や当時(16世紀あたりの)の日本からすると辺境とされていたところの歴史について、とても詳しかった。
で、あだちさんがコンセプトとして思いついたのが「日本(ジパング)の歴史の裏にいた火の一族」
多分、もともとの火の一族ってアイディアを思いついたのは広井さんだと思うのだけど(天外2の最初のお題の設定などからしてそうだと思う)、これにあだちさんが「力を持っていたせいで、恐れられ迫害されていた」という肉付けを行った。
どうしてそうなったのかは推測でしかないけれど、あだちさんがまず少数民族の歴史に興味を持っていたことに加えて、火の一族を前面に出すと「火の一族がそんなパワーを持っているなら、どうしてジパングは火の一族が支配する世界になってないんだい?」という疑問が出てくる。
これを「火の一族は力はあるが人数が少なかったので時の権力者に迫害されたのだ」とすれば、表に出すことなく力のある一族を出す事ができるので、こうしたのだろうと思う。
かくして、あだちさんの手によって、天外世界は「世界を揺るがせる力を持っている火の一族は少数民族であり、かつ、その力ゆえ一般の人達から恐れられたり、場合によっては迫害されていた」という世界観が作られた。
ところがこのあだちさんの考えた設定の上にあだちさんが作った天外魔境1のストーリーは複雑でゲームにさっぱり合っていない上に、さらにヒーローのはずの主人公が日陰者の設定で、当時の明るくストレートな冒険活劇(風)を期待されるゲーム事情にあっていない。しかも開発されているゲームはアクションRPGで…というので、桝田さんに白羽の矢が立ったという話は書いた。
でも、ここでとても大事なことだけど、この迫害された日陰者って火の一族の設定は実は桝田さんは変えていない
たしかに、桝田さんはゲームのために大量に設定を付け加えたし、ゲームで使いやすく時代設定や世界設定を整理したし、ゲームシステムも大幅に整理したし、キャラクタの個性も強烈にしたし、世界観をいろいろ修正した。
でも桝田さんは火の一族は迫害された歴史があるといった、根幹に関わる点はいじっていない(ただセリフを丁寧に読まないと分からないようにはしてある)。それどころか、天外1から2に進むとき、これをさらに拡張する方向に進んで、ジパングの世界は火の一族と根の一族がお互いに戦ったが、これは通常の歴史ではない裏の歴史と位置づけて、火の一族も日陰者なら、根の一族も日陰者にしてしまった。
そして迫害された火の一族に対応する、同じように迫害されていてかつ敵対している根の一族や技術力はあるけど恐れられたイヒカ、さらに元々は根の一族だったけど逃げた天狗族、などと世界観を肉付けしていったわけだ。
つまり天外世界を思いつき、方向を決めた人が広井さん。
それを肉付けして、基本的な世界観を作ったのがあだちさん。
そして、それを拡張して豊かな世界にしたのが桝田さん、とそういうことだったのだ。

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8件のコメント

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    こうやって改めて整理されているのを見ると、今後この3人が天外魔境にそろって関わることが無さそうなのは残念です。
    ペンネーム繋がりで質問しますが、広井王子というペンネームはどういう由来で付けられたのかご存じですか?
    天外1開発の頃に出たオレンジ色の表紙の本には、本名らしき別の名前で記載されていたので、「王子」という名前で活動するようになっても雑誌で写真を見るまで同じ人だと思っていませんでした。

  • AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 5.1; Trident/4.0; .NET CLR 2.0.50727; .NET CLR 3.0.4506.2152; .NET CLR 3.5.30729)
    広井王子という名の由来は、ドラクエ2をプレイするとき主人公の名前を「ひろい」にしたら王子様なので「ひろい王子」になった・・・というネタのような話を何かの記事で読んだ記憶があります。さくまサン絡みの記事だったと思うのですが、本当のことでしょうか?ドラクエ2発売以前から広井王子というペンネームが使われているのなら怪しいもんですが。

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    天外1のチョット前までは本名で活動していた、というのは知ってはいますが、広井王子、というペンネームの由来は残念ながら知りません。

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    ゲームセンターCXの第1シーズンの第4回に広井さんへのインタビューでは、
    本名の広井照久では印刷した時に文字が小さいと潰れるから王子にしたと言ってましたよ。
    たまたま遊んでたドラクエに「王子」という単語が出てきたからこれでいいやとかそういうノリらしいです。

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    チャダ氏の件は質問した後にちょっと後悔していたんですけど、きちんと答えていただいてありがとうございました。
    当時はP.H.チャダが書いた原作本を読みたくて読みたくて仕方がなかったのを思い出しました。
    火の一族と根の一族は表裏一体と言いますか、根底で背負っているものは同じなんですよね。
    最終的には、卍丸のあの名台詞が三博士の本音みたいなものですし。

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    あだちさんを西洋人風にアレンジしたP・H・チャダの肖像画からもわかるように
    「ポール・ヒエロニムス・チャダ」はあだちさん個人のことなのに
    その名前の由来に広井さんが含まれるのっておかしくないですか?
    岩崎さんは「プリンス・ヒロイ」説をどこで聞いたんですか?

  • AGENT: Mozilla/5.0 (Windows NT 5.1; rv:2.0.1) Gecko/20100101 Firefox/4.0.1
    >> ふつぬし 様
    確かレッドの忘年会です。
    これは僕の記憶なので「事実なのか?」と質問されたら「僕の記憶では事実だ」以上のことは言えません。
    また「それって冗談だったんじゃないの?」と質問されたら「そうかも知れないね」以上のことは言えません。
    僕は、そう記憶しているということです。

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    >>takeさん
    昔、TV番組(聖PCハイスクール)で、同様のことを広井さんが自ら仰られてました。。
    「ひろい」という名前でプレーされていて、呼称が○○王子なので、それをペンネームにしたということでした。

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